第396話

のぼう様こと成田大蔵大輔(成田長親)は中々に面白い人物だった。

八王子城が陥落したことを教えてやると「北条ももう少しで降伏ですな。降るのそれまでの我慢、我慢」と暢気に、そして、まるで未来でも見て来たような口ぶりで言う。

そして、お猿さん(豊臣秀吉)の次なる狙いの奥州仕置もズバリと言い当てる。

更にはその先まで!!


「日ノ本を統一された関白様は次は外に目を向けられるのではないですかな?」

「ほう!成田大蔵大輔殿はそう思われますか?」

「いや、あくまでも某の予測です。本来は統一したならば先ず内に目を向ける方が宜しいのでしょうが、攻めっ気の強いご性格のようですから、次は海の向こうも我が領土になどとその内には考えられそうに存じますよ」


いやいや、中々面白い人物だ。

もしかして俺と同じく転生者かな?とか一瞬思ってそれとなく聞いてみた。

しかし、どうやら転生者では無いようだ。

こういうのが能ある鷹はってやつ?

人材というのは埋もれている所には埋もれているんだな~と改めて思ったよ。


「堤も完成し明日位には入水で水嵩が増しそうですな」

「ああ、石田治部が急ぎ堤を造らせたからな」

「あははははは~その堤が完成して水を湛えた頃に崩壊したら見物みものですな」

「それを狙ってやると?」

「はて?面白そうと思うただけに御座るよ。そうですな~警戒はしておると思いまするから、何か考えまするか・・・」


性格の方も中々に興味深く、よい性格の人物のようだ。

恐らくだけど、こいつも工作員を作業員に紛れ込ませて何か仕掛けていたのかもね。

石田三成も大変だね~忍城の工作員に風魔からの工作員と防ぐのは大変そうだね。

石田三成にその事を教えてやらないのか?と思う者も居るだろうが、教えてやる謂れはない。

そういった事を知りたいなら藤林から情報を買うだろうしな。

買わないならそれまでだろうし、忍城の方の工作員は藤林の諜報の方も把握していないと思うよ。

風魔の方はチョロチョロしている時点で長門守にバレバレだろうし、そちらなら情報を得られそうだけど、石田三成が買うかな?・・・左近殿が買うかな?・・・

買ったとしても防げるかどうかは別物だしな。

買わずとも警戒はしているか?

どうなるかは見物みものであるが、俺の知る歴史では堤崩壊が起こる。

某映画ではないが、船上で気を引く為に・・・

やりそうな雰囲気もあるから面白い。

どちらにしても、堤崩壊後は攻めあぐねて時間切れとなり、小田原征伐で唯一落されなかった城となることだろう。

そして、石田三成は無駄な汚名を被る事となる。

お猿さんの命に従っただけなんだけどね。

某ドラマなら「事件は現場で怒っているんだ!!」と怒鳴る所?

現地視察もしていないお猿さんの要らぬ口出しの結果だから成るべくして成ったのかもしれないな。

十分話て楽しんだのでその後は城をお暇した。

そして、堤の崩壊を見てから小田原の方に引き上げた。

小田原に戻ると何故かまた俺に変な依頼が舞い込んで来た。


「長さん!小田原に降伏の使者として官兵衛と共に行ってくりゃれ」

「・・・」


いやいや、脳筋の武力よりステイタスに無茶振りし過ぎじゃね?

以前から思うけど、何か交渉事を頼まれる事結構多い様な気がしてならない。

某ゲーム含めて俺のステイタスは交渉向きではないんだけどな・・・

それでも、まぁ確かに今まで頼まれた交渉自体は何となく成功しているけど・・・


「何じゃ?長さんは自信が無いのけ?」

「おい!俺がいつ自信が無いといった?」

「そうか、そうか!では任せたがー」


猿が煽るから馬鹿が釣られて引っ掛かる・・・

う・・・結局、小田原城へ降伏の使者として行くことが不本意ながらも決まった。

まぁ今回も黒官(黒田官兵衛)居るし、歴史的に降伏しているんだから何とかなるだろう!

恐らくは楽な仕事のはず・・・かな?

そう思った時期もありました。


「この大北条が天下の盗人に降るなぞ、ありえぬ!!」

「盗人?盗人とは関白殿下の事をおっしゃっておられるので?」

「他に誰が居る?信長公の恩を忘れてその子や孫を下に置き主家に土を掛ける様な者を盗人と言わず何という?」

「面白き事を言われまするな。下剋上の世であったのですぞ?力を持った者がその力を振るうは常識。織田家も無下にはして御座らぬ!!それを事欠いて盗人呼ばわりとは!!」


煽る煽る。

北条方の交渉人が煽りに煽るもんだから黒官が暗い笑顔で怖いがな!!

