第2話 異星人来訪 (2/3)

最初はほんの小さな話題であった。新聞の片隅に載る訃報記事。様々な分野の要職にある人物が、命を失っていったのである。勿論それだけであれば、どうという事はない。人の死など珍しくはないからだ。


だがその死因が、自殺と殺人、もしくはそれらが疑われる事故や病死に限られる事が判明し、世の中で大きな話題となった。そしてよくよく調べていくと被害者は皆、移住計画に深く携わっている者たちだと分かったのだった。


「移住反対論者のテロ行為」


そんな噂が立ち始めるのに、さして時間は掛からなかった。彼らが計画を妨害する為に、次々と関係者を殺しているというのだ。人類の殆どは移住に賛成していたが、ごく一部の人たちは「地球を捨て、他の地へ行く事は神に逆らう事」と称し、移住に反対をしていたからだ。


人々は不安にさいなまれたが、ここで計画をやめるわけには行かない。狙われる可能性のある対象者には、治安当局の護衛がつくようになった。そのせいもあってか、被害者の数は明らかに少なくなる。しかし、ゼロになる事はついぞなかった。


二十数年後、地球政府、それに従う人々、彼らの移住計画は順調に進み、既に一般国民の殆どが希望の星へと旅立った。もはや地球には一部の技術者や政治家、その関係者しか残っていない。壮大な計画は最後の段階を迎えようとしていた。


「じゃぁ、お爺ちゃん、先に行くね。お爺ちゃんも早く来てね」


送信ゲートの前に立つ少女が、祖父である地球大統領に手を振っている。


「あぁ、すぐに行くよ。向こうで待っていておくれ」


愛しい孫の手をぎゅっと握りしめ、家族が旅立つのを笑顔で見送る地球大統領。彼はこの計画が本格化した頃、計画の全責任を負う立場として奉職し、四半世紀以上の長きにわたり奮闘し続けてきた。


「さぁ、君たちも早く行きたまえ」


大統領が、最後に残った技術者たちに声をかける。


「それでは、お先に行かせて頂きます。大統領、今まで本当にお疲れさまでした。我々は……」


声を詰まらせる技術者たち。


「何を言うんだ。それは私のセリフだよ。君たちには本当に苦労を掛けた。お礼の言葉もない」


大統領と技術者たちは、互いの顔を見つめ合い涙にむせぶ。技術者たちがゲートの中に消えると、大統領はゲート施設の外へ出て見慣れた風景を感慨深く眺めた。そして遠くの山をぼんやりと見ながら、合成煙草に火をつける。


(罪深き私がこういう事を言うのも何だが、最後の一服くらいは神様も許してくれるに違いない)


大統領は煙草をもみ消すと、ポケットの中にある小瓶を取り出した。


「私にゲートを通る資格はない。そんな楽をする事は許されない」


彼は液体の入った瓶のフタを開ける。中身は、塗炭の苦しみを味わった末、壮絶な死に到る毒薬だった。


だがその時、天空よりまばゆい光が差し込み、明らかに地球のものではない宇宙船が現れる。


そして唖然とする大統領の前に、人類が生きて初めて遭遇する異星人たちが現れた。


「この人殺しめ!」


異星の民はそう叫ぶと、大統領を彼らの宇宙船へと連行していった。


--------------


「被告人、お前の職業と名前は何だ」


裁判官が、私をねめつける。


「地球の大統領です。いや、大統領をしていました。名前は……」


私が答えると、宇宙法廷における異星の裁判官は、法廷の左側に陣取った男、たぶん男であろう人物に目をやった。


「それでは、検察官。彼の罪を述べたまえ」


地球人の感覚で判断しても、いかにも神経質そうな男が私を睨む。


「はい、裁判長。この地球人は、母星の人たちを騙し、大量殺戮を行った大罪人です」


「それはどういう事か。詳しく説明してくれたまえ」


裁判長が促す。


「被告人は大統領という地位を利用して、とんでもないウソをでっち上げました。地球人を他の星へ移住させるという名目で、彼らを殺人機械の中へ放り込んだのです。老いも若きも、男も女も、幼い子供までも!」


そうさ、そうだとも。検察官の言う事に間違いはない。私は心の中でつぶやく。


「調査によれば、今から数十年前、地球の科学者たちは太陽フレアによる自らの滅亡を予見していました。当初は宇宙船による別の星への移住を模索していたようですが、それは技術的に不可能と判断されたのです」


「ほう、それで」


裁判官の要求に、検察官は更に続ける。


「そこで、一部の権力者や政治家たちは考えました。このまま事実を公表すれば、人々はパニックを起こし、更には平常心を失ったあげく破滅的な行動、自虐的な暴力や戦争に発展しかねないと予測したのです」


彼らは政府の超機密ファイルを見たらしい。あぁ、全くその通りだよ。


「そこで彼らは仮初の平穏を保つ為、壮大なウソを作り上げ、あげくに地球人類を抹殺する事を思いついたのです。そして被告人は、その責任者として計画をまい進させました」


「それは違う! 抹殺したんじゃない。救おうとしたんだ!」


「静粛に!」


思わず言葉を発した私に、裁判官が注意を促す。


「彼らの計画はこうです。宇宙船による移住が不可能であると発表した後、地球人たちに”星から星へ転送可能な異星人のゲートを発見した”と虚偽の説明をしたのです。


勿論、そんなものは実在しません。被告たちが持ち出したのは、自らが作り上げた『転送装置に見せかけた殺戮装置』だったのです」


傍聴人席の宇宙人たちがドヨメキが、私の心を責め立てる。

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