第18話:古屋敷の屈辱

「着きましたけど、ここって?」

 リオス一向が着いたグロリアの屋敷は古く、ボロ臭いまではいかないが、少々汚れた屋敷であった。

 外壁には劣化した傷み、庭には雑草が一面に生え、木々の手入れには怠っていた。

「ちょっと!? 屋敷の手入れがなってないじゃない! 召使いとかはちゃんとやってるの?」

 エアノーラの叱咤にグロリアは申し訳なさそうに辛い表情を見せる。

「召使いや執事、庭師は私の父親が死んで以降、残念ながら出て行った。」

「ふ〜ん、そう言う訳か。だったら…屋敷よ、輝かしい時を思い出し、永劫に秘めろ。過去の夜明けワンス・アポン・ドーン・タイム。」

 エアノーラが唱えると、屋敷は白く淡く輝き出したと思えば、屋敷の汚れが消え、傷みが修復され、庭がかつて、父親がいた時まで遡ったかのように木々も芝生を綺麗に整っていた。

「まぁ、ざっとこんなもんよ! この魔法は屋敷に秘めた思い出の光景を実体化し、現実に上書きする魔法よ!」

「うう、ううう、ううううう…」

 涙目になるグロリアを見たエアノーラはきっと、自分が起こした奇跡に感動してると思い、誇らしげに胸を張った。

「ふふ、私が起こした奇跡に泣いて喜びなさい!」

「うわあぁぁぁぁん! ごめんなさい、ごめんなさい、お父様! 不甲斐無い娘で、阿婆擦れの女で、ごめんなさい! 今すぐ命で、命で償いますから!」

「へ? ちょっ、ちょっと!?」

 グロリアは剣を抜き、自分の喉元を突き付けようとした。

 リオスは慌てて、彼女の手を掴み、剣を没収しようとする。

「落ち着いて下さい、グロリアさん! 一体、どうしたんですか!?」

「どうしたも、こうしたもあるか! 国を守る騎士でありながら、アドベン都を護れなかった! 王都の騒動を事前に止められなかった! 最も嫌悪する上司達に馬鹿にされ! お前たちの埒外な力を見せつけられ、私の騎士の誇りは今まさに死んだ! 殺せ、殺せよ、殺させてよ! …もう、仇を取る以前に弱すぎなんだよ、私はぁ!」

「たく、落ち着け! リオス、今だ!」

「はっ、はい!」

 ジタバタするグロリアはそれを見かねたディムナに羽交締めされ、その隙にリオスは剣を没収した。

「返せよ、私の剣を! 離せよ、私の身体を!」

「埒があかねえ! どうする!?」

「ならば、ここは私が! 聖天龍たる我が誓う、心惑いし御子に静寂と安寧を、濯がれし幼子ウォッシュ・ア・チャイルド。」

 シェナが掌から聖水を召喚し、その聖水をグロリアの御顔に包ませ、口や目、鼻などを濯ぎ、眠らせた。

「ううう、ひっぐ、ひっぐ、お父様…」


 屋敷内のリビングのソファーにグロリアを寝かせたリオス一向は各々くつろぎつつ、彼女に対して、懸念を抱いた。

「全く、してやられたわ。あの狸親父、とんでもない子守りをさせるなんて。」

 エアノーラはグロリアという無礼な少女に怒りを抱き、

「まぁまぁ、あの嬢ちゃんが思い詰めていたのは事実だし、ここは兄貴分として妹分を励まそうじゃねぇか!」

 ディムナはグロリアという心に暗さを抱えた妹分を元気にしようと意気込み、

「あの騎士団長の奴、エアノーラの言う事を基にすれば、グロリアと俺たちを引き逢わせたらしいから、何か裏があるんじゃねえか?」

「グロリアさんの父親が死んだ件と騎士団長たちが関係するのが怪しい…なら、私が城に入り、情報収集する。」

 リョウマとオウヒはグロリアの目の敵とされる騎士団長を訝しんだ。

「リオスはどうしますか? あの子を誰よりも心配したのはリオスのようですから。」

 シェナはリオスの心配を案じ、彼は立ち上がる。

「確かに、グロリアさんは王都に戻る時や、騎士団長と対面した時は、罪悪感や恐怖に打ち拉がれました…だから、彼女の気持ちが分かる僕が説得します。」

 


 

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