第二章「ダオロスの光」5

「優斗!」

 三十分ほどして、三人がいるところで芹菜がやってきた。時間的にも制服ではなかった。優斗が彼女を確保したことを電話で芹菜に伝えたのだった。本当はこれ以上情報収集をしなくてもよい、という意味での連絡だったが、その場に行きたいと芹菜が言い出したので、優斗は根負けをして来るならなるべく気をつけて、だけしか言えなかった。

「ああ、芹菜。こんな遅くだっていうのに」

「でも、優斗が見つけたって言うからはやくしないと思って」

 芹菜が優斗の手を握る。

「歩いてきたの?」

「今タクシー使うと危ないから、近くだから自転車に乗ってきた」

「そうか、それも危ないけど」

「優斗のそばにいたくて」

「うん、ありがとう。通報もできないし助かる」

 今警察に連絡すると余計なことを探られてしまうだろうし、朝まで優斗がそばについているわけにもいかなかったのは事実だ。彼女の友人との連絡は芹菜がしていたから、芹菜にある程度任せるしかない。

 女子生徒を見る。

 小さく縮こまってブツブツとまだ何かを言っていた。

「彼女が?」

 芹菜が優斗に聞いた。

「うん」

 座り込んで下を向いている彼女が探している人物かという意味だ。

 ビクッと女子生徒が身体を震わせる。

 顔を上げて、優斗と芹菜を見た。

「うう、ううう、そんな……」

 彼女は奇妙な言葉を言う。

 表情は、どちらかと言えば、『絶望』に近かった。

「どうしたの?」

 優斗が彼女のそばにいって聞く。

 彼女はぶんぶんと首を振った。

「どうしたんだろう。それでもなるべくはやくどこか落ち着けるところに行ければいいけど」

「連絡はしたけど、今は家を出られないって。朝になったら迎えに来てくれるみたい」

 依頼をしてきた友人のことだろう。

「でも、どうやって見つけたの?」

「それは……」

 芹菜の疑問に対して優斗も詳しく言えることがなかった。

「この、賀茂さんっていう人が協力してくれて」

 優斗が今まで賀茂がいた場所を指さそうとしたが、そこにはおらず、少し距離を取って、こちらの会話がギリギリ聞こえるかどうかというところにいた。優斗は指の位置をそこまで動かす。

「協力?」

 芹菜が視線をそこまで持っていく。

 そこでようやく芹菜は賀茂の存在に気がついたようだった。

「え?」

 相変わらず気配のない賀茂に驚いた顔をした芹菜が、すぐに緊張した顔つきになった。一方の賀茂は少し不思議な、今まで優斗に見せたことのない複雑な表情をしていた。

「だいぶややこしい話になってきたね、確かに、反射は複数あった。君が一番遠く、大きかった」

 一歩賀茂が近づいた。

「君はひょっとして……」

 賀茂が芹菜を正面に捉える。

「や」

 芹菜が繋いだ優斗の手を離す。

「そうか、まあ、いまのところは」

 距離を狭めるのを賀茂が止めた。

「じゃあ、一件落着ってことでいいのかな? 優斗君、あとはなんとかできるね?」

「ああ、うん」

「僕の車で全員どこかに連れていこうか? 四人なら乗れるし、少し車を飛ばせばファミレスまでは連れていってあげるけど。警察に行くよりもそっちの方がいいよね」

「そうだな、そうしてもらえると」

「いいえ、ここでいいです」

 賀茂の申し出を受けようとした優斗を遮ったのは芹菜だった。

「芹菜、でも、連れてもらった方が」

「私たちは大丈夫です」

 強く芹菜が拒否をする。

「なんとかできます。あなたの力は借りません、ありがとうございました」

「そう、わかったよ」

 落胆したように、でもなく軽い調子で賀茂が芹菜に返す。まともな大人ならもう少しは引き留めるのではないか。もっとも、これまでの行動と警察に連絡していない時点で彼がまともではないのははっきりとしている。

「優斗君、落ち着いたらまた連絡するかもだね。そっちの手を煩わせないのが一番いいけど、こっちの人捜しも少し手伝ってもらう約束だからね」

 独り言のように賀茂が言い、背を向け、手を振って去って行った。

 賀茂が建物の角を曲がり、乗り込んだ車は発進させて見えなくなってから、芹菜が優斗に聞く。

「今の」

「えーと、賀茂と言っていた。うちの兄貴のクラスメイトだったって。彼女を探すのを手伝ってもらった」

 うずくまっている彼女を一瞬見る。震えは収まっているようだった。全く動かないので眠ってしまったのかもしれない。

「芹菜、知っているの?」

「……ううん」

 歯切れの悪い返事を芹菜がする。

「彼女をどこかに連れていかなくちゃ」

「……そうだね」

 優斗は芹菜にそれ以上問いかけるのをやめる。静かになった女子生徒の肩に触れ、ゆっくりと起き上がらせる。

「歩ける?」

「うん、うん」

 彼女が答える。多少なりとも意識がはっきりして来ているようだった。

「ここからじゃあ、特に休めるところはないね。確か近くに公園があったと思うけど、それくらいかな。途中コンビニがあったはずだから、何か温かいものでも買ってくるよ」

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