第409話 アラヤシキ界

 航路警備の事業も軌道に乗り、私は惑星改造のプロジェクトを進める事にした。イズモでメルカルナ星系に飛んだ我々は、機動要塞の宇宙港に停泊する。


 その宇宙港は広大なもので、将来的には二百隻ほどの航宙船が同時に停泊できるものになる予定だった。宇宙港の内部には眩しい照明と真空の空間があり、宇宙港側のドッキング機構が伸びて停泊した航宙船と繋がっていた。


 宇宙港から居住区画へ移動した。内部に建設した居住区画には、一万人を超える改造計画従事者が生活できるような社会基盤が整えられている。人工重力があり、空気、水、交通機関などが存在していた。


 私とサリオ、スクルドの三人は、機動要塞のブリッジになる予定だった場所に向かう。そこは三百人ほどが作業できるほどの広さがあったが、使えるのは一部だけでいくつかのモニターと端末が置いてあるだけだった。


 サリオがモニターに惑星の様子を表示した。

「惑星環境防御バリアの効果が出てきて、惑星全体の気温が安定してきたようでしゅ」

「それで人間が快適に暮らせるのは、どの地域になるんだ?」


 私が質問すると、スクルドが観測データを纏め始めた。そして、モニターに大きな都市を建設するのに適した地域、農業に適した地域、工業地帯に適した地域に分けて表示した。


「農業に適した地域が広いな。こういうところも都市が建設できるんじゃないか?」

「許容する人口にもよるし、どんな都市にするかにもよるわね」


 惑星には実験農場も完成しており、そこでは土壌改良をして試験栽培が始まっていた。栽培しているのは、米や小麦、それに葉物野菜だった。もちろん、地球で栽培されているものとは違う植物だ。ただ味や香りは地球のものと似ていた。


「ここまできたら、一気に人材を投入して拡大した方がいいわね」

 スクルドが言う。

「どのくらいの人材を投入する?」

「三年ほどで三十万人ほどに増やしたいわ」


「まずは、ワースクワール族を投入しよう」

 リス人間とも呼ばれるワースクワール族は、勤勉で農業にも詳しいという。ワースクワール族の滅んだ故郷は、農業惑星だったと聞いている。


 我々は精力的に働いて惑星改造を進めた。それと同時に精霊雲が進化した事で何が変わったのかを、詳しく調べる研究を始めた。


「調べると言っても、どうするの?」

 スクルドが質問してきた。

「まずは、天震力の制御力がどれほど上がったのかを調べる」

 私は強化アーマーを着装して機動要塞から宇宙に出ると、外宇宙の方へ飛んで機動要塞から離れた。十分に安全だと確信してから、制御門の開放レベルを上げ始める。


「1……2……3……4……5」

 開放レベル5までは、精霊雲のレベルが上がる以前でも制御できていた。


「6……7……8……9……10」

 制御門を全開にして膨大な天震力が流れ込んできても、それを完全に制御できると分かった。試しに膨大な天震力を使って離震レーザーを放った。


 今までの離震レーザーが巡洋艦に搭載されている三十光径ほどのレーザーキャノンだとすると、開放レベルを全開にして放った離震レーザーは、機動要塞に搭載されている六十光径ほどのレーザーキャノンに匹敵する威力があった。


 この威力ならアステリア族の魔導師ヴェルナが倒したと言われている混沌ドラゴンでさえ倒せそうだ。他に粒子撃なども試してみたが、威力が数倍から十数倍に強化されており、使う時に威力の調整を慎重にしないとオーバーキルとなるだろう。


 変わった事は、それだけではなかった。高次元に対する干渉力も上がったようなのだ。今までアクセスできたのは、『ナユタ界』『エイドス界』『乾次元世界』の三つだけだったが、レベルアップした事で『アラヤシキ界』にアクセスできないかと考えた。


 今まで学んだ高次元工学という分野の知識によると、アラヤシキ界はナユタ界より遠い次元に存在する。魔導師たちは何人もアラヤシキ界にアクセスしようと努力したが、成功していなかった。ただリカゲル天神族はアラヤシキ界にアクセスできるらしい。


 私は意識を高めて高次元に向かって意識フィールドの触手を伸ばした。

「ゼン、大丈夫でしゅか?」

 サリオが心配して通信機で呼び掛けてきた。

「問題ない。これから高次元のどこまで手が届くか確かめてみるから、静かにしてくれ」

「了解でしゅ」


 もう一度意識を高めて高次元へと意識フィールドの触手を伸ばす。ナユタ界に触手が届いた。ボソル粒子と天震力に満たされた世界であるナユタ界を感じながら、さらなる高次元へと突き進む。すると、乾次元世界を感じたが、そちらには行かずに上を目指す。


 自分の感覚では何時間も上へと進んだように感じた。ついに意識フィールドの触手がアラヤシキ界の境界面に接触した。その瞬間、膨大な知識が流れ込んできた。それはゾロフィエーヌからもらった知識に比肩するほどの知識であり、それを受け取った瞬間に、自分の精神がオーバーフローを起こしてブラックアウトした。


 目を覚ました時、一瞬どこか分からなかった。だが、レギナの姿が目に入って気付いた。ここは屠龍戦闘艦イズモの医療室である。


「良かった。心配したのよ」

 レギナが私の手を握っていた。

「精霊雲のレベルアップで、何ができるかを確かめていたんだ」

「それで?」

「アラヤシキ界にアクセスできるか高次元に意識フィールドの触手を伸ばし、アラヤシキ界らしい世界の境界面に接触した途端、アラヤシキ界に関する膨大な知識が意識の中に流れ込んできたんだ」


「それは、どんな知識なの?」

「リカゲル天神族が用意した、アラヤシキ界にアクセスするために必要な予備情報だった」


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