第5話


 ここ最近、苛々する事が増えた。

 元々感情的な性質ではない筈が、何故か腹が立って仕方がない。理由は不明だ。


 あれからレクスは頻繁に屋敷を訪ねて来る様になった。但しマンフレットに会いに来ている訳ではなく、エーファに会いに来ているとギーから報告を受けている。どうやら何時の間にか勝手に知り合い仲良くなったらしい。

 そして今正に中庭で二人が談笑をしている。その光景を盗み見る様にして、二階の廊下から眺めていた。何故自分がコソコソとしなくてはならないのか。この屋敷の主人は自分で、一応エーファの夫でもある。それなのにも関わらず、情けない。

 エーファとは基本顔を合わせる事なく生活をしている。彼女には興味もなければ馴れ合うつもりもない。後一年せずに離縁すると決めているのだからそれで良い。

 だが今朝、たまたま食堂の出入り口で彼女と鉢合わせた。この屋敷は本家には劣るが、それなりの広さはある。だが流石に食堂は一箇所しかないので、必然的にそういった事が起こるのも致し方がない。ただその時の彼女の態度が気になった。


『おはようございます……』


 そもそも彼女が嫁いで来た際のマンフレットのエーファへの言動を思い返せば、好かれているなどと厚かましい事は言わない。だが自分の顔を見た瞬間、気不味そうな表情を浮かべ直ぐに視線を逸らし深々とお辞儀をした。そして直ぐに逃げる様にして去って行った。使用人等とはあんなに愉し気に振る舞い、更にはレクスともあんなに和かに話している。しかもレクスは例のエーファお手製キャロットケーキを頬張って幸せそうにしていた。


「別に私には、関係ない」


 彼女が何処の誰と馴れ合おうが自分には全く興味はないし関係もない。

 マンフレットは踵を返しその場から去って行った。




 エーファが嫁いできてから二ヶ月余り。

 今日は久々の雨曇りだと窓の外に目をやった時には雨が降り始めてきた。遠くから雷鳴が聞こえ風が木々を激しく揺らし空は昼間だというのに夕刻かと思う程に薄暗い。今はまだ小雨だが、この分なら大雨になるかも知れない。

 今日は流石にレクスは来ていないだろうと中庭を覗き見ると当然だがやはり姿はない。その事に無意識に鼻を鳴らした。そんな時、彼女が一人佇んでいる姿が視界に入った。


「一体何をしているんだ」


 思わず眉根を寄せ目を凝らす。

 暫く眺めていたが、雨は次第に本降りとなってくる。それでも彼女は傘もささずにその場に留まっており、更にはうろうろと中庭を徘徊し始めた。しゃがんでみたり、木の周りを回ってみたりと意味不明だ。


「……別に私には、関係ない」


 彼女がどんなに雨に晒されずぶ濡れとなり身体を冷やして風邪を引いて寝込もうとも、興味もなければ関係などある筈がない。

 マンフレットは迷わず踵を返した。




「君はこんな所で、一体何をしているんだ」


 呆れ顔でエーファを見下ろすと、彼女はマンフレットの顔を見て目を見開くとそのまま固まった。

 

 

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