第7話 俺の新しい家族

 あ~あ、と思いながら、綺麗にしてもらう俺。だけど俺が思っていたよりも、それはけっこう早く終わったんだ。

 

 新しい世界では、綺麗にするのも魔法でちゃちゃっとやるらしい。こう汚れた部分をクリーンっていう魔法で綺麗にして、そのあとはお尻がかぶれないように、風魔法で完璧に乾かして。

 後は何かクリームのような物を、柔らかい布でお尻に塗ってもらって。これでお尻がかぶれにくくなるらしい。


 そんな説明を、女の子、確か名前はケニーシャだったっけ? 何とも言えない歌を歌い続けているケニーシャに。ケニーシャのお母さんである、綺麗な女の人のシェリアーナさんがしていた。ついでに、歌は今はいいのよ、とも。


 だが、歌い出したら止まらなくなったのか。俺が泣き止むまで、それからお尻が綺麗になるまで。話しを聞いて頷きながらも、歌を止めることはなかった。苦笑いをするシェリアーナさん。アレは絶対に話しを聞いているようで聞いていないな。


 と、そんなふうに、ささっとお尻を綺麗にしてくれたシェリアーナさん。不快感もなくなり、俺が泣き止んでくると。


『あたしのおうたで、なきやんだ!』


 うん、やっぱり話しは聞いていないな。


『えへへ、あたしおねえちゃん。おねえちゃんだもん、いっぱいおうたうたって、いいこして。いつでもあかちゃんが、わらっているようにしてあげるの!』


 …‥ありがとう、ケニーシャ。それを聞いたシェリアーナさんも、優しい顔をして、ケニーシャの頭を撫でた。


『ゴホンッ』


 その時、誰かの咳払いが。それから。


『ガハハハハハッ!! 今まで真剣な話しをしていたんだがな。赤ん坊のおしっこと、ケニーシャの歌で、部屋の空気が変わったな。それにしてもケニーシャの歌は相変わらずだな』


 ケニーシャの歌を何とも言えないと思っていたのは、俺だけじゃなかったようだ。まぁ、こればかりは、ケニーシャがもっと大きくなれば良くなるだろう。でも何回かケニーシャの歌を聞いているうちに、癖になってきたような?


『話しに戻って良いだろうか?』


『ねぇねぇ、パパ。あたしいっしょに、あかっちゃんとねてい? そしたらないたらすぐに、おうたうたってあげる。それからごはんもあたしがあげる!! だってあたしおねえちゃんだもん!!』


 その言葉にまた静かになる部屋の中。ケニーシャの中では、すでに俺はケニーシャの家族で、そしてお姉ちゃんになっているらしい。良いぞケリーシャ、どんどんアピールしてくれ。ケニーシャと家族になるよう、俺も頑張ってアピールするから。


 何でだろうな。ここまでケニーシャと、シェリアーナさんと家族になりたいと思うなんて。父親が誰かはまだ分からないけど。


『それは君がその家族と、とっても相性が良いってことだよ。こんなに相性が良いなんて、何で僕気づかなかったのかな? そうすれば最初からここに送っていたのに。やっぱり何か僕に起こっているみたいだ』


『……それはお前が、ドジなだけだろう』


『……それよりもアピールだよ。そうすれば君の新しい生活が、ここから始められるかも』


『お前に言われなくてもやるところだ』


 俺は腕を振って、それから足も振って、何とかアピールをする。今の俺に動かせるのはほんのちょっとだし、これもすぐに疲れてできなくなるはず。それでもやらないと。


 俺の動きを見てケニーシャが、俺に合わせて腕を振る。疲れて動かすのを止めると、その間だけケニーシャが1人でアピール。そして復活した俺は、今度はケニーシャの動きを真似して腕を動かしてみる。それを何回か繰り返して。


『あたし、おねえちゃん!!』


『うたー!!』


 今のは一応弟って言ったんだ。


『おうたいっぱい、いいこいいこいっぱい!!』


『おうぅ…、ふにょう!! にょお!!』


 今のは、お歌は別にして、お姉ちゃん頑張れ!! そしてありがとう、っていったんだ。


 そしてこれが最後のアピールになったんだけど、最後の何かよく分からない掛け声と、俺とケニーシャの腕の動きが見事にシンクロして、部屋の中は再び静まり返った。


『あ~、ブレンデン様、話の続きを…』


『もう良い』


『ブレンデン様?』


『今のを見たであろう。ここまで同じ動きと掛け声を聞いてしまったらな。皆の調べでこの人間の子供は帰る場所はなく、そして子供自身には何も問題がないと分かったのだ。ならばシェリアーナの言う通り、人間に、いいやエルフにこの子供を預けるくらいならば、私達で面倒を見ても良かろう。それにここまであっている2人を離すのは無理だろう』


『そうですが、本当によろしいのですか?』


『きっとこれも運命。この子供はキュリス達、いやケニーシャと家族になる運命だったのだろう。幸い我々は魔力に関しても制御できる。キュリス、シェリアーナ』


『はっ!!』


『はい』


『この子供はお前達の子供として育てよ』


『はっ!!』


『喜んで』


『ケニーシャ』


『は~い!』


『弟ができて良かったな。弟を頼むぞ』


『は~い。⚪︎△◻︎*⭐︎~』


 またあの歌を歌い始めるケニーシャ。良かった、俺はここで、ケニーシャとシェリアーナさんと家族になれた。そして。


『これからよろしくな』


 俺達の方へ歩いてきた男の人。最初の頃に見た人だったが、この人の名はキュリスさんで、この人がおそらくシェリアーナの旦那さんで、ケニーシャのお父さんなんだ。そしてこれからの俺の父親でもあって。


 色々あったが、こうして俺は何とか、新しい家族を見つけることができたのだった。最初の最悪な家族と正反対な家族。俺の新しいとても大切な家族。


 俺がここで暮らすと決まって、話し合いは終了し、解散となった。集まっていた面々が俺に挨拶をしてくれながら外へ出て行く。そして最後に俺達家族が。


『色々用意しないと』


『ドタバダしていたから、まだ全然用意できていないわ』


『帰り際、色々買って帰ろう』


 そう話しながら、どんどん進んでいく俺の家族。と、あるドアを抜けると、急に明るいような、ふわふわしているような感じがして。歩いている最中、ほとんどケニーシャとスキンシップをとっていた俺。やっと上を見るとそこには……。


 あたり一面を、水が覆っている光景が目に入ってきたのだった。

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