蒼穹の魔剣士 ~異世界で最強の魔剣士として生まれ変わる星辰の軌跡~

神無月118

≪ENGAGE≫

SG.AGAIN


 ターボジェットエンジンを轟かせ、鉛色の空を裂く航空機が1機、しばらくして、あとから合流した2機が挟み込むように横につく。


「…………」


 通常巡行する高度はより高いが、今回は空母からの発艦と目標地点の高さが要因となり、だいぶ低い位置を飛んでいる。


≪……了解した≫


 突如、パイロットのCOMから人の声が響く。


≪こちら管制機オンブズマン、聞こえているか?君のコールサインは『アぺイリア』≫


「アぺイリア、了解」


 オンブズマンからの連絡に、端的にパイロットは答える。


≪当作戦は臨時に編成されたものにより、貴機はこちらの管制下にある。確認せよ≫


 視線を少しずらせば、ディスプレイHUDにオンブズマンとの接続が開始されたことを示すアイコンが3回点滅している。


「確認した」


≪加えて機体のチェックをしたい。要望通り、通常のジェネレータとは別に有機燃料装置を組み込んであるが、不都合はあるか?≫


「問題ない。わざわざ無人機を有人機できる連中だからね、ずいぶんと機嫌が良いよ」


 アぺイリアの駆る戦闘機は、単座戦闘機の形をしており、パイロットシートの後ろには他の2機と同じく全方位レーダー、そしてジェネレータとは別の有機燃料装置が機体内部に組み込まれており、この機体がありふれた有人戦闘機ではないことが見て取れる。


≪了解。アぺイリアは方位、速度そのまま、現状を維持せよ。こちらは僚機の確認に移る≫


 アぺイリアのキャノピーの外、その左右を見ると寸分のズレもなく、アぺイリアより少し後ろを飛ぶ僚機がいる。


 見下ろせばアぺイリアを中心にした、まるで鏡合わせのように見える完璧な左右対称。


≪これは……起動しているのか?≫


【オンブズマンへ通達。こちら、ウィングマン及びウィングマン2です。どうぞ】


 オンブズマンの不安まじりの疑問に答えるように女性の声が流れ、それに対して緊張しているのかオンブズマンは深く息を吐く。


≪……規定されたプロトコルを開始せよ≫


【オンブズマンへ通達。ウィングマン及びウィングマン2の機体航行シーケンスを開始。許可された僚機行動を確認。当該処理過程はシステムへ送信されます。これにより僚機の無制限兵装ウェポンズロックを解除フリー、兵装No.2より兵装No.6が解放されました。なお、当該行動は第23条及び53条4項その他システム管理権限において、システムの執行は早期警戒管制機、臨時代替執行指揮官、呼出符号オンブズマンに優先されます】


 言い終わると、目の前のディスプレイに表示されている、無人機側のHUDの兵装はロック状態を示す赤から、解除状態の緑へと変わる。しかしアぺイリアの機体兵装は依然として赤だ。おそらくオンブズマンもそれを確認しているだろう。


≪………これだから無人機は……≫


 ウィングマンの淀みなく発せられた言葉にオンブズマンは、嫌悪感というよりは単純にどう対処すればいいのかわからない、という困っている様子がありありと想像できる声を発した。


 もう一度アぺイリアの左右を見る。


 横を航行する僚機は無人機。本来人が乗るべきキャノピー部は全方向カメラとレーダー、固定された小さい機械がどっしりと居を構えている。


「ウィングマン、あまりオンブズマンを困らせるもんじゃないよ」


【…………】


 アぺイリアの発言に沈黙するウィングマン、もとい『A.Iシステム』


 聞こえていないわけではないのだろうが、応答がない。


≪……手間をかけるな、アぺイリア。私は古い人間で『A.Iシステム』がよくわからんのだ。すまないな≫


 オンブズマンは、これでは管制官失格だな、と自嘲する。


【アぺイリア、オンブズマンへ通達。まもなく作戦領域に到達、指定された行動を開始。オンブズマンは無線封鎖を開始してください。あとはオンブズマンと両ウィングマンのみの通信に限定されます】


 感慨に浸る余裕もなく、システムA.Iからの通知に則り、行動を始めるオンブズマン。


≪了解した。アぺイリア、何か伝えることはあるか?》


「……特にない」


 《そうか……生きて帰れよ。アぺイリア≫


 オンブズマンには、それだけしか言うことはない。


 その言葉を最後にオンブズマンとの通信は終了した。


 そして作戦領域に到達したことを示す、いかにも機械音声なガイダンスが流れた後、別の通知音が鳴り、有人機のディスプレイHUDにだけ通知が表示される。


 有人機に搭載された『システムA.I』によって、僚機の無人機からのコールを報せているのだ。


 そして、音声と共に丁寧にも字幕が表示された。


【『作戦領域に到達、予定された通り、ウィングマン1及びウィングマン2はアぺイリアのトンネル突入を確認後、基地に帰投します。幸運を、アぺイリア』】


 以降の通信は終了した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る