第24話 パーティで眠りの森へ1
「ギィィィ!」
目の前でゴブリンが低い声を出して威嚇してくる。
ゴブリンが不用意に突き出してきた剣をダガーで叩き落すと、そのまま首元に刃を刺した。その一撃でゴブリンは地面に沈む。
俺たちは再度、眠りの森の隠しダンジョンに来ていた。
今回は偵察ではなく本格的に攻略するために準備は万端にしてある。
今は地下4階層まで来ているが、この前偵察に来た時よりも出現する魔物の数が多くなっている。
前回まではスライムとゴブリンが少数出現するだけだったが、今はかなり数多く出現し、対処に困っていた。
俺とユウジは比較的物理で戦うことが多いので、低レベルの魔物を処理しやすい。しかし、魔法で戦うことが多いサキとアリスは逆に苦戦していた。
「いやあああああ!スライムが体に密着してくるう!」
サキはそう叫びながらスライムにくっつかれて、地味な攻撃を受け続けている。
人にたるんでるだの、無気力だの言ってたサキがスライムにまとわりつかれているのを見るとなんだか愉快だ。
仕方なく俺はサキに近づくと、くっついているスライムの表面だけを刃で裂いた。スライムがサキの体からドロリと落ちてやがて蒸発した。
「あ、ありがとう。ハジメがいなかったら、私スライムに殺されてたわ」
「スライムに殺される女神ってこの世界どうなってるんだよ」
サキに目をやると、スライムのせいで服がところどころ破けていて目のやり場に困る。
「お前、自分に回復魔法使っとけよ」
「え?あ、うん」
ふとアリスの方を見ると、こちらより悲惨なことになっていた。
「アリス。お前落ち着け。魔法が全部俺に当たってるんだよ!」
「ユウジさんが早く処理しないのが悪いんです!」
アリスがスライムを処理しようとして小型の攻撃魔法を連発して使っているが、それが全てユウジに当たっている。
ユウジの顔や体が所々、黒焦げになっており、多分アリスの炎属性の魔法を受け続けているのだろうと思われた。
「アリス!熱いぞ!体が黒焦げになる!」
傍から見ると面白い図だが、アリスの魔法のせいでユウジが消耗するのは避けたい。
「ハジメさん、笑ってないで早く手伝ってください!このスライム多くて処理しづらいんですよ!」
俺はその声を聞いて頷くと、スライムとゴブリンの群れに突っ込み、アリスの攻撃が当たりやすいように敵の魔物の視線を集めた。
「今だアリス!」
「ありがとうございます!炎よ顕現せよ!マハリート!」
そうしてようやくアリスの攻撃魔法が当たり始め、4階の魔物はほとんど狩りつくした。
ようやく魔物の出現が一段落して、俺たちはダンジョンを淡々と進んでいく。
俺は今まで起こったことに関して考え込んでいた。
それはこれまでみんなが見た夢についてだ。
ユウジによると、俺たちはサキも含めてアイディールワールドというゲームをプレイしていたらしい。
その世界でやっていたゲームは奇しくも、この世界の世界観や名前と酷似している。
アリスは俺とゲームをやっていて、俺の言葉に救われたと言った。
俺はアリスとゲームをしている夢を見たが、そこにサキの姿はなかった。
これがもし、この世界に転移する前の記憶だとしても転移する理由は分からないし、結局前の世界ではどんな生活をしていたのか分からない。
ダメだ、今持っている手掛かりだけじゃ推測が難しい。
次に魔法石があったら何も考えずに壊せば、何か新しいことが分かるだろうと思って俺は考えるのをやめた。
「ハジメさん?」
アリスの柔らかい声がダンジョンに響き渡る。長い前髪から片目だけ出してこちらを心配そうに見つめていた。
「もうちょっと先まで歩いたら休憩しないか、ということですが」
先頭を歩くユウジとサキを指さし、口にする。
俺たちは薄暗がりの洞窟の中を着々と進み距離をゆっくりと稼いでいた。
「ハジメ、寝不足か?昨日はダンジョンが楽しみで寝れなかったのかよ?」
俺の口数が少ないのを見てユウジが茶化してくる。
「遠足じゃあるまいし、ちゃんと寝たよ」
「まあ、ここらへんで寝てても良いわよ。私の魔法でここら辺の魔物狩りつくしちゃうもんね」
「さっきスライムに泣かされてたやつが良く言うよ」
ここまでのダンジョン攻略は順調で、軽く偵察した時と同じく、ゴブリンやスライムのようなレベルの低い魔物しか出てこない。
今の段階では全く問題はないが、魔物の数が多かった。
「お疲れ様です」
地下5層に着きみんなで休憩を取っていると、アリスが飲み物を渡してくれた。
この階ではすでに魔法石が破壊された後で魔物は出現しなかった。
「さっきは何か考え事をしてたんですか?」
「ああ、ちょっと俺たちが出会った頃を思い出しててさ。思えば、俺たちは記憶が無いまま酒場に放り出されて、そのまま災厄の魔女を倒す旅に出て、よく討伐に成功したなって思って」
そう言うと、そこでユウジの返事があった。
「俺は転移したとき、最悪だと思ったよ」
「なんかあったのか?」
「いきなり別世界に飛ばされたと思ったら記憶が全くなかったからな。だけど中途半端に前の世界の単語とかは覚えてるんだもんな」
ユウジがどこから取り出したか、パンにかじりついている。
「なんだよ、その中途半端に覚えてるってのは?」
「いや、だからよ。この世界で俺たちは生まれてないって本能的に分かるわけじゃねーか。自分たちの今までの生活はもっと安全なところに住んでいて学校みたいなところに通ってて。何となくそんな気がするだろ」
「そういった前の世界から、転移をしたってことか」
俺が相槌を打つと、ユウジはサキとアリスに語り掛ける。
「お前らもそう思うだろ?記憶は無いって言っても俺たち同士で、何となく会話は成立するじゃねーか。それが同じ世界から転移した証拠だと思うんだよな」
「そう考えると、私の夢も前の世界の記憶だったんでしょうか?」
アリスがおずおずと自分の意見を口にする。
「俺は現実だと考えてるよ、全ての内容が現実とは言い切れねえけどな。ところでサキは?どこまで記憶を覚えてるんだ?」
サキは宙を見て、上の空のような感じだった。
「んー、まったくもって覚えていないわね、自分がどこの世界から来たかも記憶にないのよね」
「サキは元の世界に戻りたいとか思わねーのか?」
ユウジがサキに続けて質問する。
「私は元の世界がどこだかよく分からないし、私はこのままでもいいかなって思ってる。なんだかんだみんなと生活しているの楽しいし」
サキはどこか愁いを帯びた顔をする。
「なあ、このダンジョンの攻略が終わったら、みんなで元の世界に戻る方法を探す旅に行かないか?」
ユウジが立ち上がってみんなに宣言した。
「ユウジさん!私はそれに賛成です。出来ることならサキさんの元の世界へ戻る方法も探しましょう」
「えぇ?私も?」
ダンジョン攻略だったら大賛成だが、本当に元の世界に戻る方法なんて見つかるのだろうか?
そして俺は元の世界に戻る方法があったとしたら、戻りたいと願うのだろうか?
「そうと決まったら善は急げだな。さっさとこのダンジョンを攻略して元の世界に戻る方法を見つけなきゃな」
ユウジがそう言うと俺たちはまた、攻略に向けてダンジョンの奥へと進みだした。
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