05 タイプの違い

「ア、ア、アルビナは、なぜそうも女たらしに詳しいのだ。心臓が、心臓が持たない……!」

「なぜと問われましても、兄がそうなので」

「え!? そうなのか!?」

「ええ、お恥ずかしながら。なので、これまでの私の言葉はすべて兄を参考にしています」

「そうだったのか……」


 頷きながらも、ふとテオバルトの表情が曇る。

 真面目なテオバルトは優秀なのだが、すぐに変なところを気にする節がある。おそらくまたそれだろう。


「なにが気になるのですか?」

「婚約者が女たらしでは、恥ずかしいか……?」


 やはり、なにかと思えばそんなところが気になったらしい。が。


「……今さらです」


 まったくもってなにを言い出すのかと思えば。

 呆れたアルビナの言葉に、テオバルトがあからさまにショックを受けた顔をする。


「や、やはり恥ずかしかったのか……!?」

「そうではありません。落ち着いてください。そこを気にするのは、今さらだということですわ。それに王太子殿下のためと決めたのでしょう? 私が恥ずかしいかなどは関係ありません」


 初対面であんなにキリッと『二人に近づく社交界の令嬢をすべて引き受ける』などと言っていたというのに。


「それはそうなのだが……あのときは、あまりにもアルビナの立場を無視したことを言ってしまったと思ってな……」


 シュンとするテオバルトは、やはり誠実で疑いようもなくいい人だ。


「わたくしのことは、今は気にせずともよいのです。それに……兄は間違いなく恥ずかしい女たらしですが、テオバルト様は違います。女たらしのタイプが異なりますので、私は現状なにも恥ずかしいなど思っておりませんわ」


 アルビナの兄はただただ下心で女性の尻を追っかけ、そのためにあらゆる手を使う性根が腐ったタイプの真性女たらしだ。あれを恥ずかしいと思ったとて、テオバルトのように真面目に取り組む女たらしを恥ずかしいなどとは思わない。


(真面目に取り組む女たらしというのも、なかなかおかしな言葉ですけれど)


 自分で思っておきながら首を傾げてしまうが、その通りだからいいだろうとひとり頷く。


「女たらしにもタイプがあるのか……上級者の言葉は難しいな」

「わたくしは上級者ではありませんが」

「なにを言う! あんなに私の心臓を痛めつけておいて!」


 わぁっとベッドに顔を伏せてテオバルトが嘆くが、少しばかり言っていることがよくわからなくて慰めようがないのが困る。


「アルビナは、兄と親しくはなかったのか?」


 とりあえず落ち着くのを待っていたら、そんなことを聞かれた。


「親しいというより、家族に対して特に思うことはないです」


 素直に答えると、テオバルトがなんとも言えない顔をする。

 兄のためにと今まさに努力している彼だ。家族に対してなにも感じないなど、もしかしたら薄情な女だと失望されたかもしれない。

 そう思ったら、なんだか胸の奥が痛んだ気もしたが、これが本心なのだから仕方がない。


「……とにかく、練習を続けますか?」

「あ、ああ。そうだな。先ほどのはかなりの攻撃力だった」

「攻撃力、ですか?」

「私も上手くできるといいのだが……」

「大丈夫ですわ。テオバルト様は、本番ではいつもしっかりとご令嬢方が燃えそうなほどに赤面させております」


 アルビナとの練習では、毎回「おわわわ」などと叫びながら赤面してしまいなかなか事が進まないのだが、これがまた本番となるとしっかり完璧にこなしてみせるのだ。


 あれほどしっかりできるのだから、練習でもできてよさそうなのだが――今夜もテオバルトは「おわわわ」と叫びっぱなしであった。

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