第26話 姫様からの恩賞
船長のドレイクが降伏したことで、ドレイク空賊団との戦闘は幕を閉じた。
ドレイク空賊団はミズガル王国軍へと降伏。
おかげで私達は、ドレイク空賊団が所有していた多数の艦艇と特殊型鎧兵器"ドラウプニル"の押収に成功した。
「お疲れ様ですフリッカ」
"ドラウプニル"と船長のドレイクの身柄を手土産に"フリングホルニ"に帰還すると、姫様が嬉しそうな満面の笑みで出迎えてくれた。
その花が咲き誇るような笑顔に癒されて、戦闘での疲れが一瞬で吹き飛ぶ。
……頑張ってよかった。
「空賊団の制圧ご苦労様でした。貴女の一騎当千の活躍、流石でしたフリッカ」
「いえ、これも全て姫殿下が私に"ロキ"を授けてくださったおかげです」
「ふふ、ありがとうございますフリッカ」
その後、「話があります」と言われて姫様の御部屋に連れて行かれた。
「……さて、ドレイク空賊団を制圧し特殊型鎧兵器"ドラウプニル"も捕獲した貴女の活躍に対して、私から何か褒美を与えようと思います」
姫様と私の二人きりの空間。
そこで、姫様は私に恩賞を与えると言ってくださった。
「……私は、姫殿下の騎士として当然のことをしたまでです」
本当はめちゃくちゃ恩賞欲しいけど、ここはあえて無欲な騎士ムーブをしておく。
今は戦争中だ。それも戦力的には劣勢で王国に余裕はない。
ここで色々要求すると姫様からの印象が悪くなる気がしたからだ。
けれど、姫様はニコニコと微笑みながらも、恩賞を与えることを決して譲らなかった。
「遠慮しなくて大丈夫ですよ。仕えてくれる騎士の頑張りに報いるのは主として当然のことですから。何か望むものはありませんか?私が与えられるもの、私が出来ることであればなんでもしますよ!」
姫様からの圧を感じる。
ここで恩賞を与えないと王族としての誇りに傷がつく、だから願いを言ってくださいね!と、そう言っているようだった。
流石に単騎での空賊団制圧と、特殊型鎧兵器の捕獲に対して恩賞を与えないのはマズイという判断からだろう。
とはいえ、やはり畏れ多い。
ここは、何か無難なことを言って……
ん?今、なんでもって……!!
瞬間、私の中で一気に不敬で不埒な考えが湧き上がってしまった。
「な、なんでもですか!?」
「なんでもです」
姫様の「なんでも」という言葉が脳裏に木霊し頭を狂わせる。
可愛らしく整った美貌に、透き通るように美しい金髪のお姫様にそんなことを言われて、無欲でい続けることが出来る人間が果たしているだろうか。
……いるわけない!!
おまけに、変に意識したせいか心なしか身体が熱を帯びて熱くなった気がする。
またしても血が疼いている気がする。
こんな時に……やっぱりこの血絶対何か他にも厄ネタ秘めてるだろ!
「フリッカ」
すると、まるで、追い討ちをかけるかのように姫様が言葉を続けた。
「私は、貴女に頼ってばかりです。なので、少しでも貴女のことを労いたいのです!だから、どうか……」
その都合良く甘美な響きの言葉に私の理性は持たなかった。
思えば、私は今まで結構頑張ってきたと思う。
帝国最強のシグルドを倒し、富国強兵()のリスクを承知で敵の無人鎧兵器を暴走させ、起動権の秘密まで明かして"フリングホルニ"を起動した。
我ながらすっごくこの国に貢献してきたと思う。
……だから、少しぐらい役得な思いをしたっていいんじゃないかなあ、と。
そんな大変よろしくない考えに、気がつくと私は支配されていた。
「では、ひ……」
「ひ?」
……姫様の寛大な想い、無碍にする訳にはいかないと。
そう都合良く解釈して、私は最低の恩賞を姫様に求めてしまった。
「ひ、膝枕をお願いします!」
そして私は、姫様の寛大さを信じて、打首覚悟で秘めたる欲望をぶちまけてしまった。
「いいですよ」
その願いは、意外とあっさりと叶えられた。
「ほ、本当に良かったんですか?頼んだ身ではありますが……」
「大丈夫ですよ」
私は今、姫様の膝の上に寝かされている。
姫様の艶めかしくも繊細な玉肌から温もりを感じ、姫様の甘い香りに鼻腔をくすぐられる。
幸せすぎて蕩けそうだ。
「どうですか。気持ちいいですか?」
「……生きてて、良かったです」
さらには、柔らかな姫様の太ももの感触に包まれながら、髪を優しく撫でて貰った。
まるで天にも昇る心地良さだった。
こんなに幸せでいいのだろうか。
そう思うほどに、この上ない幸せを感じている自分がいた。
そのせいか、脳が蕩けて思考も碌に働かず、姫様からの御言葉にまともな返事もできなかった。
「ふふ……気に入ってもらえたようですね」
