第12話:超越者の買い物〜エアノーラの場合〜

 エアノーラはリオスを引き連れて、魔法屋に来ていた。高価な水晶硝子のショーケースに高価な紙を使った魔導巻物マジックスクロール魔導書グリモワールが並ぶくらい高価な店なのだが、

「何なのこれ!? 魔導巻物マジックスクロールには稚拙な魔術しか刻印されてないし、古代魔法エンシャントマジック神代魔法ディバインマジック魔導書グリモワールが置いてないじゃない! 何が、魔導結社御用達よ! 詐欺よ、このインチキペテン師!」

 エアノーラは王都の魔法店の品揃えに激怒した。彼女が思っているほどのランクの魔法が置いていなかったからだ。

 しかし、彼女の求めたランクは神の裁きによる天雷や、世界を焼き尽くすほどの邪神の炎といった災害級の魔法なので、英霊郷ヘロアスファリアにはあっても、下界にはないのが常識である。

「何じゃと!? 小娘の分際で知ったような口を! 獄炎ゲヘナや、深海壁ディープウォールと言った高ランクの魔術刻印しか扱っておらぬぞ! それに悔しいが、古代魔法なぞわ、市井に渡るわけあるか! そんな貴重なものはとっくに魔国が厳重に保管しとるわ! 馬鹿な冷やかしなら帰れ!」

 当然、自身の品揃えを罵られ、憤ったのは長い白髪と白髭を生やした老魔導師である店長、顔を赤く染め反論していた。

「エアノーラ、失礼だよ! 下界ではこれが精一杯だし、僕たちの故郷並みの魔法なんてここには置いてないって!」

「このガキャあ! なんじゃ、揃いも揃って、この王都一の自称賢者である儂を馬鹿にしおって! ぶっ殺すぞ!」

「うわ、すいません! 別に貶している訳じゃ…」

 リオスがエアノーラを宥める発言がこれまた文句に聞こえた老魔導師は更にブチ切れ、彼の胸倉を掴み、叫び出た唾液を降り掛からせ、彼を困らせた。

「はい、これよ。これを見て、あんたが如何に魔法に無知であるか、身の程を弁えなさい。」

「たくっ、何か身の程じゃ。こんな魔術刻印が何だって…」

 リオスを離した老魔導師の手はエアノーラに渡された魔導巻物マジックスクロールを持ち、ぶつぶつと文句を垂れ流しながら、それを見ると、さっきまで赤かった顔が青褪めていた。

「こっ、これは古代森人文字アールヴ・ルーン!? お主、まさか…」

「ご存知の通り、私は古代森人族アールヴのエアノーラ・ユグドラセルよ。」

 彼女の正体を知った老魔導師は血相を変えて、諂い、頭を下げた。

「あ、あああ、ああああああ! すっ、すいませんでした! 粗末な魔法ばかりを見せてしまって! すぐに店を畳みますゆえ!」

「ふ〜ん、それじゃ面白く無いわね。じゃあ、私が書いた魔導巻物マジックスクロールを多く渡すから、それを売って、その三分の二の利益を私にくれないかしら。」

「まっ、まさか、恵んでくれるのですか、貴方様の魔法を!?」

「良いのよ、私は下界の魔法を発達させたいから。」

 あどけない笑顔を見せるエアノーラを女神からの施しだと錯覚した老魔導師は感涙を流しながら、平伏した。

 しかし、彼女が純粋な笑顔の裏で陰謀を張り巡らせていることをリオスは呆れながら、見破っていた。

(こうして、エアノーラの実験中の魔法が売られるんだな。)

 その売られる魔法が後にとてつもない惨状を、齎すかはまた、別の話にしよう。


 

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