中世ヨーロッパの怖い話

第21話 忘れられた願い

　昔々、小さな村が森に囲まれていました。この村にはある家族が住んでおり、その家族には美しい娘、エレナがいました。ある日、彼女は深い森に住む魔法使いに出会いました。その魔法使いは「忘れられた願い」をかなえると言って、エレナに取引を持ちかけました。

エレナは欲望にかられ、無邪気にも彼女の願いを告げました。彼女の願いは村人たちに永遠に忘れられることでした。魔法使いはにやりと笑いながら、エレナの願いを叶えると、森の中に姿を消しました。

村に戻ったエレナは驚くことに、彼女の存在が村人たちの記憶から完全に消え去っていることに気づきました。友情や家族の絆、そして愛情も、全てが彼女の周りから薄れ、風化していきました。彼女は村の中を歩きながら、願いが果たされたことの後悔に苛まれました。

やがて、エレナは自分が存在しないことで失ったものの重さに耐えられなくなり、深い森へと戻りました。彼女は魔法使いに会い、もう一度取引を持ちかけました。しかし、魔法使いは冷笑し、「新たな代償を支払わなければ、元の世界に戻ることはできない」と告げました。

エレナは代償として、彼女が忘れ去った村人たちの記憶をもう一度取り戻すことを約束しました。しかし、魔法使いはにやりと笑いながら、「願いは一度きり。今度は永遠にこの森に住む運命だ」と告げ、エレナをそのまま闇の中に消し去りました。

以後、村にはエレナの面影はなくなり、村人たちはなぜか彼女のことを忘れてしまったかのように振る舞いました。深い森には悔恨の 囁きが漂い、失われたエレナの魂が永遠に囚われていると言われています。