第402話 全権大使フェゼス理事

 その日、鬼人連盟からフェゼス理事という鬼人族がデルトコロニーを訪れた。そのフェゼス理事をブルシー族の一人がロードパレスの会議室に案内する。


 レギナとスクルド、それにサリオと一緒に会議室に入ると、フェゼス理事と護衛らしい鬼人族が待っていた。挨拶を交わして用件を尋ねるとフェゼス理事が嫌な笑いを浮かべた。


「ここに来たのは、惑星ツカールの採掘事業を鬼人連盟に譲って欲しい、と考えたからです」

「譲るというのは、購入したいという話ですか?」

 私が尋ねると、フェゼス理事が笑った。


「ロード・ゼン、鬼人連盟が先の艦隊戦に勝ってナインリングワールドの覇者となった事は、ご存知ですよね?」

 覇者になった鬼人連盟に無料で譲れという事だろう。


「ブラッド同盟との艦隊戦で勝利したのは知っていますが、ナインリングワールドの覇者というのは言いすぎではないですか。まだ連合があるのですよ」


「ふん。連合は鬼人連盟に楯突く度胸があるのですか?」

 フェゼス理事が薄笑いを浮かべて言った。

「失礼じゃないでしゅか。連合は臆病者ばかりではないでしゅよ」

 サリオが口を尖らせて言い返す。


 フェゼス理事がわざとらしく溜息を吐いた。

「そうおっしゃいますが、本当に鬼人連盟とデルトコロニーの間で争いが起きた時に、連合のコロニーが助けてくれると思っているのですか?」


 それを聞いたサリオは唸るような低い声を上げた。

「サリオ、落ち着け」

 私はフェゼス理事に顔を向ける。

「連合のコロニーが助けてくれるかは分からんが、デルトコロニーにも戦力はあるのですよ」


 それを聞いたフェゼス理事が鼻で笑う。

「ふん。デルトコロニーの戦力ですか。確かに小さなコロニーにしては不釣り合いなほど大きな戦力を持っているようですが、鬼人連盟と比べれば大人と子供ですな」


 フェゼス理事の威圧的な態度にムッとした私は、鋭い視線をフェゼス理事に向ける。

「それは脅しているのですか?」

「いいえ、事実を言ったまでですよ。事実を聞いて怯えたのなら、素直に我々の要求を飲むのですな」


「要求というと、先ほど言われた惑星ツカールの採掘事業を譲れという事ですか?」

「ええ、ナインリングワールドで安心して暮らすための保険と考えたら、やすいものではないですか?」


 そんな高い保険はない。一度有利な条件で戦い、こちらの力を見せた方が良いのではないか? フェゼス理事の話を聞いていると、そう思ってしまう。それはサリオやレギナも同じらしい。


 レギナが顔をしかめた。

「あなたは、我らのゼン閣下が天賢級の魔導師だというのを忘れているようですね。彼の魔導技なら巡洋艦より小さな軍艦を撃破できるのですよ」


 その言葉を聞いてレギナが何を狙っているのが分かった。フェゼス理事がこちらを値踏みするような視線を向けてくる。本当だろうかと疑問に思ったのだろう。


「鬼人連盟とデルトコロニーが戦いになったら、鬼人連盟側にも大きな被害が出ますよ。その被害に鬼人連盟は耐えられますか?」


 レギナが追い込むように言う。経済的に耐えられるかと質問したのだ。

「鬼人連盟には、戦艦三隻、巡洋艦四隻の戦力があるのです。ふざけた事を言っているとデルトコロニーがなくなる事になりますよ」


 フェゼス理事の顔が怖いものに変わっていた。これが鬼人族の正体なのだ。

「それは鬼人連盟が、デルトコロニーに宣戦布告するという事ですか?」

「ジェルド盟主からは、穏便に済ませられるなら戦いを避けろと言われたのですが、デルトコロニーがそのような態度を取るのなら仕方ありません」


 話の途中で、突然結論が飛び出したという感じがする。

「フェゼス理事、我々は話し合っていたはずです。それなのにいきなり宣戦布告というのは納得できませんな」


「ゼン閣下、もう遅いのです。私は全権大使として来ていたました。その私を怒らせたのですから、こういう結果になったのです。全てあなたたちのせいですよ」


 そう言うとフェゼス理事は帰っていった。

「どう思う?」

 サリオたちに尋ねた。

「あれは、宣戦布告する機会を狙っていたみたいだったわ」

 レギナが暗い表情をして言った。

「ジェルド盟主が、デルトコロニーを戦争当事者にするために、フェゼス理事を寄越したのよ」

 スクルドが指摘した。


「しかし、戦争になってしまった」

「ゼンは、弱気になっているのでしゅか?」

「さすがに鬼人連盟は強大だぞ」

「そうでしゅけど、ゼンは精霊雲が進化したんでしゅ。元が天賢級だったのでしゅから、神成級になったのではないでしゅか?」


 神成級というのは、天賢級より一つ格上の存在である。神成級になると、天神族への道が開けると言われている。


「たぶん天賢級グレード3くらいじゃないか」

「それでも艦首砲のサポートなしに、墜月ホエールを倒せるレベルでしゅよ」

「それは、一等級魔導技や特級魔導技を手に入れないと無理だ」


 そう言ったが、今まで以上に膨大な天震力や雷乾力を扱えるようになっているので、既存の魔導技も格上げしそうだ。フェゼス理事に宣戦布告された時に動揺しなかったのは、膨大なエネルギーを扱える自信があったからである。


「それにしても、レギナがフェゼス理事を挑発した時は、ヒヤッとしたぞ」

 レギナが頷いた。

「話の途中で、フェゼス理事が宣戦布告するつもりだと感じたのよ。それならゼンが有利になる戦い方を選ぶべきだと思ったの」


 多数の小型戦闘艦が入り混じって戦うより、少数の大型戦闘艦との撃ち合いの方が勝てると計算したのだ。

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