第37話 裏・家族会議 その一

 夜も更けたある日の事。ぼぅ、とした小さな蝋燭の光が暗くなった部屋の中で四つ、瞬いています。頼りない光に照らされて浮かび上がった顔はメルト、フィリオ、シア、ミールの四兄妹でした。黒魔術の会合みたいな事をしていますね。


 「只今をもって、裏・家族会議を始めようと思う」


 まばらな拍手に取り仕切るフィリオはどうどうと両手を動かします。それから厳かに机の上へ腕を乗せて、両手を組み合わせました。眼鏡が蝋燭の光に反射してめちゃくちゃ眩しそうなんですが、あれ、前が見えているんでしょうか。


 「まずは僕からの報告だ。クーヤの周辺状況について」


 あぁ、やっぱりクーヤの事についてなんですね。大体は予想ついていましたが。


 「同級生たちとの関係は良好。男女共に好かれており、一人だけ友人関係になった者もいるようだ」

 「はい!そのお友だちは男の子ですか!女の子ですか!」


 いつものように元気よく挙手するシアです。場の雰囲気に合ってはいませんが言っても聞かないのはわかっていたので、フィリオも特に注意はしません。


 「女子なの」


 フィリオに代わって答えたのはミールです。今にも舌打ちをしそうな程、渋い顔をしています。クーヤの身辺警護をナイトとトーカにさせているので、一番よく知っているのがミールなのです。家族以外に仲良くしている友だち、しかも女の子なので嫉妬しているようですね。


 「えーっ!?ほんとに!?クーヤからそんな話、聞いてないわよっ」


 ぷりぷりと怒っているシアですが、ちゃんとクーヤは話していましたよ。ベルの事。ベルが女の子だとは話していなかっただけで。


 「おねえちゃんはいいと思うわー。クーヤちゃんのお友だち、たくさん出来るといいわねー」


 のほほんとメルトが笑っています。年長者としての余裕でしょうか。


 「ただ、お友だち以上の関係になるっていうのなら、まずは私を倒して貰わないといけないわね」


 急に表情変わると恐いので止めてください。マジです。真剣な顔で本気と書いてマジの目をしています。


 「メル姉っ。一人だけずるいわっ。わたしも倒さないと付き合わせない………いや、やっぱり倒しても付き合わせないわ!」

 「大丈夫なのです。シア姉様。ミールのオートマタ軍団を使えば、母様、父様以外なら勝てるの。ふふふ。ミールの最後の砦は越えられないのです」


 そもそもこの内の一人にだって、勝てる魔族なんてあの学校にはいません。魔王ファミリーの力は伊達ではありませんから。


 「クーヤへの愛はわかったから。話を元に戻すぞ。クーヤの周囲との関係は良好だが、一つだけ問題が発生した」

 「問題?」


 メルトとシアが仲良く首を傾げます。ミールはもう知っているので、特に反応はしませんでした。

 ちなみにリザの事ではありません。奇跡的にリザの変態性は魔王ファミリーにばれていないようです。良かったですね、リザ。もし知られていたら消し炭にされていたでしょう。


 「へっぷし!あれ?なんだかとてつもない悪寒が………昨日、全裸で寝たせいかしら?」


 遠い所でリザが自分の危機を察知していました。というか、なにしてんですかこの教師。

 リザの私生活にはノータッチでいる事にして、話はまた魔王家に戻ります。


 「ザイアス家についてだ。高位魔族であり、父さんに敵対している家の子どもがクーヤに近づいている」


 ザイアス家とはウルフェンの家の事です。


 「なにそれ。何か企んでクーヤに近づいているって事?具体的には何かしてきたの?」

 「………落ち着いて聞いて欲しいが、クーヤを舎弟にしているんだ」

 「しゃてい??」


 言葉の意味がわからなかったのか、シアは同じ言葉を繰り返しています。ごにょごにょ、と隣に座っていたメルトがシアに言葉の意味を教えてあげていました。


 「よし、潰すわ」


 笑顔でそんな恐ろしい事を言って、部屋を出ていこうとするシアをミールが止めました。おや、意外な人物ですね。てっきりシアと同じように怒り狂っていると思っていましたが。


 「シア姉様、落ち着くの。クーちゃんは舎弟にされても嫌がってないの」

 「そんなのクーヤが優しいだけだわ!クーヤの優しさに付け込んだウルフェンって奴、許さないんだから!」

 「ちょ、ちょっと落ち着けっ。そんなに魔力を放出していたら………」


 怒りで魔力の制御が効かなくなり、母親譲りの赤髪が燃え上がっています。そんなシアをフィリオは抑えようとしていたようですが。


 「お前たち、こんな暗い部屋で何してるんだい」


 遅かったようです。

 ぱちっ、とスイッチが入り、部屋に明かりが灯りました。四人は急に暗い所から光をつけられたので、眩しくて目を閉じてしまいます。

 どうにか目を開けて、ぼやーっとした視界の先にいたのは、呆れた顔をしているカミラなのでした。

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