(3)友坂香澄による

 その日の放課後、香澄は友人らの誘いを体よく断り急ぎ帰宅した。

 鍵を開ける。施錠されていたということは誰もいないということだ。念のため「ただいま」と様子を窺うように声をかけ、返事がないことを確かめるとすぐに自室に籠る。

 転校するための急な引っ越し、まだローンの残る持ち家を手放し入居した賃貸。香澄の部屋もずっと狭くなってしまい鍵はかからず壁も薄く、一室を確保してもらっているとは言えど、思春期の少女として充分なプライバシーを保持できてはいない。香澄が自由に使えるのは両親のいないわずかな時間だ。

 制服を雑に脱ぎ捨てるとベッドに仰向けになり下着の上から股間を乱雑に擦りはじめる。既にショーツはかすかな熱気をはらみ、その奥の女性器は痛みを伴って充血している。昼休みに思い出したかの日の記憶に、もう身体の疼きが限界を超えていた。睡眠と、成績を落とさないための最低限の勉強を除けば、この部屋は自慰をするためだけの場所だった。

 自慰とは言うが快感など一切感じない。気持ち悪い、気持ち悪い、なんて気持ち悪いんだろう! その気持ち悪さという刺激を享受する。世界がわずかに色づいていく。

「ウッ……フゥッ……ウッ……」

 まだ生え揃いきっていない陰毛の奥にある陰核を捻じって追い詰めていく。自らの体内から湧いた不潔な汁を、再び自らに擦りつけていく。腐敗して糸を引く果実を触るような感触に呻き声が漏れる。

「うぅ……。うぅぅ、いやぁ……。やだ、いやだよぉ……」

 己で触れておきながら、嫌悪と拒否の声を上げる。

 やがて香澄は乱暴に下着をはぎ取り足を大きく開くと、膣口に中指と薬指を揃えてあてがう。

「あ!? え、まって! それはダメ!!」

 まともに快感を得るための自慰なら、挿入にはまだ充分に潤っていない。だが強姦なら話が違う。レイプをしようという男が丁寧な前戯などするはずがない。不充分な愛液を練りながら『感じてるんだろう』と愚かで勝手なこと言う。

「やめてぇっ! やめてください! やだ! そんなの入らない! やめて!」

 香澄の必死の願いもむなしく、香澄は香澄の体内へと侵入していく。

「いやぁぁっ! 痛いっ! 痛いぃぃッ! 無理、無理ィ! 痛いぃっ!」

 滑りの悪い粘膜が指と擦れ合い、無理に動かすと千切れそうな痛みが走る。香澄は処女喪失の痛みを思い出す。

『おら! どうだ! これが気持ちいいんだろうクソガキ!』

 激しく突けば女が悦ぶという思い違いを正されないままレイプだけで性経験を積んできた男が叩きつけるように腰を振り、的外れな罵倒を香澄に浴びせる。

「ひぃぃぃッ! 痛い……です……ッ! 気持ち良くないですぅぅ!!」

 香澄は快感を否定する。それが伝われば男が行為をやめてくれるのではないか。そんな思いを口にするが、男は香澄に快感を与えるために行っているのではない。己の興奮を煽るため、香澄に性感を強要しているにすぎないのだ。むしろ少女が泣き喚き抵抗する様子にますますいきり立っていく。

 男が腰を振るたびに喉の奥からガラスをひっかくような声が押し出される。

「ヒィッ! ヒィッ! ヒィッ! ヒィッ!」

『もっと色っぽく喘げねぇのか!? しょせんガキだな!』

 選んで少女を犯しておきながらあまりにもな言い草で、色っぽい声とやらを引き出さんとますます挿抜を速めていく。それは全く逆効果で、香澄の痛みと苦しみだけが加速し、呻き声は余計に無様になっていく。

「ひぃぃ! うぎぃぃ! いぎっ! うああああっ!」

 だがやがて、そのような無理強いの交わりにさえ女の浅はかな本能が反応しはじめた。長くしつこくかき回された香澄の膣内は少しずつ少しずつ愛液を分泌しだす。

『ほら見ろ! ずいぶん濡れてきてんじゃねぇかこの淫乱が!』

 得意げに男が喜声を上げる。

「やめてぇぇぇ! いやなの! 気持ち悪いのぉ!」

 ぬめりが出てきたことで摩擦の痛みが軽減されると同時に、今度は神経を撫でられる不快感が香澄を襲う。膣内で大量の蛆やナメクジが這いずり回っている。

「やだぁ……もうやめて……やめてよぉ……なんでこんなことするの……なんでするのぉ……。」

ついには癇癪を起すように泣きじゃくる。

「なんでやめないのぉ……! やめてって、やめてって、なんども……どうしたらやめるのぉ!」

『仕方ねぇな……! ならそろそろ終わりだ……! 終わりにしてやるぞ!』

「おわって! はやくおわってぇぇ!」

 香澄は“終わる”という言葉の意味も考えることができず、ただただこの時間から解放されたい一心で叫ぶ。加速する男の動きが、香澄の膣内と思考をゴリゴリと削り落としていく。

「おわってぇ! もうおわり! おわりぃぃ!」

『終わるぞ! おぉぉ来るぞ、これで、これで終わりだ!!』

 男は叫ぶとバシン!と乱暴に腰を香澄に押しつけた。その瞬間、はっと息をのんで香澄は正気を取り戻す。

「え!?? え、あ!! だめ! それはだめ!! おわっちゃだめぇ!!」

 もう手遅れだった。男はじっと動かなくなり、香澄の中でペニスがびくびくと痙攣しているのが伝わって来た。

「いや……いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 香澄の絶叫を聞きながら彼女の中に射精した男はしばらくぜぇぜぇと満足げに息をついて香澄を見下ろし笑っていたが、やがてすっと消えた。

 香澄の視界に、まだ少し慣れていない新居の天井が戻ってくる。

「はぁー……はぁー……はぁー…………」

 高鳴る心臓を抑えこむように、ゆっくりと呼吸する。香澄は絶頂していた。快感ではなく、嫌悪感が頂まで届くことで得たオルガスムスだった。吐き気がする。震えるほどおぞましい。そして、毒々しい色彩が咲いた。

 しかしそれも束の間のことで、再び世界はつまらない灰色に沈んだ。

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