第20話「“俺のプティ”」



ーーやっと解放された…。

禡車に飛び乗る。

夕暮れ。

周りの人間達は急々、家路ヘ向かう。

「ヴィウィシャァドン通り・イィビス行き、今から出まぁす!」


ーー御者がそう言うと向こうから、ぼろぼろの格好をした娘が歩いて来る。

ただ歩いているだけなのに、輝いて見える。

どこか、他の人間とは違った。

振り向くとさっき凄い速さで、すれ違った禡車の女が娘を呼び止めている。


ーーこちらも終わらせてしまおう。

- - - - -

 モアだけど?

「モアさん!!良かったぁ!ケガしてませんね!」

ーーする訳がない。

だって…弱かった。

大外れ、残念…。 

 今日は何する?

「今日も、モアさんにはプティになってもらいます!!

よろしくお願いしますね。俺のプティ。」

ーーあ、またその顔して…。

「コレ、買っちゃいましたぁ!

まずは、コレを頭に巻きます。

待って下さい。コレをコウして、コウやって。」

ーーこんなのまで用意して…。

どんだけ気分が盛り上がってる?

「さぁ、ブラウスラァになって…やっぱりモアさん。

その色、とても似合います!

目の前に蝶が舞っています。

人差し指でそっと、触れようとしてみて下さい。」

ーーこう?

ほんとに頭の中どうなってる…?

昔から思ってたけど、絵描きの考える事がわからない。

「次は、コレを首に巻きます!

コレをコウして、コウやって…ココをコウやって。…あ、ちょっと待ってて下さい。」

ーーなんかがさがさし出した。

なんだろう⁇

「コレ、持って下さい!」

ーーあ、さっきの花。

「コレにはミモゥネが似合うと思うんですよね!」

ーーミモゥネって言うのか…!

「ソコに座って、コッチを向いて…ぁ いいですね!」

ーーそう言えば、ずっと同じ本を読み進めてるけど。

そろそろ、別の本も読みたいなぁ…。

どんな本があるかなぁ…。

「はぁあ…。終わりました。今日は、いいイマァジの源になりそうです。

これから、選んで、下描きから簡単に色を置くまで時間をください。」

 いいよ。

「じゃあ、絵の具が乾いたらお知らせします!」

 わかった。 

「それと、コレとコレあげます!」

 ありがとう。


ーー…ショコラ。

面倒くさいけど、ソレイュに報告しといてやろ。

「おう、モア!おかえり〜!ェリントンのオフェルニァンは見つかったか?」

 あぁ。

「ほら!モア!!ショコラ〜テ!」

 あぁ。ソレイュ、これいる?

「あ〜!じゃあ飾ろうかなぁ。デュティゥの仕事はないけど、明日どうすんだ?」

 …?何?デュティって?

「タンティって意味だ!いいだろぉ!俺が考えたんだ〜!コレで知らない人にもなんとなくわかってもらえるぞ〜!

で、明日はどうすんだ?」

 んん…?部屋でゆっくりしようかな…。

ーーとりあえずは、気を鎮めたい。

「そっか…たまにはな〜!なんだかんだモア、忙しいもんなぁ。」

ーーいぃから、その褒めてくれーって顔やめろ。

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