第17話 公爵家と侯爵家
「…で?オレのことを知るお前は誰だ。」
「改めて、助けて頂きありがとうございます。私はリオンハート侯爵家が長女レイア・リオンハートと申します。」
そう言ってレイアはカーテシーをして見せる。
その後に後ろの2人に視線を向けると、少し前に歩み出てくる。
「こちらは私の専属メイド、アビーと我が家の筆頭騎士アーサーです。」
「お目通りできて光栄です、ノル・アルスタット様。」
「公爵子息様とは露知らず、先程の無礼、平にご容赦を。」
メイドと騎士は頭を下げる。
「構わん、オレはただ公爵家に生まれただけのガキだ。そこまで
オレの言葉を聞いて3人は驚いた顔をする。
「…で、オレに渡したい物って?」
「あっ!失礼しました、アビー。」
レイアがメイドの方を向くと、メイドがカバンの中から綺麗な装飾が施された両手サイズの箱を取り出す。
「こちらになります。」
アビーから箱を受け取ると、彼女はしずしずとレイアの後ろに下がる。
「(優秀なメイドだな、騎士ほどじゃないがなかなかできる。)」
箱を開けると、中には公爵家の家紋である角の生えた獅子が彫られた指輪と手紙が入っていた。
「この指輪は…まさか、『当主認可印』か?」
そう言ってレイアたちの方を見ると、3人とも驚きのあまり目を見開いていた。
「わ、私たちも中を見たのは初めてなので…」
「(親父の野郎ッこんなもん持たせて何を運ぶか教えてなかったのか!?)」
当主認可印、その指輪を当主から渡されるということは指輪に刻まれた家紋の当主とそして当主代理に次ぐ権力を持つことが許可されたということだ。
「まったく、あの人はそういうところがあるからな…コレを持たされるってことはアンタらが
オレがそう言って頭を下げると3人はワタワタと慌てだす。
「そ、そんな!頭をお上げください!!我々は侯爵家の人間、貴方よりも下に位置しているのですから!」
レイアはそう言い後ろの2人もウンウンと首を振る、オレは貴族の階級なんぞまるで興味がないからなぁ…
「オレは相手が平民だろうがなんだろうが同じ人間だろうが、最低限の礼節は守るだろ。」
オレがそう言うと、3人は固まる。
オレの価値観は前世の記憶からくるもの、コイツらからしたら異質に感じるんだろうな。
「貴方は、まるで絵物語の大魔法師のような方ですね。」
レイアはそう言って柔らかく微笑んだ。
「なんだそれは…?」
「平民の間ではかなり人気のある絵物語『魔法の王様』に登場する無名の魔法師がいるのです。」
「…聞いたこともないな。」
「当然です、話の内容は受け取り方によっては貴族社会を批判するものですから…ですが、私はその魔法師の言葉が大好きなんです。『平民も、貴族も、同じ血の通った存在であるならば、そこに貴賎などありはしない。』……昔から好きな言葉だった筈なのに…私は貴族として生きてく中でそのことを忘れていたように思います…」
「レイア様…」
メイドがレイアを慈愛の目で見つめる。
騎士の方も胸打たれているようだ。
「感傷に浸ってるとこ悪いが、オレのはそんな高尚なモンじゃねぇよ。」
「…それは、何となく分かります。ノル様は己の望みを叶えるための意志とそれを実現させる力がありますもの。」
そう言ってレイアは苦笑する。
「…お前、歳は。」
「え、と…15ですが…?」
オレが不意に尋ねるとレイアはおずおずと答える。
「お前も王立学園に行くのか?」
「は、はい、ノル様にお届け物をお渡しした後に向かう予定でした。」
「なら丁度いいオレも連れて行け、明後日の王立学園の試験に間に合う手段があるんだろう?」
「それはもちろんです!…ですがその前に皆の者を…」
レイアは目を輝かせて頷くが、すぐに暗い表情になって俯く。
「そういや、馬車が幾つかあったな…」
「はい、皆私のために…そんな彼らをここに打ち捨てたままというのは…」
「…おい、出てこい。」
オレは憂うレイアを見て面倒くさく思いながら自分の影から感じる気配に声をかける。
暗部の者だろう、別に迷惑でもないので放っておいた
が、ここで役に立つとはな。
「…若様、お呼びで。」
するとオレの影からスルスルと黒装束の小柄な女が片膝を着いて現れる。
「アルベルトの指示か?」
「おっしゃる通りです。」
「まったく、アイツも心配症だな…まぁいい、お前名前は。」
「は、リンと申しまする。」
「よし、リン、お前は一旦今回の話をお袋に伝えに行け。」
「しかしそれでは…」
「アルベルトにはオレからの指示だと伝えておけ、それに懇意にしている貴族の願いを無碍にもできまい。」
「…御意に。」
リンは不服そうに返事をすると、影に溶けて消えた。
「フッ、まだ新米か?感情が出るようじゃまだまだだな。」
そう言ってオレはレイアに向き直る。
「とりあえずお前らの家臣たちはアルスタット家が責任を持って弔う。」
「感謝致します、ノル様…!」
後悔、罪悪感、様々な負の感情を抱えながらも飲み込んで感謝するその姿にオレはイーシャに似た高潔さを感じる。
「気にすんな、ひとまずオレらは学園に向かうぞ。王都まで距離があるんだろ。」
「はい、ですがそこは大丈夫です。お父様から
そう言ってレイアが再びメイドに試験を向けると、メイドがカバンの中から丸めて紐で綴じられた羊皮紙を取り出す。
「これがスクロールか。」
「はい、これに魔力を通せば…」
レイアはそう言いながらスクロールを開いて中に描かれた魔法陣に手を置く。
すると、魔法陣が輝き目の前が真っ白になった。
目を開ければ、オレたちはかなりの人が往来する大きな通りに立っていた。
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