大嫌いな義母へ~嫁ぐ日に知った私の家族の物語~

八重

前編

 私は義母が嫌いだ──。


 だって、義母は私を嫌いだから。


 私を産んだお母様は、絹のように美しい金髪に、サファイアのような輝きの瞳を持っていて、社交界でも評判の人だった。

 そんな金髪を受け継いだ私は、お父様にも、そして5歳年上のこれまた見目麗しく、日々ご令嬢の評判になっているお兄様からもきちんと愛情を受けて育った。

 しかし、お母様は私が10歳になった翌月に流行り病にかかり、そのまま亡くなってしまった。

 お母様を大変愛していたお父様は、むせび泣き、墓石に頬を擦り寄せて別れを惜しんだ。

 そんな姿を後ろから見つめていた私の手を、お兄様がぎゅっと握りしめた。


『大丈夫、フェリスのことは僕が守ってみせるから』


 そう呟いたお兄様を見上げると、唇を噛み締めて涙を堪えていた。


 お母様が亡くなって一年が過ぎた頃、我がルーベリア公爵家に新たな人物がやってきた。


「これからは、このアリアがお前たちのお母様となる。仲良くしてほしい」


 アリアという名でお父様に紹介された人物は、何も言わずにお辞儀をして私とお兄様に挨拶をした。

 義母はお母様より背がうんと高くて、美人な面持ちだった。

 お母様のようなウェーブのかかった髪ではなく、真っすぐで真珠のような色。


「よろしくお願いいたします、アリアお義母様」


 そう言って挨拶をしたヴィラートお兄様は、私にも挨拶を促したが、まだ気持ちの整理がつかなかった私は何も言わずにその部屋を後にした。


 義母をそれからしばらく観察していたが、どうやら彼女はお父様の部下だったらしい。

 お父様は王宮で経理部門の責任者をしているが、その部下の一人が義母。

 女性で部門働き、いわゆる士官として一定の社会的地位を得て働いている人は少ない。

 義母は類稀なる賢さを見出されて、子爵令嬢でありながらその地位を得たそう。

 そんな彼女がなぜうちに嫁いできたのか、私はいまだに謎だった。



 義母が嫁いできて5年が経った──。

 私は16歳となり、かねてから話があがっていた第二王子のミスリル殿下の婚約者となった。

 元々ミスリル殿下は、ヴィラートお兄様の御学友で、仲がよく、お兄様は『お前になら妹を渡してもいい』なんて言ってけど、本当にそうなるなんて思わなかった……。


「フェリス、寒くないかい?」

「はい、殿下がこのマフラーをくださったので、寒くないです!」

「よかった。君が風邪を引いたりしようもんなら、ヴィラートになんと言われるか」


 殿下は微笑みながら、私の手を握った。

 ゆっくりと私と殿下の唇が近づいて、そっとそれは触れ合った……。


 殿下と会った後、自邸に戻った。

 すると、廊下で義母とばったり会う。


 目が合うがどちらも口を開かない。

 止めていた足を私は義母の方へと向けて動かし、彼女の横をすり抜けた。 


 何も言い合わない。

 そうしてすれ違ってお互いの部屋へと向かっていく。


(あの人は苦手……)


 それに義母も私が嫌いだ。

 義母が嫁いできた翌日のこと、庭で遊んでいた私を無理に自邸に引っ張り込み、そのまま私の部屋に閉じ込めた。

 前日に見つけた花をあそこに植えたから見ていただけなのに。


 義母の私への嫌がらせは何十回もあった。

 学院の友達と行く予定だったカフェも行かせてもらえなかったし、友達からもらったプレゼントのぬいぐるみも捨てられた。

 お父様に嫌がらせを全部伝えたけど、代わりに買ってあげるから我慢しろと言われるばかり。

 ヴィラートお兄様に言ったら、今度僕が一緒にカフェに行ってあげるからとなだめられるばかり。


 なぜみんな義母の味方をするの?


 私は愛されてないの?


 そんな風に思いながら、ついに私と殿下の正式な婚姻の儀の日が訪れた──。

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