第102話 親シードラゴンの失敗、睨みを効かせるみんな

 お尻振りダンスを初めてどれくらい経ったのか。たぶん10分くらいだと思うんだけど。俺はモコモコ達に見張られながら、今の俺にできる限りのお尻振りダンスをしていた。


 いや、さっきさ。なんか誰かに呼ばれた気がして、振り返ったんだよ。それでその時に、お尻振りダンスが少し蔑ろになっちゃってさ。

 それを見ていたモコモコ達が一気に俺を囲んで、あのドスの効いた顔で俺を見てきて、まぁ、文句を言うは言うは。


 思わず後退りしちゃったよ。今までハイハイで前に進むことはあっても、後ろに下がったことのなかった俺。最初のバックがこれだなんて。

 もっとこう、何だろうな。せっかくなら父さんや母さん、姉さんやみんなに、喜んでもらいながら見てほしかったよ。


 で、その蔑ろになったお尻振りダンスダンス以降、モコモコ達の俺に対するお尻振りダンスの監視は激しくなり。俺は汗をかきながらダンスを続けることになったんだ。


 お尻振りダンスを始めてからすぐに、何でこんなダンスを見なくちゃいけないのか? 何で真面目にダンスをしているのか。何を自分は見せられているのか。という感じの表情をしていたユースタスさんと親シードラゴンだったけど。


 その2人の表情は、お尻振りダンスが再開されて、モコモコ達の監視が激しくなってからは、なんか無って感じの表情に変わっていた。


 まぁ、今のこの状況で、こんな真剣なお尻振りダンスを見せられればな。だって俺達は捕まっているんだぞ。双子シードラゴンは親シードラゴンが勝手なことをしないための人質で、親シードラゴンは奴隷契約をさせられ。


 そして俺達は、俺達というか俺は、俺の魔力を奪おうと捕まえられてさ。そんな最悪な状況なのに、真面目にお尻振りダンスをする? 誰もそんなこと考えないだろう。


『ぷぴ!!』


『ぷう!!』


『くう!!』


『きゅ!!』


『くきゅ!!』


 あ~あ、俺を監視しながらも、更にのってきたモコモコ達。俺はお尻振りしかできないけど、モコモコ達はお尻振りの合間に、手まで叩き始めた。盆踊りかよ!


『はぁ』


 誰だ、今ため息を吐いたのは。俺は恥ずかしいから、本当はあんまりやりたくないんだだけど……。いやいや、楽しいぞ。楽しいお尻振りダンスをしているんだから。

 ため息なんか吐かないで、しっかり見てくれよ。じゃないとみんな納得してくれないんだ。


『はぁ』


 またかよ! だから誰だよ!! と思って、ため息が聞こえた方を振り向いたのは俺だけじゃなかった。俺に向けていた、さっきよりもドスの効いた顔で、モコモコ達も俺と同じ方向を見ていて。そしてその先には。


 ビクッ!! と肩を震わせた親シードラゴンが。何だ? ため息を吐いたのは親シードラゴン?


『お前達、いつの前にそんな表情ができるようになったんだ?』


「今だろう。モコモコ達が教えたんだろう。それか見ていて覚えたか」


『余計なことを。可愛い顔が台無しだ』


「お前がため息を吐いたせいだろう」


『ため息ぐらい吐きたくもなる。何故我はここで、こんな物を見なければいけないのか』


 と、この言葉が悪かった。『こんな物』って言ったのがな。その言葉を聞いた途端。今まで俺が見たことがないほど、凄いスピードで檻の扉ギリギリまで走って行ったモコモコ達と小さいフルフル。


 そんなみんなと同じくらいのスピードで、やっぱり檻の扉ギリギリまで泳いで行った双子シードラゴン。俺も急いでみんなの所へ移動して様子を見てみれば、更に凄いドスの効いた顔で、親シードラゴンを見ていた。


 あ~あ、『こんな物』だなんて言うから。あれだけ俺の様子を見ていて、分かんなかったのかよ。このお尻振りダンスがモコモコ達にとって、どれだけお気に入りで、どれだけ大切なダンスだってことを。


『な、何だお前達』


『きゅ?』


『くきゅ?』


『何だ? それがどうかしたのか?』


「今のは、今のこの者の言葉について、聞いていたのだ。こんな物? 今、こんな物って言った? と」


 な、俺の言った通りだっただろう?


『きゅ!! きゅきゅきゅ!!』


『くきゅう!! くっきゅう!!』


『ぷぴ!! ぷぴぴ!!』


『ぷうぅ!! ぷうぅ!!』


『くう!! くうぅくう!!』


 僕達が教えてもらった、大切なお尻振りダンスだよ!! とっても楽しい、とっても特別なダンスなのに!! そうだよ!! 僕達のお尻振りダンスに文句があるの!! 僕達が考えた特別なダンスなのに!! グレンヴィルは練習中だけど、とっても上手になったんだよ!! それなのに!!


『ま、待てお前達。我は別に文句を言ったわけではない』


 じゃあ何なんだと、すぐさま聞き返すみんな。


『こんな危険な場所で、警戒しながらダンスを見なければいけないのかと、そう思っただけだ』


 見なければ? と聞く大きい方のモコモコ。


『お前達にとって、大切なダンスなのだろう? ならばこんな危険な場所ではなく、ゆっくりと見られる場所で、しっかりと楽しめたら良かったのに、と考えたんだ』

 

 それを聞いたみんな。とりあえずドスの効いた顔はおさまり、そうかそうかと、うんうん頷き、納得したようだった。大切なダンスと、しっかりと楽しめたら良かったと言ってもらい、気が済んだのか。


 そんな中、ふと親シードラゴンを見れば、少しホッとしたような表情をして、本当に見ていなかったら気づかなかっただろう、というくらいのため息を吐いていた。


『きゅ? きゅきゅきゅ?』


『くきゅう、くきゅう?』


 今度は何だ? すぐに頷くのをやめたみんな。また親シードラゴンに何かを言い始め。


『……はぁ』


 と、またため息を吐く親シードラゴン。何だよ、今度はどんな話しをしているんだ?

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