第25話 リュステールの真実

 橋が完成した翌日、俺はテオドラ一行と別れ、王都に帰還することになった。

 セリアとの別れは辛いけど、テオドラの側にいれば、悪いようにはされないだろう。レムルスのクソ野郎が下種な意図をもって近づいてきても撃退してくれるに違いない。テオドラには口酸っぱく、あのヒヒじじいに気をつけてくれとお願いしておいた。


 3週間、橋を再建するまでの時間も含めれば、約1か月の行程であったが、帰りはあっさりしたものである。ラーケイオスを呼んで、王都まで20分だった。全くこのスピードを他でも出せるようになれば、社会に一大革命を起こせるのだが、今はラーケイオスに俺かリアーナが乗って障壁張らないといけないから、全く汎用性が無いと言うのが玉に瑕である。


 さて、王都に帰還したら、まずその足でドミティウス陛下に謁見し、テオドラの近況を報告したところ、殊の外喜ばれた。その後、アーミス団長にリュステール出現の報告、ソフィアに帰還報告と、いろいろ忙しかった。そう言えば、ソフィアに何で随行しなかったのか聞いたら、「さすがに死んじゃいますから」と言う返事が返って来て、前世、ブラック企業で過労死した自分としては他人ごととは思えなかったよ。






 そんなこんなで出張報告?を済ませた後、再び神殿に出勤して、エヴァ、リアーナと作戦会議である。お茶会じゃ無くて、対リュステール戦用の作戦会議だから、堂々と仕事時間中にやってる。そのついでにお茶も飲んでるけど、それくらいは別にいいよね。


「あんた、相変わらず、あの魔族がアデリア様だって信じてるの?」

「ああ、絶対にそうだ。今回だって『殺してくれ』って言ってたんだぞ。魔族がそんなこと言うはず無いだろ」


 リュステールがアデリアなのでは無いかと言う主張に対し、エヴァは懐疑的である。彼女はその理由について、噛んで含めるように説明してくれた。


「あのね、魔法存在である魔族にとって名前って言うのは単なる記号じゃない。アイデンティティそのものなの。アスクレイディオスみたいに、憑依している対象の名前を名乗っている場合は別として、通常は魔族は名前に嘘はつけないわ。別の名前を名乗ったら、自分が保てなくなるのだから。つまり、あの魔族がリュステールと名乗った以上、あの魔族はリュステールなのよ。アデリア様じゃ無いわ」

「でもあの姿はアデリア様そのものだって言う話だったよな。それはどう説明するんだ?」

「それはアデリア様の容姿が気に入ったから写し取って姿を変えたんじゃないかしら」

「名前がアイデンティティだって言うのに、姿かたちは自由に変えてもいいってのか? 姿かたちは自我を構成する重要な要素なんじゃ無いのか?」

「そこまでは分かんないわよ」


 しかし、アデリア様の姿に変わったって、以前はどういう姿だったんだ? ラーケイオスに以前見せてもらった記憶は遠くからだったから、リュステールの容姿が良く分からなかったんだよな。


『ラーケイオス、リュステールの昔の姿、もっとはっきりわかる記憶は無いのか?』

『あるぞ、見てみるか?』

『頼む』


 ラーケイオスの記憶を覗いて1分後、俺はテーブルに突っ伏していた。


『幼女じゃねえか!』

『魔族の姿はそうあれかしと術式で編まれたもので、実際の年齢と一致したりはしないぞ』

『ロリB〇Aかよ!』


 幼女が大人の大聖女の姿に変わってもその魔族の在り方は変わらないものなのだろうか。いや、絶対にそんなことはあるまい。


「どうしたのよ?」

「いや、ラーケイオスにリュステールの昔の姿を見せてもらったんだけど、幼女の姿で、今と違いすぎるんだよ。あれで、在り方が変わらないとは思えなくてさ」

「ラキウス君、お姉ちゃんはあなたを幼女でハアハアするような変態さんに育てた覚えは……」

「これか! この口か! ふざけてんのは!」

「いらい、いらいれす!」


 思わず、リアーナの口をつまんで強制的に閉ざしてやった。誰もが憧れる王国一の美姫の唇を、唇では無く、手で塞いでやったが、後悔はしていない。まあ、痛がってるし、これくらいにしておいてやるか。


「場を和ませようと思っただけなのに、ラキウス君がお姉ちゃんをいじめるー!」

「はいはい、リアーナ様は黙っててくださいね。ややこしくなるから」


 リアーナがエヴァによよよと泣きついている。このウソ泣きお姉ちゃんめ。エヴァも迷惑そうな表情を浮かべながら、頭をポンポンしている。だが、リアーナは黙る代わりに、真面目な顔になった。


「バカ話はこれくらいにして、ラキウス君、エヴァ様。今回の件は、明らかだと思いますよ」

「どういうことですか?」

「リュステールはアデリア様の魂を持って行ったまま封印されてたんです。400年間も。二つの魂が同じところに400年間閉じ込められてたんですから、そこから導き出される答えは一つですよね」


 リアーナの言にエヴァがハッとしたように顔を上げる。


「……つまり、融合したのね」

「ええ、今のあの魔族は、リュステールであると同時にアデリア様なんですよ。だから、自らをリュステールと名乗ることに矛盾は無いんです」


 一瞬ついていけず、二人に問う。


「それって、俺が言ってたことと何が違うの?」

「あんたが言ってたのは、リュステールの身体にアデリア様の魂がそのまま囚われてるってことでしょ。そうじゃ無くて、リュステールの魂とアデリア様の魂は溶けあって一つになってるって言ってるの」


 エヴァの答えを理解するのに時間がかかってしまった。いや、そうじゃ無い。理解はできたけど、感情が理解することを拒んだのだ。魂が一つに溶け合ってしまった? それってつまり───。


「アデリア様を助け出す方法は?」

「無いわ。あんたはバナナとリンゴのミックスジュースからバナナジュースとリンゴジュースを分離できる?」


 エヴァが俺の前に冷酷な事実を突きつけた。


「アデリア様を解放するには、殺すしかないのよ!」

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