第9話 瑞樹のレベルアップ

 あの後、Dは自分のダンジョンの住居環境を高めるための研究を行っていた。その中で最も大事なのはやはり「食料」である。住環境を高めるのも大事だが、ダンジョン内部で暮らすためにはやはり食わなくては生きていけない、と悟った彼女は、色々農業について調べ始めたのだ。

 瑞樹などからインターネットについて聞いたDは、この電子機器などが狂う樹海内部でも、幻覚魔術に隠されたパラポナアンテナを複数ダンジョン外部へと展開し、瑞樹のスマホに繋いで電波を受信し、そのスマホとD自身が接続して情報検索を行っているのだ。本来はスマホにケーブルを繋いでそのままD自身と接続することで超高速で情報収集を行うこともできたのだが、まるで死んでるように横たわっているDを見て、不安になった瑞樹たちはもうちょっと何とかならんか……?という要望を聞いて、わざわざ仮想ディスプレイや仮想キーボードを空中に展開してわざわざそれを操作して情報収集を行うようにしたのである。

(非効率的だとDはぶーぶー言っていたが)


 うーむ、と食料や農業についての情報を架空キーボードや仮想ディスプレイで、インターネットを通してDは色々な情報は探っているが、やはり農業というのは実際に行って見てノウハウを積み重ねていかないと上手くいかない人類の知識の結集である。やはり種も苗もない状況ではどうしようもないかぁ、とDは背伸びをしながら考える。


「うーん、麦じゃなくてコメを生み出せとか無茶ぶりが過ぎるよぉ……。

 そもそもコメのデータがないんだから~。相棒~。コメだけじゃなくて色々な農作物の種とか持ってきてよ~。とりあえず試してみないと何とも言えないよ~。」


ぶー垂れていたDだが、とりあえず食料生産のことは置いておいてほかの自分のできる事をしよっか、と言葉を放つ。


「まあそれはともかく……別のことを考えよっか。まずはね……そう!レベルアップだよ!!私の相棒がクソ雑魚人間どもに馬鹿にされるなんて我慢できないから、バンバンレベルアップしていこっか!!力こそパワー!!サムライ?っていうのは舐められたら終わりなんでしょ!!

 私のレベルを直接注ぎ込むと多分耐えきれずにパァン!するからね。自分自身で強くなっていって自分で器を広げていくのが一番だよ~。」


 本人からしたら布切れでも、やっぱり新しい服を着るのは彼女自身のテンションが上がっているらしい。ヒャッハーと言いながら、Dはそのテンションのまま瑞樹に対して声をかけていく。Dと同じダンジョンコア因子を持つ瑞樹にDがそのまま無理矢理レベルを注ぎ込む事も可能だろうが、そんな事をすれば瑞樹の肉体が弾け飛びかねない。もっとほかの地道なレベルアップ作業が必要になるのだ。

 このダンジョン内部ではDはまさしく絶対神そのものである。居住地域の階層のまだ何もない一区画部分で、Dは二人を連れてきてと、とある魔物を召喚……いや『作成』する。Dが出した魔物は、大型犬とほぼ同じ魔狼、グレイウルフである。

 これら魔物であるグレイウルフを何十体も倒す事によって、経験値を稼がせる事によってDは瑞樹のレベルを上げさせようという考えなのである。

 Dの手で作り出されたグレイウルフは、とことこと瑞樹の前まで歩いてくるとそのまま伏せて頭を瑞樹のほうへと向ける。

 そして、そんな瑞樹に対して、Dはダンジョン素材で作り上げたメイスを彼に持たせて伏せているグレイウルフの頭を指し示す。


「さあ!今のうちにブッ殺してね!大丈夫!相棒に傷つけないように絶対服従にしたワンコだよ!!無抵抗だから問題なし!!さあ早く!!これを百体ぐらいやればレベルは上がるから、戦闘技能はそれから身に付けよう!」


 こちらに対して床に伏せて頭を差し出しているウルフを見ながら、瑞樹はメイスを手にしながら思わず首を振った。


「いやいやいや、ちょっと待て。待ってくれ。これはない。これはないよ。絶対服従の動物をなぶり殺しとかないわ……。」


「そうだよ~。こんな可愛いもふもふを叩き殺せとかちょっと酷くない?もうちょっと凶悪~とか無機質~とかそういう感じな方がいいよ。」


 そう言いながら姫奈はウルフの毛並みを撫でたり喉元をさすったりしている。どうやらウルフの毛並み……もふもふが気に入ったらしくウルフを撫でたり自分の保存食である干し肉の一部を分け与えたりしている。

