第9話 第200階層


 超高難度ダンジョン【絶望の虚】、その第199階層の探索を始めて一週間が経過した。


 俺とノアは順調に階層の攻略を進めていた。


 【激運】と【フォーチュンダイス】のスキルを駆使することで、分かれ道やトラップの解除、宝箱に化けた魔物ミミックの識別や処理は驚くほどスムーズに行うことができた。


 反面、魔物との戦闘は死を覚悟する場面が何度もあった。


 第199階層ということもあり、生息している魔物は第198階層から強くなっていた。


 さらに、第198階層に生息する魔物がアンデッド系中心であることも戦闘を難しくさせた。


 アンデッドは死に対する恐怖が皆無であり、負傷による運動能力の低下が少ない。


 さらに、毒や感染症、呪いといったデバフのある攻撃が多く、下手に攻撃を受けたり防御したりするとダメージを食らうことも多々あった。


 だが、ノアと協力して立ち塞がる魔物を倒し、階層の攻略を進めていった。


 これがもし俺一人なら、道半ばで力尽きていたことだろう。



 そして遂に今日、俺たちは第200階層に続く階段のある広間まで辿り着いた。


 第200階層への階段を守護するのは、豪奢な服を着た骸骨スケルトン


 身長は小さく、精々が人間と同じくらい。


 武器は貧相な杖一本で、外見は第199階層攻略時に遭遇した腐敗した巨人ジャイアントゾンビ遺骨の集塊がしゃどくろ不死竜アンデッドドラゴンと比較すると、階層の守護者には見えない。


