092.テンプレ?
「着きましたね」
「なのです」
カタノヴァの街から出発したミニックとルナはアラバ州とシーピア州の州境にあるミラノヴィルという街についた。
ちなみにここまでの道のりでミニックとルナは歩いて進んでいた。
馬車には乗らなかったのかって? 実はお金があんまりなかったんだよね。ミニックの父親に全部渡しちゃったから。その後も忙しくてそんなに稼ぐことはできなかったし。食糧はお金を渡す前に買いだめしていたから十分にあるんだけどね。
「そういえばルナは冒険者登録をしていないのです?」
「はい。祝福で忌子と判定されたあとすぐにゴダックのところで奴隷として働かされていたので」
「それならこの後、冒険者登録をするのです」
「そうさせてもらおうと思います。そのほうが関所でお金を取られることはありませんし。……そういえばミラノヴィルにはダンジョンもあるみたいですよ」
「そうなのです? 入ってみたいのです!」
もうすでにダンジョンに入る気満々の様子のミニック。それをニコニコ顔で見つめるルナ。だけどわたしは苦言を言いたい。
『早く先に進んで欲しいんだけど?』
『悪魔さんの指図は受けないのです。それにダンジョンに入れば強くなれるのです。悪魔さんの利益にもなってるんじゃないのです?』
確かにそうなんだけど。
それはともかくミニックが反抗的なのがいただけない。やっぱりカイレンの件が尾を引いているみたい。
まあこれくらいのわがままだったらまだスルーしてあげてもいいんだけど、アルトを探すのをやめるとか言い出したらわたしにも考えがあるからね。だからその最終手段は取らせないで欲しいものだ。
「ミニックがダンジョンに入るならわたしも入りたいです」
そういえばルナはミニックのことを呼び捨てするようになった。ミニックが様付けされるが嫌だったみたい。
「もちろんなのです。でもルナの装備が心配なのです」
「そうですね。武器もこれだけですし。ミニックの足を引っ張ってしまいそうです」
ルナの装備は普通の麻製の服と鉄の剣一本だけ。奴隷時代の装備と武器は商会に返却した形だ。ルナの
「この街で買うのです?」
「でもお金はどうするんですか?」
うーん、と悩み始めるミニック。初めに言った通り今はお金がないからね。でもお金がないなら稼ぐしかないよね?
そんなこんなでミニック達は冒険者ギルドに到着した。いつも通り小さなお城のようなたたずまいでとてもわかりやすい。
ルナがギルドの扉を開いてミニックがその後に続いていく。ギルドの中からミニックとルナを値踏みするような目線が飛んでくる。
大半は好奇心からくる目線のようだ。たぶん狼人族と小人族という組み合わせが珍しいからだろうね。だけど一部からは敵意の目線も感じる。特に獣人族からの視線が痛い。
ミニック達は真っ直ぐに受付の方へ進んでいく。ミニックも敵意の目線は感じていると思うけど、いつも通りの普通の足取りで受付嬢の前に立った。
「どのようなご用件でしょうか?」
「ルナの冒険者登録にきたのです」
「ルナ様ですね。ただいま鑑定水晶を持って参りますので、こちらの用紙にお名前と
「大丈夫です」
ルナが綺麗な字で用紙に記載していく。しばらくすると受付嬢が水晶を持って戻ってきた。
「ありがとうございます。それではステータスを確認しますのでこちらの水晶に手をかざしてください」
「こうですか?」
「はい。ありがとうございます。確認が取れました。あとはこちらの書類に目を通していただいて血判を押していただければ登録は完了です。登録料は300ニクルになります」
「……確認しました。これ、登録料です」
「お預かりいたします」
受付嬢がまた奥へと戻っていく。おそらくギルドカードを持ってきてくれるのだろう。あとはカードができるまで待つだけだ。
「おい、嬢ちゃん。冒険者になるんだろう。俺たちのパーティーに入らねえか?」
受付嬢を待っていると狼人族の男がルナに話しかけてきた。さっきミニックのことを敵意の目でみていたやつの一人だね。
「ルナはぼくの連れなのです」
「あ? 小人族風情が俺様に話しかけんな。ぶっ潰されてえのか。それより嬢ちゃん、ルナっていうのか? ルナもこんな小人族と一緒にいるより俺のほうがいいに決まってるよな?」
「気安く名前を呼ばないでください」
冷たい目線でルナが狼人族の男を睨みつける。男はその態度に少し戸惑っていたがすぐにルナを再度説得しようとする。
「おいおい。俺は優しさで言ってやってるんだぜ。小人族は弱いし臆病。それに俺たちを捨てた裏切り者だ。同じ狼人族の俺についてきたほうがルナも安心だろ?」
……もしかするとこの男は本当に親切心で言っているのかもしれない。小人族は国の裏切り者らしいからね。ルナが小人族に付き従っているのが彼としては異常に見えるのだろう。
だけど、ルナはミニックを信頼しているからね。今あったばかりの男にはついていくことはないだろう。
「わたしが安心できる人はわたしが決めます。それにあなたの方がミニックより弱そうですし。ついていく理由がありません」
ちょっと言い過ぎな気がするけど。
「俺がその小人族より弱いだと?」
「ええ。実際弱いですよね? いきがってるだけの雑魚に見えますけど?」
「おい。そこまで言うなら分かってんだろうな? こいつをボコボコにしてやってもいいんだぜ」
「やってみてください。できるものなら」
「ルナ。言い過ぎなのです」
傍観していたミニックだったけど、自分に火の粉が飛んできそうになってやっと割り込んだ。だけど仲裁に入るのは少し遅かったみたい。狼人族の男は完全にやる気だ。すでに殴りかかってきている。
「小人族が! くらえや!」
「危ないのです!」
ひらりと男の拳をかわすミニック。それがさらに癪に触ったのか今度は短剣を取り出してミニックに迫ってくる。
「避けてんじゃねえぞチビが!」
「避けるに決まってるのです! 当たったら怪我するのです!」
ミニックが男の短剣を懸命にかわしていく。
「やめてください!」
唐突にルナの叫び声が響いてきた。見ると別の男に羽交い締めにされたルナがナイフを首につき当てられている。
「おい。逃げるんじゃねえぞ。逃げたらあの生意気な女がどうなっても知らないぜ」
……ルナを捕まえているのはこいつの仲間らしい。やっぱりこいつに親切心なんかなかったみたいだ。力を誇示したいだけのただのクズ野郎だ。
「卑怯なのです!」
「うるせえ。てめえは黙って手をあげろ。俺が直々にボコボコにしてやる」
ミニックはゆっくり手をあげた。男がミニックめがけてナイフを振りかざす。
周りの冒険者達は何も言わない。見て見ぬふりを貫く様子だ。冒険者同士の喧嘩は日常茶飯事なのだろう。
「死ねや」
『ミニック!』
『わかってるのです!』
ミニックが上げた両腕に異空間を出現させた。そのままニュートラルアークデュオを取り出して、ルナを羽交い締めしている男と狼人族の男の頭に弾丸をぶち込む。
「何があったんですか!!」
受付嬢が戻ってきた時に見たのは、倒れ込んだ2人の男とルナを取り返したミニックの姿だった。
<天命ポイントが更新されました>
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