第2話


 ハア、ハア



 なんなんだこの緊張感は。


 トントン拍子とはこのことだった。


 いや、別にヤりたくて温泉旅行に誘ったわけじゃない。


 俺もまさかこんなことになるとは思わなかったんだ。


 付き合って1年とはいえ、今までキスさえしたことがなかった。


 それがどうだ?


 今日は天気も良く、街を散策するには最高の散歩日和だった。


 城を見るのが好きな彼女に連れられ、松山城を見て回った。


 人の行き交う温泉街に、道後ハイカラ通り。


 路面電車に乗って、港まで歩いたんだ。


 いよかんソフトクリームを口に頬張り。



 思えばあっという間の1年だった。


 今まで彼女なんてできたことなかったのに、突然告られたんだ。


 訳が分からなかった。


 返事を一旦保留にさせてもらったくらいだった。


 何かの罰ゲームかと思って。



 俺の彼女、——龍宮寺さくらは、あの三葉財閥の令嬢で、学校では誰もが羨む存在だった。


 学校は三葉ホールディングスが経営している私立学校で、基本的には金さえ積めば誰でも入れる。


 しかし学科やコースにはいくつかの種類があり、超難関の普通科特進コースはかなりの学がないと入れない。


 偏差値は70前後。


 偏差値70は、上位から約2.28%の学力層だ。


 100人中3人未満の、まさに最上位の学力レベルということになるが、どうせコネでも使ってそのコースに入ったんだろうと、俺らの間ではもっぱら噂だった。


 ただ、俺は彼女が、決してそこに“ズル”で入ったわけじゃない事を知っている。


 彼女には「夢」があって、今も直向きにそれを追いかけているということ。


 親に反対されながらも自分の道を歩いていること。


 だから俺は、気晴らしにでもと思って温泉旅行に誘ったんだ。


 この「場所」には、彼女の憧れの人がいたから。


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