第36話 うわ。子どもに愛想振り撒いてる。
焦茶の髪に、緑の瞳。
あの頃よりもどことなく貫禄があるような気がしたけれど、そうか、髭を生やしたのか。
あまり似合っていないような気がする。
あと、老けた。
こんなことを言ったら怒られそうだけども、私が子どもの体になっているからか余計に、「おじさん」と呼びたくなる感じだ。
当たり前である。もともと私よりも1つか2つ上だったのだから、もう30台も半ばのはず。アイシャからしたら父親だっておかしくない年齢だろう。
むしろそれにしては若く見える方かもしれない。
彼は私の方をちらりと見ると、愛想良く笑って手を振った。
その余所行きの仕草に、ぞわぞわと鳥肌が立つ。
うわ。子どもに愛想振り撒いてる。そういうタイプじゃないくせに。
少なくとも彼が「そういうタイプじゃない」ことを知っているくらいには、互いのことを知っている。そういう関係性だった。
何故彼がここに、と考えて、思い至る。
禁術は魔法管理局の管轄だ。謹慎中のノアの経過観察も同様だろう。
それならばノアの態度にも頷ける。
「どーも、大魔導士様。結婚式ぶりですね」
フェイはノアの無愛想な態度を気にする風もなく、ずかずかと部屋の中へ入ってきた。
そしてノアの顔をニヤニヤ笑って覗き込んだ。
ああ、その顔、よく見たなぁと思う。
「どうです? 謹慎生活の方は」
「別に、何も」
「何もってこたないでしょう」
フェイがくつくつと喉の奥で笑う。
ダイニングテーブルで両手にお菓子を握りしめている私の様子を横目にちらりと見て、ノアに向き直る。
「まさか大魔導士様が子守りとは」
「くるる」
突如、ノアでもフェイでもない何かの鳴き声?が聞こえたと思ったら、わずかに空気の動くような音がして……頭にずしりと重みが加わる。
何かが乗っかってきたようだ。
重たい。首がぐらぐらする。
そして頭皮に尖ったものが突き刺さっていて痛い。これは、爪?
その感触に、覚えがあった。
そっと頭に手を伸ばす。
上に載っているふわふわして暖かいそれを包み込むと、頭皮に刺さっていた爪が外れた。
そのまま、手を下ろしてふわふわの正体を正面からとらえる。
「あら。珍しいな。そいつが懐くなんて」
ふわふわもこもこしているそれは、くるると鳴いて瞬きをした。
羽毛がやわらかくて、あたたかくて、茶色くて。
それは、私のよく知る生き物だった。
「フェリ!」
「お?」
咄嗟に名前を呼んでしまってから、あっと口を覆う。
しまった、つい。
旧知の友人……一人は鳥だけど……に立て続けて出会ったものだから、驚きで完全に気が抜けてしまっていた。
慌てて、その場を取り繕うための言い訳を絞り出す。
「ええと、お名前が、足輪に。違いましたか?」
「よく見つけたな、お嬢ちゃん」
フェイが私の頭に手を載せた。
ぽんぽんとやさしく撫でられる。
「友達の忘れ形見でね。一応名付け親みたいなもんだから引き取ったんだが……最初は懐かなくて苦労したんだ」
手の中のふわふわに目を向ける。
そうか。私が死んだあとは、フェイが引き取ってくれていたのか。
確かにフェリはあまり彼には懐いていなかった。というか私以外にはあまり懐かず、彼もよく髪を齧られていたものだ。
名前の由来、忘れかけていたけれど、確かずっと「フクロウ」と呼んでいたのをフェイが名前をつけてやれというから、彼のそれから文字ってつけたのだったか。
フェリの額のあたりを指先でかいてやると、心地良さそうに目を細める。かわいらしい。
もしかして……私がグレイスだと気づいて、飛んできてくれたのだろうか。
動物には人間にはない野生の勘ともいうべきものがあると聞く。魔法動物ならばなおさら、そういったものが強く働くこともあるかもしれない。
多分捕食しにきたんじゃないんだと思うし。たぶん。この体が小さいとはいえ、さすがに。
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