第2話 色が変わるよ

彦徳は急いでいた。


いつもより10分も、家を出る時間が遅くなった。


全力疾走、とまではいかないが、70%位で学校へ急いでいた。


その途中、「ちょっと僕」と声を掛けられた。


声の方向を見ると、長身でガタイのいいおじさんが立っていた。

思わず立ち止まる。


「この手帳を見てみて」

おもむろにおじさんは、脇に抱えていたA5サイズ程の手帳を開き、

ペンで何かを書き出した。


「色が変わるよ」

手帳に書かれたその文字は、「が」から「変」にかけて少しづつ

色が黒から赤に変わっていた。


「わぁ、凄い」

彦徳は驚き、おじさんの顔を見た。

喜怒哀楽のどれでもない、なんとも言えない顔でこちらを見ていた。


「色が変わるよ」

また同じ文字を手帳に書いた。

今度は「色」から「わ」にかけて少しづつ色が赤から黒に変わっていった。


だが、「る」の辺りからガリっと、インクの切れた万年筆のような音がして

「よ」が完全にかすれてしまっていた。


「また見てね」

そういうとおじさんは手帳を大事そうに脇に抱えると、

どこかへ歩いて行ってしまった。


おじさんの手はどす黒く変色していて、地面には赤黒い液体がおじさんの影の様に

じわりと垂れていた。













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