第2話 ソウル・オペレーター31
いつから、『ソウルズ・エンジン』は宇宙を
それらすべてのコントロールを理解し、使いこなすのは本当に難しい。かといって、教官のような存在が居るわけでもない。だから、ソウル・オペレーターになったら、他のソウル・オペレーターから操作方法を学びつつ、自分で確かめるしか道はない。なのに、その間でさえも魂は絶えず燃える。あまりにも残酷で、あまりにも悲しいが、それが俺たちソウル・オペレーターに突き付けられた容赦ない現実。
「ソウル・オペレーター31です。どうされました?」
相手からの返答はない。俺は耳を澄まして、もう1度呼びかけてみた。
「ソウル・オペレーター31が承ります。何かあったなら」
「助けてください、エネルギー系統を繋ぐ線がむき出し状態になっているんです!」
俺は事態を把握した。頻繁ではないが、逆に珍しくもない。何しろ、無数の世代が操縦してきた巨大宇宙船だ。長く使えば、それだけ問題も出てくる。
「まずは落ち着いてください」
「そうします……。はい、もう大丈夫です」
「では、そちらの設備名を教えてください。確認が取れ次第、対処します」
「エコノミー設備Pです」
エコノミー設備P。俺はこの設備に関して、多くを知っていた。『ソウルズ・エンジン』のコア部分にとても近く、膨大なエネルギーを供給するために、他の設備と比較しても遥かに大量の線が、血管の如く張り巡っている。
「言及されたトラブルの確認が取れました」
「私はどうすれば?」
「トラブル処理を行うので、対応が完了するまでしばらくお待ちを」
「分かりました。落ち着いて待つことにします」
「ご協力、ありがとうございます」
俺はそう答えつつも、周囲のコントロールを睨んでいた。正直なところ、どのコントロールが、露出した線の補修を担うのか、全くと言っていいほど分からない。仕方ない。行き詰まった俺は、最終手段であるガイドの力を借りることにした。
『コンタクトモードの維持を継続。ガイドモードを起動します』
ガイドモードが適切な指示をする。聞こえはいいが、ガイドモードを起動している最中は、コンタクトモードの維持以上に、魂の燃焼が早まるため、余程のことが無ければ使おうとは思わない。いわば最終手段に近い。
〈ガイドモードの起動が完了しました。リンクされた魂の情報に基づき、最適なガイドを開始いたします〉
明瞭とした無機質な声が、ガイドとしての役割を果たす。俺はその指示通りに従い、幾つかのコントロールを順番に操作していった。
〈ガイド案内が終わりました。ガイドモードの自動終了を行います〉
ガイドモードが切れ、コンタクトモードのみの表示になる。ガイドの音声が、コンタクトモード越しに相手に聞こえていたか。それは分からない。でもクリアになった通信で俺は、対応が無事に完了したことを、相手に伝えた。
「トラブル処理が済んだので、確認お願いします」
「修復されてます。大丈夫です」
「トラブル処理が解決。通信を切ります」
ソウル・オペレーターの31が対応しました。なんていう台詞を、俺が口にすることはない。それは決まりきった表現のようなものだ。そこに俺らしさが無ければ、操縦席で最期を迎える意味がない。どうせ燃え尽きる運命。なら、俺がここに居たという証を言葉にして誰かに伝えるのも、決して悪いことではないだろう。
『ソウル・オペレーター31 現在の魂の残量は38%』
ディスプレイを見ると、明らかに魂は目減りをしていた。先ほどまでの60%という数字。それが嘘であるかのように、データは俺に事実を告げている。
直に死ぬ。なのに俺は、迫り来る死の現実に、戸惑うことは少しもなかった。
「ソウル・オペレーター31です。トラブルですか?管轄権移行ですか?」
「トラブルです。プレミアム設備Kが半壊。修復願います」
「プレミアム設備Kの修復。只今、対応します」
俺はそう答え、設備半壊に対応するコントロールで処理を行い、修復に必要なエネルギーの全てを、燃焼する魂からプレミアム設備Kに送った。
「半壊状態が解決しました」
「ホントですね。迅速な対応で良かったです」
「ありがとうございます。では、また何かあれば、ソウル・オペレーターまで」
「はい。その時はよろしくお願いします」
俺はそれ以上何も聞かず、静かに通信の切断をした。ソウル・オペレーターといえ、命が惜しい。時間が惜しい。しかし、惜しむものがないなら。あるいは、ソウル・オペレーターではない存在なら、無駄話するのも良い。
『ソウル・オペレーター31。現在の魂の残量が10%を切りました』
警告音のような荒々しい合図。知らされなくても、俺のことは俺が1番よく理解している。なにも怯えて、死ぬのを待つ必要はない。
「ソウル・オペレーター31。そちらは?」
「ソウル・オペレーター406です。管轄権移行をお願いできますか?」
「出来ません。魂の残量は現在、10%未満です」
突然、コンタクトモードでの通信を行ってきたソウル・オペレーター406。その406がハッとしたような声を出した。
「ソウル・オペレーター31が管轄している設備は?」
「エネルギーコア設備Xのみで、通常設備は何もありません」
「分かりました。エネルギーコア設備Xの臨時接続先を私に再設定してください」
「接続先の変更を行います。少しだけ待機願います」
「もちろん、そのつもりでいます」
俺は素早く変更を済ませ、その旨を406に淡々とした声で知らせた。
「臨時接続先がソウル・オペレーター406になりました」
「確認が出来ました。臨時接続先の再設定プロセス終了をお伝えします」
「ありがとうございます。いや」
『ソウル・オペレーター31 魂の残量が0%になりました』
「本当にありがとう。君のことは忘れない」
「私も忘れることはありません。さようなら、ソウル・オペレーター31」
ソウル・オペレーター406に見守られながら、身体が溶けるように消えていく。これなら死ぬのは怖くない。ソウル・オペレーターとしての俺。それ以前の俺。どちらも振り返れば、たくさんの出来事があった。ああ、またいつか。
『ソウル・オペレーター31の無効反応が検出されました』
『コンタクトモードの自動終了を行います』
ここで俺が、ソウル・オペレーターをやれる日がやって来ないだろうか。
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