第40話 攻撃魔術が使えない理由

 「………駄目だぁ。えいっ、てやろうとしているの全然出来ない」


 クーヤは力んでいた体を緩ませて、息を吐き出しました。放課後から練習を始めて二時間は経っていますが、今日も魔術は一度も成功していません。


 「うーん。イメージが大事だって先生は言ってたけど、なんかしっくりこない………」


 魔力を捉える感覚はそれこそ何十回も何百回も練習してきたので、今では手に取るようにわかります。ですがその先がどうしてもクーヤにはわかりませんでした。

 実際に魔術を使っているクラスメイトたちの姿も見てその真似をしてみますが、上手くいきません。あまりにもどかしかったのか、最近ではウルフェンでさえ少しアドバイスをしてくれていました。


 「考えるな。感じるんだよ」


 どうやらウルフェンは感覚派のようでした。まぁ魔術に関してはそのアドバイスもあながち間違いではありません。自分の内にある力を感じ取りながら、その力を最適な形にして魔術を発動する。そこに方程式といった明確なものはないのです。


 「ファイアーボール!………ふぁいあーぼーる!………ふぁい、あー!ボール!!」


 色々と試行錯誤しているのはわかるんですが、言い方を変えても発動しませんからね。可愛いですけど。


 「クーヤくん!!」


 今度は魔術を使う時の恰好を変えてみようかな、と考えていたクーヤの所にベルが小走りでやってきました。両手に抱え込んだ本を大事そうに抱え、息を切らせています。額の汗を拭う事もなく、ベルは前のめりに話しかけました。


 「あの、あのね!私、話したい事がっ!」


 興奮して言いたい事がまとまりません。上手く話そうと思えば思う程、ベルの言葉は詰まってしまいました。


 「あ、あ、あ、そ、その………」


 焦りだすと頭の中が真っ白になってきて、考えていたことも何処かに飛んで行ってしまいました。普段から話す人がクーヤ以外いなくて喋る事も満足に出来ない自分に、ベルは泣きたい気持ちになってきてしまいました。そんなベルを、クーヤは何も言わずに穏やかな表情で待ってくれています。

 いつもとは違うその表情に、どきりとベルはしてしまいます。見守ってくれているかのようなクーヤの姿に、ベルは安心感を覚えて少しずつ気持ちを落ち着かせていきました。


 「あの、この本にヒント、ある………かも」


 それでもベルは言葉を上手く伝える事が出来ませんでした。ですが、これがベルの精一杯です。そんなベルの気持ちを、クーヤは受け取ってくれました。差し出された本を手に取り、その表紙を眺めています。


 「これは魔術書、かな?」

 「う、ううん。あの、辞典、だけど、その、人間の魔術も載ってるみたいで………」


 何かの参考になる、かも………とごにょごにょと言って、ベルは顔を伏せてしまいます。

 早速、クーヤは本を開いてみました。中には様々な魔術が載っていて、授業中に見かけた事がある魔術も一杯ありました。


 「あ、これ………」


 しばらく読み進めると、クーヤの目に止まった魔術がありました。それは魔族には使う事が出来ないと言われる魔術。どうやらそのページには聖属性の魔術が載っているようでした。


 「もしかしてこれが理由なのかも」

 「え!?クーヤくん、もう魔術が使えない理由がわかったの!?」


 本を開いてから数分しか経ってません。驚いてしまってつい大きな声を出したベルは、興奮気味に尋ねました。


 「うん。たぶん、僕は攻撃魔術が使えないんだ」


 聖属性の魔術には防御と回復しかなく、守りの魔術と言われていました。リザ先生はその事に気づいていなかったようですね。

 一応、彼女の名誉の為に言っておきますが、クーヤにずっとマンツーマンで教えてあげられるから出し惜しみしていた、というわけではないようです。腐っても先生ですから、そのあたりはちゃんとしています。腐っても先生ですから。

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