【短編版】最弱と思われてた「うんちを動かすスキル」で大量討伐してしまった結果、史上最速で冒険者ランク【SSS】に認定され名実ともに世界最強になってしまう
めで汰
前編 ブリボア村の死体漁り
世の中には。
冒険者に「なるべくしてなる人間」と。
冒険者に「なるしかなかった人間」がいる。
前者は、強力なスキルを持って生まれた者。
もしくは力が強い者。
頑丈な者。
魔力や知力に
器用な者や、交渉に長けた者。
そういった者たちだ。
そして、後者は。
弱いスキルしか持って生まれなかった者。
もしくは力の弱い者。
魔力や知力に恵まれなかった者。
不器用な者や、交渉が
そういった者たち。
言うなれば、まともな仕事に
そして、ボクは。
後者だ。
ゴリ……ゴリゴリ……ゴトッ。
「ふぅ、これで今日の狩りは終わりっと」
ボク、プゥープ・ブラウン十六歳。
たった今、死んでいる獣の牙をのこぎりで切り落とし終わったとこ。
この牙が今日のアガリ。
あとは村に戻って、たまに町に出かける雑貨屋のおっちゃんに渡して終了。
そうしたら、雑貨屋のおっちゃんが町に行った時に、ついでに
手間賃は取られるけど、いちいち町まで行くのも面倒だし。
っていうか、実は。
ボクは生まれてこの
だから町なんて行く気がしない。
ってのがホントのところ。
なんで村から出ないのかって?
それはボクの「スキル」が関係してるんだよね。
学校を卒業する十四歳の時に、誰でも一つだけ授けてもらえる「スキル」。
いいスキルをもらった同級生たちは、喜んで町へと飛び出していった。
きっと今頃、町でパーティーを組んで冒険をしたり、それぞれ自分に向いた仕事に
でも、ボクは村を出ていかなかった。
いや。
出ていけなかった。
だって、ボクのスキル──。
うんちを動かせる。
なんだもん。
え、なにそれ。
スキル名すらないし。
うんちを動かせるスキル。
それがボクの唯一のスキル。
授けてくださった
こんなんじゃ、町に行って冒険者ギルドに登録すら出来やしないよ。
って、わけで。
ボクは村に残って自称冒険者。
つまり、村の周りをプラプラ歩きまわりながら動物なんかの素材とかを集める人、をやってる。
他にも、村の人から頼まれたら肥料用の
つまりは、何でも屋さん?
みたいなことをしてる。
なんちゃって冒険者。
冒険者っぽいことをしてるだけの
それが、ボクだ。
「おう、プゥープ! 今日も素材ゲットか! まったく毎日毎日、お前はほんっと運がいいな!」
この村唯一の雑貨屋のおっちゃん(前歯が二本抜けている)が声をかけてくる。
「アハハ、なんかツイてるみたいで、最近」
「で、また皮や肉はダメだったのかい?」
「はい、腐ってたので、いつも通り埋めてきました」
「ったく……若いうちから動物の死体
おっちゃんをはじめ、村の人には「動物は死んで腐ってた」って言ってる。
なんでかっていうと──。
ボクのスキル「うんちを動かすスキル」で動物のうんちを逆流させて
だからうんちの臭いが肉や皮についちゃって売り物にならない。
売り物にならないどころか。
そんな仕留め方をしてるとバレたら、牙ですら買い取ってくれなさそう。
なので「死んで腐ってる動物を見つけたから牙だけ持って帰ってきた」ってことにしてる。
おかげで「死体漁り」なんていう不名誉な名前をつけられちゃったけど……。
まぁ仕方がない。
これも生活のためだ。
「お、そういやプゥープ、帰ってきてるぞ」
「なにが?」
「なにがってお前の同級生だよ、ブリッツ、モリモリ、デュポンの三人。お前、仲良かったよな?」
え、仲いいどころか。
