第404話 魔導師の二つ名
屠龍戦闘艦イズモのブリッジで鬼人連盟の艦隊を監視しながら、意識を広げて鬼人族に恐怖というプレッシャーを与え続けた。
「マスター、プレッシャーを掛けすぎると、反発が生まれるわよ」
「そうなんだが、こいつらには恐怖を刻んで帰って欲しいんだ」
「ロストさせる方が、簡単なんじゃないの?」
「考えたんだ。大破、もしくはロストさせても、使える人材が残っていれば簡単に復活してしまう。鬼人連盟の人材に打撃を与えたいんだよ」
戦死者が多くなれば人材に打撃を与える事になるが、それだと鬼人族の復讐心がとんでもない事になるだろう。私としては、デルトコロニーに対して恐怖を覚える鬼人族の軍人を増やすのが一番の抑止力になると思っていた。
「敵の被害は?」
スクルドに敵の被害状況を質問する。
「戦艦二隻は中破、巡洋艦一隻が大破、その他の二隻が小破よ」
プレッシャーを掛けながら攻撃を撃ち続けている。但し、艦首砲の連続射撃は中止し、クリムゾンレーザー砲の砲撃がメインになっている。
鬼人連盟の軍艦の中で、小破である巡洋艦以外はバリアをなくしているので、クリムゾンレーザー砲でも敵艦に被害を与える事はできた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
鬼人連盟の巡洋艦内では、鬼人族が恐怖と戦っていた。艦長のゴルダは牙を剥き出しにして唸り声を発している。
「グフッ……こんな戦いがあってたまるか。あ、あの魔導師め」
必死に恐怖を制御しているが、このままでは精神が壊れてしまいそうだった。航宙士のメルドラがこちらに赤くなった目を向けてくる。
「艦長、何とかしてください。このままでは大変な事になりますよ」
「分かっている。だが、この状態では攻撃も難しい」
「攻撃を自動にして、距離を詰めましょう」
「そんな事をすれば、こちらが殺られるぞ」
メルドラの顔が歪んだ。
「このままでも、同じです」
「分かった。突っ込むぞ。僚艦のバロードにも伝えるんだ。こういう作戦は一隻でも多い方がいい」
敵艦である屠龍戦闘艦イズモは、砲撃回避運動をしながら鬼人連盟艦隊の周囲を回っていた。艦長はイズモを自動的に攻撃するように設定させた。ちなみに、航宙軍ではこういう自動攻撃は推奨されない。どうしても命中率が落ちるからだ。
ゴルダがメルドラの方を見ると、巡洋艦を操縦している手が微かに震えている。ぎりぎりの状態なのだ。小破である二隻の巡洋艦がイズモとの距離を詰める。
その時、船体が震えた。イズモのクリムゾンレーザー砲が命中したのである。そして、恐怖のプレッシャーが強まった。心に黒い影が忍び込み、じわじわと恐怖を広げていく。ゴルダは強く拳を握り締め、その爪が掌に食い込んで血が流れ出す。
「ううっ、堪えるんだ。もう少しで敵のバリアを貫通できる」
巡洋艦から撃ち出される攻撃のほとんどはイズモの回避運動によって避けられたが、それでも何発かがバリアに命中している。
巡洋艦がイズモに近付くに従い、押し寄せる恐怖も強くなっている。そして、限界が来た。
「うわあああー!」
ブリッジのレーダー員が、叫び声を上げながら銃を抜くと味方に向かって引き金を引いた。
「やめろ! 落ち着くんだ!」
ゴルダの命令もレーダー員の心にまで届かない。ブリッジに
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
荷電粒子砲とレーザーキャノンで攻撃しながら迫っていた二隻の巡洋艦が、力尽きたように離れていく。
「あの二隻はどうしたの?」
スクルドが質問してきた。
「恐怖で締め上げたら、何人かが精神に異常をきたしたようだ。内部で戦いが起きている」
「戦いというと、反乱が起きたの?」
私は首を振って否定した。
「反乱じゃない。精神に異常をきたした乗組員が、暴れているだけだ」
攻撃もできないようになった巡洋艦は、拿捕するチャンスだった。だが、拿捕の準備をして来なかったので、放置するしかないだろう。鬼人族にデルトコロニーや私に対する恐怖を植え付ける事が目的だったので、それは十分に果たせたと思う。
鬼人連盟の艦隊が撤退を始めた。
「マスター、敗戦を知ったジェルド盟主は、どうすると思う?」
「もう一度艦隊を編成し、デルトコロニーを攻撃しようとするだろう。だが、今回の敗戦を経験した軍人は、もうデルトコロニーに戦いを挑もうとは思わない」
「ずいぶん自信があるじゃない。何をしたの?」
「精神の奥底に恐怖を刻み込んだ。デルトコロニーや私と戦うと聞いただけで、震え上がるはずだ」
この戦いを見ていた各コロニーの偵察部隊は、あまりの結果に急いで報告した。そして、そのニュースがナインリングワールド中に広がると、ロード・ゼンという名前が皆の記憶に刻まれた。そして、ゼンはナインリングワールドの『
敗戦を知ったジェルド盟主は、当然のように再戦するように軍に要求した。だが、帰還した敗戦者の健康状態を調べた医師たちが、すぐに戦いに動員するのは無理だと断言したので鬼人連盟の敗戦が確定した。
鬼人連盟とデルトコロニーの戦いは、デルトコロニーの勝利として歴史に刻まれたのだ。
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