ひとくち怪談─子ども編─

双町マチノスケ

第一話「指差した先」

 子どもには視えるって、よく言うじゃないですか。


 私の息子にも、そんなことがあったんですよ。彼はずいぶん小さい頃におじいちゃんを……私の父を亡くしました。たぶん年齢的に、まだ人の死というものを理解できていなかったのでしょう。父の死を伝えた時キョトンとした表情だったのを覚えています。そのままお葬式に行って、いよいよ棺を囲んでお別れという時でした。それまで大人しかった息子が、突然棺を指差して泣き出したのです。

 あまりにも激しい泣き方だったので咄嗟に落ち着かせたんですが、どうしちゃったんだろうって思って。その場で死の概念を理解したわけではないでしょうし。棺から徐々に指と目線を上に向けていきながら、ひたすらに大泣きしていました。お葬式の後「どうしちゃったの?」って聞いても頑なに答えてくれなかったし、この前ふと思い出して聞いてみたら今度は「覚えてない」って言ってて。結局は分からないんですが……

 もしかしたら、魂が抜けていくのが見えちゃったのかなって思うんです。死の概念が理解できなくても、「もう会えない」ってことだけは分かったんじゃないかなって。あのとき指差した先には、天に昇っていく安らかな父がいたのかもしれませんね。私も同じように死にたいものです。




 *




 ……はい、今も覚えてます。

 というか、忘れられるわけがありません。


 ……親には言ってません。

 言いたくありません。



 小学生になるかぐらいの頃、祖父が亡くなった時でした。死んだことというか、もう会えないということはなんとなく分かったんですが実感がわかなくて。お葬式でみんなが啜り泣く中、僕だけ呆然としていました。そして終わり際になって、みんなで棺を囲んだ時です。






 人の形をした小さい影みたいなのが、どこからか這い出てきて祖父の遺体に群がるのが見えました。




 それで、それで……











 祖父の体から何かを引き摺りだしたんです。


 その「何か」は真っ白で、魂だったのかもしれません。そいつらはバラバラにそれを千切ったあと、上に飛んで消えていきました。僕は怖くて泣きました。訳がわからないくらい泣きました。「変なものに祖父が連れていかれる」と感じたというのも勿論あります。



 でも、何よりも恐ろしかったのは。




 そいつらが居るあいだ、穏やかな表情をした遺体の傍で。
















 ずっと、祖父の断末魔が聞こえていたんです。






 人って、死んだらああなるんだって。

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