第43話 蹂躙のベルーガ

「────ッ!?」


2本角を持つ巨漢の魔人。

豪腕のベルーガ。

最初に異常を感知したのは彼だった。


「オイ、ビルビーたちの魔力が消えたぞ……!?」


神水をゆっくりと飲ませるリャムラットの横でつまらなさそうに空を見上げていたベルーガは、ビルビーたちが小娘を追って消えていった通りの向こう側を凝視した。


……魔力を消す技術はある。ゆえに魔力が消えること自体は不思議な現象ではない。それはゆっくりと周囲の気配と馴染ませるように消して、エモノに自らが潜んでいることを悟らせないための技なのだから。


しかし今のは明らかにそれとは違った。

唐突に消えるその気配は、まるで絶命したときのもの。


「リャムラット、器の協力者はソコの赤髪の女ひとりじゃなかったのか?」


「そうとは、限らない……だが、町で名を馳せている人間は、ソイツだけだった」


「フン、まさかのサドンデスか。いいだろう。ビルビーやワルシュラには悪いが、オレの楽しみは増えた」


ベルーガは不敵に微笑むと立ち上がった。

1日に二度、この腕を満足に振るえる日が来るのは何とも珍しいことだ。


「……ベルーガ、神水を、器に飲ませ切るのに、1分と少しかかる」


「あ?」


リャムラットの言葉にベルーガは首を傾げた。

1分掛かる? それがなんだというのだろう。


「……まさかリャムラット、オレが敗けるとでも?」


「敵は、未知数……ゆえに、勝てないと判断したら、時間をかけろ」


「フン。ナメるな」


ベルーガは鼻を鳴らす。


……やられやしないさ、絶対にな。


ベルーガは、敵のやり口には想像がついていた。

どうせ敵は不意打ちをしてくるに違いない、と。


……ビルビーとワルシュラを瞬殺なんざ、不意を突く以外でできるハズも無い。遠距離特化型の攻撃か、あるいは回りくどい呪いか……いずれにせよ、油断さえしなければ何の問題もないな。


ベルーガは周囲の警戒を解かず、仁王立ちして待った。

それから10秒もしない内のことだった。


「……オイオイオイ」


敵……その男は真正面から駆けてきた──

いや、翔けてきた。

建物を蹴った反動で空中を自由自在に跳ねて。


「ハァ──ハハハハハァッ!!!」


ベルーガの口から漏れ出たのは、歓喜の声。


「ウソだろぉッ!? オイッ!!!」


「ミルファちゃんを────返せぇッ!!!」


器の元へ一直線に飛んでくるその男はベルーガのことなど見えていなかった。


……ナメやがって!


その進路に割り込むようにしてベルーガは腕を振るった。

男もまたそれに合わせるように殴りかかってくる。

互いの右腕が交差して、互いの顔に鋭く突き刺さった。

その一撃でベルーガは理解する。


……オレはこの男に、勝てない。


「ぶるぁッッッ!?!?!?」


鈍い轟音を響かせて、ベルーガの巨体は一方的に遥か後方へと吹き飛ばされた。




* * *




俺が駆けつけた先、敵は2人いた。

ひとりは長い2本の角を持つ巨漢、そしてもうひとりは──

ミルファちゃんの口に何か壜のようなものを押し当てて、中身の液体を飲ませている。


頭の芯が燃えるようにカッとした。


「ミルファちゃんを────返せぇッ!!!」


建物の壁を思い切り蹴り込んで、その反動で勢いよくミルファちゃんの元へ飛ぶ。

しかし、ゴウッ!!! と。

俺の真正面に邪魔が入った。

それは巨漢の男の大きな拳。


……邪魔だ。お前に用はない!


思いっきり2本角の魔人を殴りつけた。

ソイツは吹き飛んだ。

でも、俺もまた攻撃をまともに受けた後ろに飛ばされた。

だが、ダメージはない。


「おい、クソ魔人……ミルファちゃんを離せ」


もうひとりの魔人へと俺は再び向かう。

だが、


「断る」


魔人が掲げた手から奔る何本もの光線が俺の体を強かに打った。

だけど、威力は大したことない。


「押し通る──ッ!!!」


光線を正面から受け止めつつ、俺は力任せに前に進む。


「なんと、驚異的な……一撃で岩も破壊する攻撃、なのだが」


「ミルファちゃんから離れろっつってんだよ……!」


「だから、断る、と言っている」


「ああそうかよ、ならお前を殺すッ!!!」


魔人の目の前にまで迫り俺は腕を振り上げる。

しかし、ガクンと。

俺の膝が崩れた。


「オイオイ、さっきの一撃だけでオレが終わるとでも?」


先ほど殴り飛ばしたはずの巨漢の魔族、それが俺の足元にタックルを仕掛けた。

思わず地面に腰を着いてしまう。

そのスキを巨漢は逃さなかった。


「オラァ──ッ!!!」


「くっ……!」


俺の足を持ったかと思うと、巨漢はジャイアントスイングの要領で俺の体を遠くへと投げ飛ばした。俺とミルファとの距離が再び、離れてしまう。


「邪魔をするんじゃねーよッ!!!」


「ハハッ、ならオレをまず殺すことだな」


「分かったよ……出てこい、大剣ッ!!!」


俺は巨漢の元へと跳ぶ。

巨漢は俺に拳をぶけようと振り回してくる。

避けすらしない。

それを顔面で受け止めつつ、


「らぁぁぁッ!」


大剣を振り降ろし、巨漢を叩き潰す。


「がぐぅ……ッ!?」


それでも死なないので頭部を横から薙ぎ払う。

バキリと大木を真っ二つに折った音がする。


「ギ……ッ!」


これでも死なないのか。

なんて……邪魔な。


「ラァァァァァァ────ッ!!!」


しっちゃかめっちゃかに大剣を何度も上から叩きつける。

まるでもぐら叩き。あるいはワニワニパニック。

違うことがあるとすればターゲットがひとりだけに絞られているということ、そしてターゲットに逃げる場所も隠れる場所も無いことだろうか。


「────ッ!!!」


地面は陥没し、しかしなおも俺は殴るのを止めたりはしない。

コイツは相当にしぶといらしい。

なら徹底的にだ。


「ハァァァ──ッ!!!」


振り上げ降ろす腕を休めることなく、俺は巨漢の魔人を地面に打ち付け続けた。




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昨日から新しい連載も始めました!


タイトル:

ミミックしかテイムできない無能だからとダンジョンに置き去りにされた俺、【ミミック専用スキルボード】を獲得した結果、やがて超希少アイテムばかり見つけるSS級レア・ハンターとして名を馳せる

↓小説は以下から

https://kakuyomu.jp/works/16817330668342684466


少しでもご興味わきましたら、ぜひこちらもお読みいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします!

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