 そんな彼女に対して、伏せていたグレイウルフは彼女の胸に飛び込んで、はっはっと嬉しそうに尻尾を振って懐いている。あはは、と楽しそうに笑顔を浮かべる姫奈を見ながら、瑞樹は流石にDに対して批難の視線を向ける。

 そんな瑞樹に対して、彼女はえー?と唇を尖らせてこちらも不満を口にする。


「えぇー?せっかく相棒のために格好の獲物を作ったのに相棒はわがままだなぁ。え?適当に反抗してくれた方がやりやすい?仕方ないなぁ……。」


 とはいうものの、わざわざ相棒や親友である皆に逆らってまで自分の意見を貫くほどではない。Dはうーん、と色々怪物を検索していくとちょうど良さそうな怪物を見つけたらしく、指を鳴らしてその怪物を召喚……いやその場で作成を行う。


「うーん、となるとぉ……。生体よりもゴーレム系がいいか。これをこうしてと……。よし!それじゃ相棒やってみようか!」


 その彼女の言葉と共に、床からズズズ、と音を立てながら2mほどの人より多少大きい程度の泥で作られたゴーレム……グレイゴーレムが作成される。

 ストーンゴーレムなどでは、瑞樹に対して硬い肉体でダメージを与える可能性は大いにあるが、泥人形ならばダメージを与える可能性も少ないし、こちらからのダメージも通りやすい……つまりは破壊しやすいという理由からである。

 しかも、それだけではなく、Dが架空キーボードをカタカタといじると瑞樹の肉体も光り輝き「何か」がインストールされてくる奇妙な感覚が襲い掛かる。


「相棒!!相棒の体に格闘戦スキルをインストールしたよ!!後、拳をめっちゃ硬くしたり爪を生やせるようにしたよ!まずはきちんと自衛のために鍛えよっか!!」


 ええ……?なにそれ怖い。そんな事できるとか初耳なんですけれど?と瑞樹は思ったのだが、そんな彼の動揺にも構わずゴゴゴ、と音を立てながら泥……粘土で作られたグレイゴーレムは瑞樹と向かい合う。本当は石で出来たストーンゴーレムの方がより高いレベルを注ぎ込む事ができる。そしてそれを倒せばより瑞樹は強くなれる事になる。

 だが、荷物持ちで肉体は鍛えられているとはいえ、戦闘訓練を受けていない瑞樹に対して粘土で作られたグレイゴーレムは戦闘訓練のための最適である、とDは判断したのだ。

 瑞樹はそんなグレイゴーレムに対して、Dが言うように自らの拳に集中すると、拳を覆う爪が存在するナックルガードが構成される。

 本来は拳から爪が生える仕様だったのだが、瑞樹はこちらの方がより殴れる、と判断した結果、こうなったのだ。

 そして、今までプリーストに甘えていたウルフも瑞樹の元に駆け付けると、ぐるるる、と牙をむき出しにして威嚇する。


「おお、ワンコそっちにつくかぁ。まあ相棒も実質私みたいなもんだしまぁいいか。

 ワンコ!相棒をしっかり守ってあげてね!!」


 そのDの言葉と共に、グレイウルフは地面を蹴ってグレイゴーレムへと襲い掛かる。

 グレイゴーレムもその泥の腕をぶんぶんと振り回してウルフを倒そうとするが、元々極めて敏捷性の高い野生の勘を持っている狼がそんな攻撃に当たるはずもない。

 そんな風にゴーレムを牽制して跳ね回るウルフに対して、瑞樹は連携を取るように踏み込んでナックルガードの一撃を叩き込む。


 だが、その一撃はずぼっ!というゴーレムの泥に飲み込まれてしまう。肘の部分まで勢いよく飲み込まれてしまった瑞樹は、必死になって引き抜こうとするが、それでも引き抜けずそれに対して、空いている左腕でさらにグレイゴーレムに拳を叩き込む。


「ガゥウウ!!ガウガウ!!」


 グレイウルフも牙を剥きながらグレイゴーレムに対して攻撃を仕掛け、跳躍しながら牙や爪で次々とグレイゴーレムを切り裂いていく。

 そして、グレイゴーレムは瑞樹の腕を取り込みながら殴りかかろうとしたが、ギギギと動きが鈍くなっていく。それは瑞樹の中にあるDの因子がグレイゴーレムを操作して、グレイゴーレムはそれに呼応して、瑞樹に攻撃を仕掛けるつもりが、彼の制御に従い、自らの腕で自らの頭を殴り飛ばして粉砕する。それを見て、予想外の状況にDはちょっと冷や汗をかきながらもOKを出す。


「ま、まあ予想外だったけど、結果はLVが上がったからOK!!というか相棒そっちの能力が向いてるのかなぁ。それならそれで自衛力を高めた後は魔物使役能力を高めていったほうがいいかぁ……。」


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