転生したわがまま令嬢、気づけばギロチン回避ですわ!?〜断頭台から始まった二度目の人生を謳歌していると、前回とは違う展開に!?〜

冬ノゆきね

第1話 やり直しですわ!

 真っ赤に染まる空、燃え盛る王国、多くの人の悲鳴が耳に入る。それは紛うことなき絶望。

 突如として起きた王家に対しての反乱。王家に組する貴族もまた標的となり、見せしめとして革命軍の前で断頭台ギロチンで首を落とされる。


 あまりに悲惨な光景にリリーア・アルトゥークは嘆くことしかできず、現実を受け入れられずにいた。手で目を覆い隠そうにも鉄の枷で自由に動かせない。


 手枷がハメられたリリーアの前に一人の女性の姿が目に浮かんだ。もし彼女の助言を聞いていれば、こうはなっていなかったかもしれない。結末が変わっていたのかもしれないと。あの時、あの場所であのことを正しく行っていれば、と思うばかりである。


 だがそんな助言をしてくれた彼女はもういない。

 今日がリリーアの処刑日、なら彼女は何日も前に……あれだけリリーアに尽くしたというのに。


「本当に本当にごめんなさい」


 そんな感謝と情けなさから出た言葉。

 

――……怖いですわ。エーリカ。


 そして刑が実行に移されようとしていた。

 リリーアは断頭台ギロチンに跪き首を固定される。


 目の前にはこの革命を企てた人物――第二王子ルシウス・ユランディーズ。自らの家族であり王族をも手に掛け、クーデターを起こし、民衆を先導した人物である。


 その隣にはアイーシャ・アンゼルハントが狂気に満ちていた。辺境の貧乏貴族の娘でありながら、その高い統率能力はまるで聖女だと言われ、ルシウスの右腕として活躍……革命を起こした人物だ。


 そんな2人を前にしても、リリーアは落ち着いていた。

 

――なぜ、あのようなことを? それに大切な方々は、皆様無事に逃げられたのかしら?

 

 この状況でさえリリーアは自分の心配より他人の心配をしてしまう。わがままに生きてきたリリーアが初めて他人の心配をしたのだ。

 

 そしてルシウスの行動に対しても心配でならない。

 

 もうとっくの前に死は受け入れたはずだというのに、リリーアの手足は処刑が近づくにつれビクビクと震えていた。

 この身体が証明している。

 

 リリーアは死を恐れていたのだ。

 

「王家に組する貴族め! ここで貴様を処刑する。僕は悲しいよ。まさか君まで王家に組するとは思わなかったよ、リリーア・アルトゥーク嬢。そして僕の婚約者」

「ルシウス様、最後に一つだけよろしいですの?」

「何だい? 言ってみろ」

「なぜ、ルシウス様はここまでのことを」

「まだ理解できないとは……僕の婚約者としての資格もなかったというわけか……まあいい、王家は大きな勘違いをしている。民あっての国だというのに、国あっての民なんて戯言を吐く。そういう奴らに対する、これは民の声であり、報いだ」

 

 リリーアはルシウスの婚約者でありながら初めて知ったのだ。彼の心の内を……普段、大人しめな彼は気持ちを表に出そうとは決してしなかった。しかし今は……あれは本気で民のことを思っての行動なのだと、決意なのだと感じたのだ。


 そんなルシウスの言葉を聞き、リリーアは強張った表情を笑顔に変えて見せた。


 その表情を見て必死に手を伸ばすルシウス。


――初めてあなた気持ちが理解できましたわ。

 

 ルシウスの秘められた気持ち、優しさ、冒険者から成り上がり貴族として傲慢になっていた自分がいたのだと、この時初めて理解した。

 同時に一瞬でリリーア意識は途絶えたのだ。



 陽の光が顔に当たり眩しい。目を開けると、そこは広大な平原で色とりどりの花が咲き誇っていた。土の匂い、花の香り、心地いい風。懐かしい光景だった。

 近くの川まで歩み寄ると、顔を覗かせた。

 

――な、なな何ですの!? かつての私ですわ!!

 

 黄金色の長い髪、サファイアのような青い瞳、若々しく透き通った白い肌。これを見て夢でも……と思ったのだが、リリーアは周囲を見渡した。


 どう見てもここは……リリーアの故郷であるサンギス村であった。古びた民家が立ち並び、子供やお年寄りも含めてワイワイと楽しそうに暮らしているのだ。


 そんな過去の光景が目に入ったことでリリーアは驚愕してしまう。なぜならこのサンギス村はとっくの前になくなったはずだからだ。

 そう確かあれは……リリーアが冒険者から貴族に成り上がった時に。

 

 泥まみれの青いドレスの懐から一枚のプレートを取り出した。小さなボタンを押すと、目の前にリリーアの情報が宙に映し出される。一番上にはリリーア・アルトゥークと名前が書かれてあり、その下には現時点の冒険者ランクが刻まれていた。

 そこにはなんとSSランクとの表示が!?

 

 他にも細かな数値が刻まれているも、文字化けしている。しかし他の内容も確認しようとプレートをいじって操作するもこれ以上の表示はされない。


「おかしいですわ……。それに私のランクはAランクだったはず……そもそもSSランクなんて聞いたこともありませんわ」


 そう思うのも当然だった。リリーアの記憶上では最高でもSランクだったはずで、SSランクなんてものは噂でも耳にしたことがなかったのだ。

 それにこの村の様子はもちろん、確認した能力も含めておかしな点が多すぎるのだ。


――確認すべきですわ!


 リリーアは必死に首あたりに傷がないかを確認する。触れては確認して、触れては確認してと何度も何度も繰り返すうちに落ち着きを取り戻していった。

 確かにあの時、首は…………。


「もうわけがわかりませんわ〜!!」


 それにこの細い手足、肉付きも子供の頃に戻ったようで……胸の膨らみも控えめである。


――こんなぺったんこだった覚えはありませんわ!

 

 リリーアは一度自分の頬を叩いた。

 そして懐かしき故郷サンギス村に顔を出すことを決意したのだ。この冒険者プレートに関すること、そして現状を確認すべきと判断しての行動だった。


――――――

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