更に黒官もそれに乗せられてヒートアップして頭から湯気出そうだぞ。

冷静沈着な腹黒軍師の黒官や、何処に行った!!

黒官と言い争いをするのは北条家筆頭家老の松田左衛門佐(松田憲秀)である。

交渉に来たのか何をしに来たのかよく解らないが、現段階では「こんな条件で降れるか!!」的に強気の交渉を展開しております。

作戦?


「お二人とも落ち着かれよ!!」


そう言って二人を諫めるのは源三(北条氏照)であった。

流石に呆れた様な感じで源三が間に入ったけど、収まる雰囲気ではないな。

情報では松田殿は徹底抗戦派で、源三は中立派だという。

本当に徹底抗戦派なのか?

だからこんなに煽るのか?それとも、何かの作戦?

交渉の駆け引き何かよく解らないから俺は地蔵と化している。

この口論は何故始まったかといえば、黒官が「もう降伏されてはどうですか?」と言ったことが始まりだったような?

松田殿は「まだ戦える」と主張しているけど、正直詰みだと思うけどね。

何をそんなに徹底抗戦を主張しているのか解らんので我が優秀なブレインたちに相談しつつ調べることとした。

目の前で繰り広げられていることを詳しく覚えてブレインたちに報告じゃ!!


「蔵人様、笠原新六郎政晴が堀様と遣り取りを行っていたようです」

「ほう!では久さんの息子の左衛門督殿に確認してみよう」


確認すると、笠原新六郎政晴が少し前に亡くなった久さん(堀秀政)と遣り取りしていたことを彼の息子である左衛門督殿が文にて教えてくれた。

久さんが急死したことで話が頓挫していた様である。


「左衛門督殿が久さんが残しておった遣り取りの手紙も添えて送って寄越してくれたよ」


長門守に手紙に添附されていた遣り取りの証拠を読み始めて、その内容を知るとニヤリと笑う。

美羽と春麗もそれに合わせて笑顔で「なるほど」とか言っているぞ。

流石は我がブレインたちだな!!

俺はよく解らないが、意味深に「うむ」とか言っておいた。

彼らには何か良い考えがあるようだからな、それに従っておこうかね。


「蔵人様、少し調べまするので少しお待ち頂きたく」

「良いぞ、存分に調べると良い」


そう言うと配下たちも集め談義し始めた。

さて、どうなる事か。

俺は今日の晩飯でも考えることとした。


★~~~~~~★


兄(笠原政晴)が何やら怪しい動きをしておる。

そして、父(松田憲秀)も何やらそれに加担しているようじゃ。


「新六郎、例の件はどうなっとる?」

「それが・・・」

「何じゃ?」

「はい、急に便りが途絶えまして・・・」

「ふむ・・・他の方にも声掛けしてみるか?」

「そうですね・・・」


「例の件」とは何であろうか?

気になって兄に聞いてみると、「父上の指示じゃから教えられぬ」という。

今度は父に聞けば、「今はまだ話せん」と言われれる。

何やら怪しいが・・・

新九郎様(北条氏直)に話してみるかどうか迷っておる。

一応は話だけはしておこうかの。

何かあってからでは遅い。

そして、話を新九郎様にした少し後、父と兄がとんでもない事を仕出かしていたことを知る事となった。


〇~~~~~~〇


主人公と因縁のある松田憲秀が・・・

さて、小田原征伐もクライマックスに入って来ました。

奥州の伊達政宗が豊臣秀吉に恭順したことで北条家は孤立無援が確定したと云われています。

降伏勧告的な事は五月下旬から行われたそうなのですが、中々北条家は首を縦に振らなかったようで、豊臣勢はあの手この手で開城を促したようです。

393話で書きました、八王子城の将兵の首を小田原城の外堀に晒し首にしたのもその一環と言われます。

丁度今話で出て来て話しが進んでいる北条氏重臣の松田憲秀の長子の笠原政晴の件は八王子城陥落前の出来事なのですが、主人公が色々関わったりした影響で前後したりしているという事で捉えて頂けたら有難いですが、史実通りの結果になりそうです。

次回決着予定です。

さてさて、小田原城への降伏勧告は黒田孝高(黒田官兵衛)が織田信雄の家臣滝川雄利と行ったと云われています。

滝川という事は織田信長の時代に活躍した滝川一益の何か関係者かな?と思うかもしれませんが、滝川一益との関係は単に苗字を授与された関係と云われたり、一益の娘婿とか甥とか養子や遠縁などとも云われよく解っていません。

目覚ましい活躍をした訳ではないですが、最終的に常陸片野藩初代藩主となりますので勝ち組?かな~と思います。

次回はざまぁ回となるのかな?

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