第6話 無秩序テニス 03
午後一番最初の授業は体育。昼ごはんを食べたせいか、少し眠い。
私は――里霧有耶は体育着の上から学校標準のジャージを羽織って、ラケットを掴む。
ラリー相手はいつも一緒にいる
琴は平均よりも身長が低く、小学生と間違われることが多々ある。その身長に見合わず――というのが正しいのかわからないけど、琴はものすごく髪が長い。私の長さと比べると、二倍以上はあると思う。
他愛もない会話を交わしながら、黄色のボールが緩やかな放物線を描きながら飛んでいく。
「この前、日本史の小テストあったじゃん」
「ああ、そういえばあったね。まさか抜き打ちでやられるとはね~」
対面しているとはいえ、ラリーをするにはそれなりに距離を離れなければならない。
だから、こうして会話をするのにも、いつも以上に声を張る必要がある。
「ほんと! 抜き打ちじゃなかったら、あんな悲惨な点数にならなかったのにさっ!」
言葉を締めくくる一撃は琴の小テストに対する恨みが込められていて、その軌道は鋭いものだった。
私はそのボールを打ち返すことはできなかった。
取りこぼしたテニスボールはバウンドして、フエンスに阻まれて動きを止める。
不意であったことは確かだけど、そうでなかったにせよ、打ち返すことは出来なかったと思う。
「スマッシュ打たれたら返せないって~」
「ごめ~ん」
「取りに行く身にもなってて、もう~」
「ほんと、ごめ~ん」
体の前で手を合わせ、謝る姿勢を取っている。
不満を漏らしてはいるけれど、怒るほどのことでもない。
私はすぐさまくるりと回って、フェンスのところまでゆっくりと進む。
足元へ目を向けると、目当てのボール以外にも十個は下らない数のボールが散乱している。
すくい上げたものが自分たちの使っていたものかというのは定かではなかったけれど、探し当てていたらきりがない。
ボールを回収してコートに戻ると、ネットの向こう側にいたはずの琴が歩み寄ってきていた。
「どうしたの?」
「この前生徒会に入ったって有耶言ってたじゃん?」
「言ったけど、それがどうかしたの?」
私は要領を得ない質問に首を傾げる。
琴は不気味な笑みを浮かべて、私の肩を三、四回ほど叩く。ぽんぽんと擬音が付くくらいの強さで。
「さっき私も小耳に挟んだんだけど」
小耳って……。
「第二コートで生徒会長と厳見が対決するみたいだよ♡」
「えっ!? 何やってんの!?」
「ね、行こ? 行こ!」
「え~、あんな人だかりの中に行くの~?」
「まあまあ、すべこべ言わずに行きましょうよ!」
聞く耳を持たない琴は私の躊躇いを無視して、半ば強引に引きずられるようにしてコートに向かった。
――――――――
読んでくださり、ありがとうございます!
今後も続いていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
次でテニスはラストです!
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