「お、プゥープじゃねぇか! まだこんなクソな田舎にいたのかよ! まぁ、お前にはお似合いだがな! ガハハハッ!」
噂をすればなんとやら。
振り向くと、ボクをイジメてた三人の姿が。
町に行って「本物の」冒険者をやってる三人。
ボクを「うんち野郎」と馬鹿にしてた三人。
「おう、プゥープ、お前まだうんt……グオッ!」
言わせないよ、その言葉は。
ボクに対して「うんち野郎」なんて言葉は、もう言わせない。
「おいおい、どうしたんだよモリモリ。せっかく久々にうんt……ヌガッ!」
「え~、ブリッツもどうし……アガッ!」
三人のお腹の中のうんちの位置。
それを、お尻の穴ギリギリのところまで下げていく。
「ぐっ……きゅ、急に腹の調子が……」
え~っと、ゼンダマキーンさんのお家の
お、あったあった、あそこだな。
ヒョイッ。
ゼンダマキーンさんの家の便槽からうんちを一粒ずつお借りすると、三人のお尻の穴に特攻させる。
「うぬっ!」
「うがっ!」
「ふぁぁぁん!」
よし、これで三人のうんちの位置を元に戻してっと……。
「あれ……オレたち、なんてことを言っちまってたんだ……! すまん、プゥープ!」
「ほんとだ、前に改心したと思ってたのに……すまねぇ!」
「プゥープ! ごめん、今のもう一回やって欲しい!」
急に人が変わったかのように三人が謝罪してくる(最後のデュポンのは無視)。
というのも。
以前、ボクのスキルが馬鹿にされてイジメられていた時。
苦し紛れに、めちゃめちゃ人のいいゼンダマキーンさんの家のうんちを三人のお尻の中に移植したことがあった。
すると、それから三人とも人が変わったかのようにいい人になって、しばらくイジメもなくなった。
ただ、時間が経つとまた元に戻るみたい。
だから、今回もゼンダマキーンさんのうんちを移植して、三人は穏やかになったみたい。
よかったよかった。
ちょっと……急に人が変わりすぎるのも怖いけど、まぁ背に腹は変えられない。
イジメられるか、うんち移植かの二択なら迷うことなくうんち移植だ。
ってことで、改心完了した三人に話しかけることにする。
「で、どうしたの急に? 初めてじゃん、村に里帰りだなんて」
「いや、それがさぁ。この辺でゴブリンの集団が目撃されたらしくてさ。んで、ここが地元な俺らに依頼が回ってきたってなわけよ」
「ゴブリン……? ほんとに? 普段この辺を見回りしてるけど、そんなの全く見かけないよ?」
「プゥープ……やつらをナメるな。ゴブリンは
「しかも奴ら、わざと
「ボクチン、
それぞれ三人がゴブリンの恐ろしさを語ってくれた、その時。
村に、火の手が上がった。
「ま、魔物だぁ~! ゴブリンが攻めてきた~!」
村人の叫び声。
「クソっ! 一足遅かったか! モリモリ、デュポン、行くぞ!」
「ちょっと待て! なにか気配がおかしい! 物陰に隠れろ!」
突っ込んでいこうとする脳筋戦士ブリッツを、スカウトのモリモリが引き止める。
ビュバババババババッ!
モリモリの予感が的中。
森の中から無数の矢が飛んでくる。
「ねぇ、モリモリ?」
ボクは突っ立ったまま、建物の陰に身を潜めるモリモリに話しかける。
「なにやってんだ、プゥープ! 早く隠れろ!」
「あの矢にも、糞尿って塗ってあるんだよね?」
「そうだよ! だから一発でも食らったら終わりだ! 早く隠れろって!」
「ふぅん……なら」
ボクが手をかざすと──。
ピタッ。
村に向かってきていた無数の矢が、空中で止まった。
「ぐぎゃ?」
異変を察知したゴブリンたちが森の中から姿を見せる。
「なるほど、
ゴブリンたちの潜む方に向けてボクは腕を振り下ろす。
シュッ──。
すると、矢が百八十度
クルッ……ズバババババババババッ!
