1-3
ガタン。机の引き出しを閉めた後、なんとなく手先を見ていると、俺の方を見ていた万理が沈んだ顔をした。そして、俺はハッとなった。こういうことを見せてはいけないと思うからだ。万理が俺の手に触れてきた。
「お兄ちゃん……」
「うん?なに?」
「あのさ……」
「どうしたんだよ……、あ……、これか~」
「お兄ちゃん……。夏樹お兄ちゃんにはマッチョは似合わないよ。それより、伊吹お兄ちゃんが東京から帰った時に……、あの……」
「ごめん。すぐに片づけるよ!」
万理がさらに沈んだ顔をした。視線の先にあるものを見て納得した。机の横にあるサイドボードの上を見ている。そこには傷だらけのコルクボードを置いてある。ノートひとつ分の大きさだ。さっきまでカッターナイフで傷をつけていた。
「お兄ちゃん、それは何枚目なの?この間、新しいものを買ってたよね?」
「何枚目かな~。月に1枚だからね。単純計算で、今年4枚目だよ」
「指を怪我してるよ?爪の下から血が出てるよ……」
万理の涙混じりの声に、胸が痛くなった。見せ付けたいわけではない。普通にしていたいのに、そう出来ない。つい、コルクボードを使ってしまう。
一歩外へ出ると、俺には厄介事が寄って来ている。俺が女の子に見えるからだと思うが、電車では痴漢に遭い、駅の構内では後を付けられることがある。学校の制服を着ていて、男だと分かっていても、そういう目に遭うことがある。急いで学校の正門へ入ったことは何度もあり、その度に教頭先生が出てきてくれた。俺の目つきが悪いから目立っているのだと思う。小学生の時からだった。そのきっかけになった出来事がある。
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