 だが、感じる威圧感は、ここまでの攻略で遭遇したどの魔物よりも凶悪だった



【ノーライフキング】

レベル:450

体力:1700

精神力:12000

持久力:30

筋力:10

技量:4000

知力:7000

信仰:0

運気:10



 眼窩に灯る黒い炎は、見ているだけで恐怖心を煽られる。


 鑑定結果に出た名前を調べると、ノーライフキングはアンデッド種の最上位にあたる存在の一体らしい。


 様々な種類の魔法を操り、中には【即死魔法】のような危険なものも使ってくる。


 レベルは450と、第198階層で苦戦を強いられた階層守護者のアースドラゴンよりも高い。


 ステータスは典型的な魔法使い型であり、精神力は10000を超えている。


 油断できない相手だ。


『オオオオォ‼』

「来るぞ、ノア!」

「……‼」


 身の毛もよだつノーライフキングの咆哮。


 それに呼応するかのように、地面から無数の腕が生え、ゾンビやスケルトンといったモンスターが現れた。


 一体一体が300レベル台であり、ステータスも高い。


 それが広間を覆い尽くすような数出現する。



 だけど、俺とノアの敵じゃない。


 俺はスマホ握りしめ、魔法の発動キーを唱える。


「【煉獄インフェルノ】」


 荒ぶる炎の渦がアンデッドの大群を飲み込んだ。


 この魔法は、ノアと第199階層を探索していた際に見つけた魔導書に記載されていたものの1つであり、それをグリモアに取り込んで最適化した。


 一週間に及ぶダンジョン攻略で、俺のレベルはさらに上がっており、いくつかの魔法を習得している。



【薄井幸助】

レベル:370

職業:【テイマー】【魔導士】

体力:3800

精神力:5700

持久力:1900

筋力:1140

技量:1900

知力:3800

信仰:3800

運気:――

スキル:【鑑定】【言語理解】【アイテムボックス】【経験値取得量up】【ラッキーパンチ】【フォーチュンダイス】【激運】【テイム】【四大属性魔導】【回復魔導】



 炎が晴れた先には、満身創痍ながらも立つノーライフキングの姿。


 ノーライフキングはダメージを受けた怒りからか、ドス黒いオーラを撒き散らしている。


 おそらく【即死魔法】を放とうとしているのだろう。


『オオオオォ‼』

「ノア!」

「……!」


 だが、怒りで視界の狭まったヤツには、俺の相棒のことなど抜け落ちていた。


 背後から接近したノアが体の一部を槍のように変形させて攻撃する。


 咄嗟に魔法の防壁を張るノーライフキング。


 だが、この一週間で強くなったのは俺だけじゃない。


 ノアも出会った時に比べ、さらに強くなっている。



【ノア】

種族:カラミティスライム

レベル:420

体力: 5400

精神力:1080

持久力:5300

筋力:7600

技量:400

知力:1840

信仰:600

運気:600



 ノアの攻撃がノーライフキングの防壁を貫通し、その頭蓋を粉砕した。


 これが決め手になり、哀れな亡霊は灰になって消えていく。


「お疲れ様、ノア」

『……!』

「ははっ、くすぐったいよ」


 戦いの功労者であるノアを労いつつ、200階層攻略の準備を整える。


 超高難度ダンジョン【絶望の虚】は、10階層ごとに番人のみの階層が存在する。


 そして、その番人を倒した攻略者は、地上へ転移するための装置が使用可能になる。


 万全を期すために、スマホで200階層の番人を調べた。


 しかし、当然のことながら、番人の情報は全く出てこない。


 そもそも超高難度ダンジョン【絶望の虚】は、その全体像が把握されていないのだ。


 【絶望の虚】で人類の到達した領域が54階層。


 そのため、53階層以降に関する番人の情報はスマホで調べても皆無だった。


 これは多分【世界の記憶アカシックレコード】の閲覧制限に引っ掛かっているからだろう。


 でも、こればかりはどうしようもない。


 これまでの探索で手に入れた全て魔導書を【グリモア】に読み込ませ、生存率を少しでも上げるためにノーライフキングのローブを羽織る。


 これは【賢者の外套】というアイテムで、魔法による攻撃を大幅にカットする効果があるようだ。


 ノアと携帯食料を食べて、戦闘で消耗した体力と精神力を回復することも忘れない。



「ノア、いよいよ次が200階層だ」

『……』


 ノアはダンジョンで生きてきた。


 俺のダンジョンからの脱出という目的に、無理やり付き合わせるのは忍びない。


「200階層は、正直どんな場所なのか予想もつかない。だから、もしもノアは行きたくないなら、俺一人で――」

『……』

「ノア? 痛っ!」


 携帯食料を頬張っていたノアが、食べるのを中断して俺に突進してきた。


 そして、体の一部を触手のように変形させると、ベシベシと叩き付けてくる。


「やめろ、やめろって、ノア!」

『……! ……!!』

「分かった! 分かったから!」


 テイムしたからなのか、ノアが何を伝えたいのかが何となく分かる。


 俺の考えは、ここまで付いてきてくれたノアに対する裏切りだ。


 第199階層の攻略は比較的順調に進んだとはいえ、危ない場面は何度かあった。


 それに、アースドラゴンとの戦闘は死を覚悟するものだった。


 それでも、ノアは俺に付いてきてくれた。


 この意味を忘れてはいけない。


「……ノア、この先も付いてきてくれるか?」

『……!』

「ありがとう。頼りにしてるよ」


 十分な休憩を取り、俺たちは第200階層へと進んだ。


 階段を滑らないように、足元をスマホのライトで照らしながら降りていく。


 岩を乱雑に切り出した段差のような階段は、途中から大理石を丁寧に加工したようなものへと変化していく。


 壁も明らかに人の手が加わったように整備されたものとなり、等間隔に魔法の炎が灯るランプが設置されている。


「これは……」

『……』


 超高難度ダンジョン【絶望の虚】第200階層。


 そこには巨人用に造られたような巨大な扉があった。


 これが、番人の部屋。


「行こう、ノア」

『……!』


 俺たちが近づくと、扉が独りでに開いていく。


 その向こうは広い空間になっていて、ライトで照らしても先が見えない。


 その時、背後で扉の閉まる音が響く。


「何だ⁉」

『……‼』


 焦る俺たち。


 扉が閉まるのを合図に光球が宙に現れる。


 1つや2つではない。


 無数の光球が宙に出現し、空間を明るく照らし出した。



「――ようこそ、侵入者よ」

「ッ‼」

『……‼』


 落ち着きのある低い声が空間に反響する。


 しかし、周囲を見渡しても、声の主は見当たらない。


 ……上か!




――それを一目見ただけで、俺たちの戦意は喪失した


 本能的に「敵わない」と理解したのだ。


――高貴で、美しく、そして強大な力を有する種族


 その力は、異世界ファンタジアでも最上位の一角として数えられる。


――竜種


 地竜アースドラゴン不死竜アンデッドドラゴンのような紛い物でない、真正の竜。


 純白の鱗を持つ白竜が、俺たちの前に現れた。



【白銀竜】

クラス:竜王

レベル:9999

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