森の中
「ぐぎゃ~!」
「えっ~と、たしか
「プゥープ、今の……お前がやったってのか……?」
驚いた顔を見せるブリッツたち三人。
「うん、ボクのスキルを忘れたの?」
ボクはにっこりと微笑みかける。
「プゥープ、あぶねぇ! 奴ら突っ込んでくるぞ!」
ゴブリンのボス格っぽいのが、ボクに短剣を向けて突撃しろと指示を出している。
「おいおいおい……! こんなに大群だなんて聞いてねぇぞ……!」
「あわわわ……ボクチンの人生、ここで終わりだ……もっとぷりぷり豚の脂身スープいっぱい食べたかった……」
ザッ。
ボクは三人の前に立ちふさがる。
「大丈夫、食べられるさ。脂身だろうが、赤身だろうが。だってボクのスキルは──」
ガッ!
ゴブリンたちの動きが一斉に止まる。
「うんちを動かすスキル、だからね」
ザシュっ!
ゴブリン達の手に持った「糞尿を塗りたくった短剣」が、一斉に持ち主の首を掻っ切る。
「さっ、これでブリッツたちの里帰りも完了かな?」
腰を抜かしてぽかんと大口を開けているブリッツたち。
「お……」
「お?」
「お前、なんでこんなすごい力隠してんだよ! 今すぐ町に来い! ちゃんと冒険者登録しろ!」
「えっ、いや、別にすごくはないでしょ……たまたまゴブリンの武器に糞尿が塗ってあっただけで……」
「それでもだよ! 一瞬でゴブリン数十キルとか伝説の勇者クラスだろ! いいから来いっ! ギルドでちゃんと本格的なスキルの鑑定を受けろ!」
「えぇ……ボクは今のこの暮らしで満足してるんだけど……」
面倒はごめんだ。
町に出て、新しい人に会ったら、またこのブリッツたちから受けてたみたいなイジメに
「うんち野郎」
そう呼ばれて。
その度に毎回ゼンダマキーンさんのうんちを移植するってわけにもいかないだろうし……。
そんなことを思っていると。
「行ってこいよ」
振り向く。
雑貨屋のおっちゃん。
いつもの歯抜け顔が、ちょっとだけ真剣味を
「おっちゃん、でも……」
「お前がどうやって牙を
「死体漁り、って呼んでくれてたんだね……」
「ま、そうだな。お前は、いつまでもこんな村にいるべき人間じゃねぇ。ただ、お前のスキルが、ちとデリケートなものだったからな……。あとは、お前の心の持ちようの問題──みんなそう思ってたさ」
「そう、だったんだね……ボクは気を遣ってもらってたのか」
「だから気にせず行ってきな、プゥープ。辛くなったら戻ってくりゃいい。そうすりゃ、オレもまた儲かるしな! ……って、ぶべっ!?」
胸を張るおっちゃんの頭を、彼の妻がひっぱたく。
「ったく! あんたはボリ過ぎなんだよ! プゥープから頼まれた時の手数料かなりガメてたでしょ!」
「いや、そんな……アハハ……」
「って、ことでプゥープ! 今までの差額分、私がしっかり貯めといたからね! いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたよ。親がいないアンタがねぇ……今までほんとに苦労してきてねぇ……スキルもあんなので……それがやっと報われたんだよ! ここで行かなくてどうすんの!
手渡されたずっしりとした硬化の重みを手に感じながら、おばちゃんの言葉を
「ウンを……」
そう、だな……。
たしかに。
こんな華々しい活躍が出来るのは、一生で一度くらいのものだろう。
なら。
ちょっとくらい調子に乗って町とか行っちゃってみても……。
「町のことなら俺らに任せとけよ! 案内から護衛までなんでもござれだぜ!」
「あぁ、プゥープは命の恩人だからな!」
「プゥープ、うんちイジりたくなったらボクチンのイジっていいからね!」
「おやまぁ、ずいぶんと頼もしい同級生たちだねぇ!」
いいか。
うん。
行ってみるか。
町へ!
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