姫様が優しく微笑みながら、私の顔を覗き込む。すると、美しい姫様と笑顔と、豊かに実る胸の二つの柔らかそうな膨らみが私の視界一杯に映った。
……とても眼福だ。
これまで辛いことも沢山あった。
この手を血で汚し続けて、毎晩のように悪夢だって見た。
でも、そんな辛かったことを全部忘れてしまうほどに、今日という日は最高の日だ。
嗚呼、私はきっと、この幸せを体感する為にこの世界に生まれ落ちたんだと——
そう確信した。
そうして、癒される幸せな姫様との時間はあっという間に過ぎていった。
「フリッカは、何か夢はありますか?」
ふと、姫様の髪を撫でる手が止まった。
たわいの無い話をしている内に、夢についての話になったからだ。
いつか戦争が終わった後のこと。
それを姫様は聞いてきた。
「そうですね……平穏、でしょうか」
姫様の疑問にすっかり蕩けきった脳を必死に働かせて答える。
「平穏……」
私の答えに、姫様が首を傾けた。
「起動権を狙われずに済む穏やかな暮らし。また昔みたいにミズガル王国の片田舎で穏やかに暮らすこと。それが、私の夢だったんです」
私は、ずっと願っていた夢——追われることのない穏やかな日々を夢見ていたことを姫様に話した。
「ごめんなさい……」
私の話を聞いて、姫様は申し訳なさそうに謝罪した。
きっと、戦争に巻き込んだせいでその夢がさらに遠退いてしまったことを申し訳なく思ったのだろう。
心優しいお方だ。
「謝らないでください姫様。本当は平穏な暮らしなんて無理だってわかっていたんです」
本当は、最初からこの夢が叶わぬ願いだということはわかっていた。
イルザとシュルドを殺されて、力を使ったあの日から、もう不可能な夢だということは悟っていた。
それが、私に力を与えてくれる古代アースガルズ王家の狙われ続ける血の宿命だから。
「だから、私はもう平穏な暮らしは諦めました。代わりにこの国の為に尽くすことを目標にしました」
なので、改めて、私は新しく抱いた夢を姫様に語った。
「父さんと母さん、イルザとシュルド……そんな大切な人達が眠るこの国を私は守りたいんです!……そして、姫様のことも」
それは、今の私の心からの願いだった。
私が戦う理由。
絶対に守り抜きたいという夢だ。
「……ありがとうございますフリッカ。この国のことを愛してくれて、私はとても嬉しいです」
すると、姫様が微笑んだ。
そして、決意に満ちた強い意志を宿した顔つきに変わった。
「……決めました。私は戦争を終わらせて王になります。そして、如何なる者にも侵されない、皆が、そして貴女も平穏に暮らせる優しい王国を築きましょう」
姫様が私に向かって宣言するように力強く語ってくれた。
「必ず、私が貴女の望みを叶えて見せます!」
「シグムンド殿下。本国からの増援が到着致しました」
「よし、今度こそ必ずリンダ・ミズガルを捕らえミズガル王国を完全に制圧するぞ。全軍、作戦行動を開始せよ!」
一度は退いたムスペル帝国軍。
しかし、本国からの増援によって戦力の再編が着々と進みつつあった。
「百隻を超える艦艇に、千機以上の鎧兵器……この軍勢ならば……」
前回を遥かに上回る大艦隊の姿を見て、シグムンドの顔にも笑みが浮かぶ。
「た、大変です殿下!シグルド様が……」
そんなシグムンドの下に、慌てた様子で部下達が報告にやって来た。
内容は、負傷し、今は傷こそ完治したものの念のため療養中の第二皇子シグルドに関することだった。
「……シグルドがどうした?」
弟であるシグルドのこととあって、シグムンドは心配そうに報告を聞く。
そして驚愕した。
「そ、それが、シグルド様が療養部屋を脱走し、行方をくらませました!」
一機の巨大な鎧兵器が、一条の赫い閃光となって空を翔ける。
黒紫色の機体色の上に血管のように浮かび上がる赤い筋と、翼のように見える巨大なスラスターが特徴的な悍ましい姿をした鎧兵器。
その機体は、大破した"グラム"に代わる"帝国最強の男"が駆る新たな鎧兵器だ。
そして、その操縦席の中では、件の脱走皇子シグルドが好戦的に笑っていた。
「待っていろよ、フリッカ・アース……!!」
戦争は終わらない。
再び争いを望む者達がいる限り。
フリッカのトラウマ……武力チートのシグルドの脅威がまたしてもフリッカとミズガル王国軍に牙を向こうとしていた。
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……今回で"スルト"搭乗ポイントが一気に貯まったので、次回からは物語を加速させていきます!
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