第三話「お絵描き」

 絵を描くのが好きな息子が、変なものを描き始めた。


 絵自体は私と夫と息子が並んでる、家族写真的な絵なのだが……一番端っこに誰か分からないのがいる。というか、たぶん人間じゃないと思う。人の形はしてるんだけど、手足が異常に長くて目が8つもついている。一般的な宇宙人のイメージと妖怪の手長足長を、足して2で割ったような見た目だ。正直言って、めちゃくちゃ気持ち悪い。何を描いてるのか、なんで描こうと思ったのか猛烈に気になる。なんなら、それが分かったら消して欲しい。でも息子は完成する前に絵について何か言うと怒るから、完成まで見守ることにしよう。

 少し時間が経ってチラッと見ると、相変わらず描き進めている。あの変なのはというと……腕が増えている。背中のあたりから2対、計4本ほど。ここまでくると本格的に化け物だな、本当になんだこれ。唐突に思いついたのなら凄まじい想像力だと思うし、何かを見て描き始めたのなら……一体何を見たらこうなるんだ。気持ち悪いけど色々気になることが多すぎて、ある意味完成が待ち遠しかった。

 また覗いてみる。今度は色を塗っているようだった。私たち家族は普通の色。件の化け物はというと……基本的に真っ黒だが、所々黄色の模様のような斑点のようなものがある。目が8つあるのも相まって、女郎蜘蛛を彷彿とさせるカラーリングになっていた。そのまま背景も出来上がってきて、ますます化け物の存在感が際立ってきた。これ……完成して見せてきたら、私はどんな反応をすればいいんだろうか。そっちの方が怖くなってきた。あとは完成まで待とう。




「絵できたー」


 ……来た。

 私は平静を装って「なに描いたのー?」と振り返った。






 ……あれ?

 あの化け物が消えている。

 直前になって消したのかな、にしても跡がなさすぎるような……

 もしかして描き直した?

 最後に見た時からけっこう時間経ってるし、有り得なくもない。


 まぁなんにせよ、あの気持ち悪い化け物を見なくて済んだし……反応を考える手間も省けてよかった。でも、やっぱり気になるな。私はあらかた絵を褒めたあと、何気なく聞いてみた。もしかしたら、覗き見てたのを怒られるかもしれないけど。




「あの端っこにいたの、消したんだ」




 息子は答えた。




「ううん」
















「出てきた」

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