第76話 子供達を助けるには(***視点)

 必ず復讐してやる。お前が我に命令できるのも今にうちだ。我の体も魔力も完璧に回復しつつある。そして完璧に回復した後も……。

 変異種となった今、今までよりも力を発揮できるようになれば、こんな奴隷契約などさっさと破棄し、お前達に地獄を見せてやろう。


 それはお前達にだけではない、全種族にだ。この世から我々の仲間以外は全て消してやる!!


 が、これは我の願いであって、それが現実的にできないと、我も分かっている。だがそれでも、できる限りこの世界から消してやろう。我の命が消えようとも。

 そして安全になったこの世界で、我の子ども達と仲間に、幸せに暮らしてもらうのだ。


 子供達はどうしているであろうか。あれから1度も会ってはいないが、気配はしっかりと感じている。この気配から、無事なのは分かっている。

 だがそれでも、しっかりとこの目で見たわけではないからな。どこも怪我をしていないと良いが。それに病気にもかかっていなと良いが。


 何故あの時、子供達から離れてしまったのか。仲間を助けるためとはいえ、共に行動をしていれば。そうすればこんな事には、子供達に辛い思いをさせることはなかったのに。本当にダメな父親だ。


 それにしても、あの海に生きる者の力は何だ。何百年と、様々な場所で生きてきたが、あんな力を見たことはなかった。全てが初めての魔法。しかもどの魔法属性にも当てはまらない、不気味な魔法。あえて言うのなら無とでも言うのか。


 先ほどは、我にかけられている奴隷契約を解除できるまで、体力と魔力が戻ったら、さっさと解除すると言っていたが。冷静に考えれば、すぐには動かず、あの力に対抗できるか確かめてから、奴隷契約を解除した方が良いだろうか?


 もしあの得体の知れない魔法に、我が対応できなければ? 私はまた奴隷契約をされ、子供達は奴に囚われたままに。そうなれば次にいつ、自由の動けるようになるか分からない。子供達にもさらに辛い思いをさせる事になってしまう。


 しかし……。今でもかなり辛い思いをしているであろう子供達を、このままにしておくのも。どうしたら良い。


 今のうちに考えなければ。一旦下がるよう奴に言われ、命令通りに我は後ろへと下がったが。次は何をやらせるつもりなのか。あの海に生きる者達の国の結界。あれをもっと破れと言うのならば、もう少し時間がかかるだろう。


 いくら我の力が上がってきたとはいえ、今また破っても、先ほどのように一瞬で修復されるはず。まぁ、その瞬間に、また中に入り、簡単にやられても良いと言うのならば、別に我には関係ないからな、勝手に死ねば良い。後々の事を考えれば、こっちも楽になる。


『おい、そろそろ行くぞ』


 はぁ、また奴がやってきた。今まで何をしていたのか。1人でブツブツと何かを言いながら、その辺をフラフラしていたが。


『お前、どれくらいで、あの結界をもう少し広く破ることができる?』


『……さぁな。だがもう少しだろう』


『そうか……。今から私が言う事をよく聞け。まぁ、お前に拒否できるわけはないが』


 何だと思いながら、奴隷契約で拒否権のない我は、奴の話しを聞いた。そして奴の話しは、我が思っていたものとは違うものだった。


 奴が今しがた、どれくらい広く結界を破れるか聞いてきたため、結界を開けたら無理矢理、我に結界の中へ入りれと。国を包んでいる特別な壁もを壊して、国にの中へと入れと言ってくるのかと思ったのだ。


 しかしそうではなかった。まだ結界はそれほど大きく破れなくとも良いらしい。それよりも結界が破れた瞬間、ある人物の気配を調べろと言ってきた。

 気配を調べるなど、そこには海に生きる者達と、エルフ達、そして魔獣達や魚しかいないはず。


 確かに我は気配を察知することができるが、会ったことのない者の気配となると。初めての気配、誰のものかなど。名前を言われたところで分からない。それはこいつでも分かっているはずだ。


『お前にはあそこにいるだろう、人間の気配を探してもらう』


 人間? 人間がこの海の中、しかもあの海に生きる者達の国にいるのか? 国に呼ばれるなど、よほど海に生きる者達に信頼されている者か、陸に住んでいる者達の中でも、力を持った者達か。


『本当に人間がいるのか?』


『だからそれを調べろと言っている』


『……それで、もし人間がいたらどうだと言うんだ』


『もし本当に人間があそこにいるのならば、お前の次の仕事が変更になる』


 何だ? 何か嫌な予感がする。


『人間がいることが分かったら次の攻撃で、お前の魔法がその人間に届くまでの穴を、結界と国を守っている壁に開けろ。そしてその人間を連れ去るのだ』


『人間を? 何のために』


『お前が、理由を知る必要はない。お前は言われた通り、人間を攫えばいいのだ。そうして人間を攫った後は、あの特別な牢のある場所へ移動する、お前の子を入れてあるあの場所だ』


 何だと? あの場所へ? これは好都合ではないか。もしその場に居る時に、力が完全に戻れば、子供達を救い出すことができるかもしれん、


 だが、本当に人間はいるのか? それにいたとしてその人間は何者だ? まぁ、どこに人間がいようと、どんな人間だろうと関係はないが。もし人間を連れ去る事に成功すれば、子供達の元へ行けるのだ。


『分かった人間がいたら、その人間を攫えば良いのだな』


『ああ、これは最優先事項だ。今から戻るが、すぐに始めろ』


 それから我らはすぐにあの場所へと戻り。人間に是非とも、あの場所に居てもらいたい。我々のために1人の人間がどうなろうと、この男が人間をどうしようとも、我には関係ない。大体我は、全ても者達を消そうと考えているのだからな。


 子供達、待っていろ。父が今、お前達の所へ戻るぞ。

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