第4話 いや誰???? 誰の話?????
え、ちょっと、待って。
何で????
何で私を??
赤の他人である私を生き返らせるために、禁術に手を出すなんて。そんな奇行に走る理由が分からない。
よほどの魔法狂であれば、純粋な好奇心でもって、ちょうどいいからやってみようとやらかすことはあったかもしれないけれど。そんな人間はそうそういないだろう。
そこで、気づいてしまった。
私がアイシャ・スペンサーとして、再び生を受けた理由に。
いや、理由というより、原因だろうか。
彼の言う通り術式は完璧だったのだろう。今目の前にいる彼の魔力量は私の全盛期をも凌駕していると感じる。大魔導士と言うからには少なくとも魔法大学を首席で卒業しているはずだし、理論も知識も十分のはず。
この国にはあらゆるところで、禁術の使用を防ぐための術式が張り巡らされている。
禁術を検知すると即座に魔法管理局から調査員が転移してきて、使用者を捕縛するのだ。
……何故そんなことを知っているかといえば、私も禁術をやってみたくなっていろいろと調べたからだ。
検知用の魔法陣を解除すればいいわけで、まぁ仕掛けた側もそんなものは百も承知で、妨害用の術式が何重にもかけられているのだけれど……あれはパズルみたいで実に楽しかった。
彼はそこまではしなかったのだろう。
禁術の発動と同時に転移してきた魔法管理局の精鋭たちに取り押さえられ……その結果が、謹慎である。
彼も管理局も、失敗したと思ったのだ。蘇生術は成功しなかった。そう、思い込んだ。
実際は私が……いや、私の魂というべきか……が、別の人間として生を受けたことなど、知る由もなく。
……どうしよう。
私自身が禁術の被験者となったことはたいへん興味深い。
たとえば身体を伴う蘇生にならなかった理由とか。
私の死に様が魔法の暴発によって木っ端微塵どころか消し炭になるという有様だったことが関係しているのか、それとも私に加護が存在しなかったことに起因しているのか。
興味深いが、それはさておき。
私が、というか私の前世がグレイスだと、伝えた方がいいのか、どうか。
仮に彼が私のことを生き返らせたいと思うくらい慕ってくれていたとして、「私実はグレイスの生まれ変わりなんですよ〜」と言ったところで「そうなんだ! わぁい! 先生が生き返ってくれて嬉しい〜!」となるかと言われると、何となく、そうはならないんじゃないかという、悪い予感がひしひしとしていた。
「あのー……6歳児質問で恐縮ですが」
「……何?」
恐る恐る問いかけた私に、彼が低い声で無愛想に応じる。
昔の彼はもっと可愛らしい声だったと思うのだけれど、声変わりするとこうも変わるものだろうか。
「も、もしかして、その先生って人が、不完全な形で蘇生してる、なんてことは」
「は?」
ぎろりと、彼がこちらを睨んだ。
ドスの効いた声に思わず縮み上がる。
本当に、私の知るノアと同一人物だろうか。
それとも、私が彼の家庭教師だったから、猫をかぶっていて……こちらが彼の本質なのだろうか。
「僕の理論も術式も魔法陣も完璧だった。そして何より……生き返らせたかったのはあの、完璧な先生だよ。不完全だなんて有り得ない」
「か、かんぺき」
私の言葉に、彼は当たり前だろうと言わんばかりに頷いた。
そしてこれまでの無愛想な印象が嘘のように、立板に水がごとくつらつらと語り始めた。
「君は知らないかもしれないけど。先生は素晴らしく特別でいて、すべてが完璧な存在だったんだ。飛び級で魔法大学を卒業して、史上最年少で魔法局に入って、史上最年少で大魔導師の称号を得て。魔法だけじゃない、美しくて気高くて、やさしくて朗らかでおおらかで、それでいて茶目っ気があって笑顔がかわいくて。誰からも愛されて尊敬される、そんな人だった」
いや誰????
誰の話?????
私は目を瞬くことしかできない。
今一瞬、ほんの一瞬だけ、昔のノアの面影を見た気がした。
のだけれど。
「完全な存在じゃない先生なんて、先生じゃない。不完全だなんて、あってはならない、許されないことだ」
目が怖い。
どういう、どういうこと??
魔法学園に入った頃の彼はこんな澱んだ目をしていなかったはずだ。もっときらきらした、希望に満ちた目をしていたのに。
私のことだって、慕ってくれているとは感じていたけれど、こんなにも盲信的じゃあなかったはず。
死んだら人は美化される、と言うけれど。しばらく会っていない間に、綺麗な思い出として、子どもの頃の憧れのお姉さんとして美化されていたとして……でもそれにしたって限度というものがあると思う。
これは、やばい。やばすぎる。
今万が一カミングアウトしようものなら、良くて虚言癖のある幼女として扱われるか、最悪の場合「は? お前みたいなちんちくりんが先生? 先生を愚弄する気か?」とか言われて消し炭にされる。
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