047.セリスはどこ?

 黒髪の少女が冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルの代わりに切断された。


「えっ? セリス?」


 アルトが突然乱入してきたセリスに動揺し固まってしまう。

 わたしも混乱する。なぜセリスが? もしかして冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルに操られている?


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 種族:冥府を纏うドラゴンの眷属(本体)

 状態:通常

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 わたしがセリスの状態を意識したらウィンドウが出てきた。しかし……。


 セリスじゃない? 眷属の本体?


 近くでは最後の龍仮面の少女冥府を纏うドラゴンの眷属も剣撃の余波で切断されている。被っていた仮面はほぼ剥がれ、セリス、いや眷属の本体と同じ顔が露わになっていた。そしてそのまま霧となって消えた。


 どういうこと? あれがセリスではないとしたらセリスはどこに? いやそれどころではない!!


『しっかりして!』


 呆然と立ち尽くすアルトに向かって冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルが爪を振り下ろしていた。わたしの声に体だけで反応したアルトがそれをギリギリのところでかわす。


「セイさん……。セリスが」


 アルトは震える声で縋るようにわたしの方を見る。動揺しすぎているのか念話もするのを忘れている。

 真っ二つになってこときれた少女が黒い煙になって消えていく。


『あれはセリスじゃない! 〈冥府を纏うドラゴンの眷属〉の本体だった! 人だったら煙になって消えていったりしないでしょ!』


 アルトも少女が消えていくのを見て少女がセリスではないことに気がついたようだ。


「じゃあセリスはどこに?」

『今から探す!』


 そこに再度冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルの爪が迫ってくる。先ほどとは違いアルトは余裕のある回避を見せる。


 冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルは傷ついていた。眷属の本体である少女がかばったくらいでは二重に付与したアルトの剣は防ぎきれるものではなかったのだろう。ノーアの剣もいまだに刺さったままだ。行動阻害も効いている。動きが緩慢だ。胴体を深く裂けた傷がモヤモヤとした闇を纏って徐々に回復していっているが、今の状態なら動揺が抜けきらないアルトでもやられることはないはずだ。


 わたしはセリスを探すことを優先することにした。〈天眼〉を使えばセリスを見つけ出すことができるかもしれない。

 シルヴァはこのダンジョン主の部屋にセリスがいると言っていた。シルヴァはセリスに印をつけているからそれでセリスの位置は把握していると言っていた。シルヴァもセリスを救おうとしているのだからそれは嘘ではないだろう。ならこの部屋にセリスはいるはず!

 わたしは片っ端から部屋内に〈天眼〉を使いまくった。セリスが隠されているなら〈天眼〉でステータスが表示されるはずだ。今は運良くセリスがいるところを見つけるしかない。


 岩、岩、石、岩、壁、地面、岩、岩。


 次々にウィンドウが開くが表示されるのは無機質ばかりだ。セリスのステータスは表示されない。見つからない。もう部屋内は探し尽くしたはずだ。

 時間だけが刻々とすぎていく。焦りだけが増していく。


 もしかすると〈天眼〉では探しきれないのか? いや、わたしが探し足りてないだけ? それとも何か重要なことを見落としをしている? 


 

 何か重要なこと……そういえば扉が閉まるときシルヴァが驚いたような声をあげていた。すぐに戦いの方に気が行ってしまったけど何かヒントになるだろうか? シルヴァが驚くようなこと……。


 ……まさか。あのドラゴンがセリス?


 そんなこと、ある? だけどそう言われると思い当たる節がある。アルトの姿に似たドラゴンの眷属。ドラゴンのもつアルトの瞳と同じ色をしたスカイブルーの瞳。そしてさっき手を伸ばした龍仮面の少女冥府を纏うドラゴンの眷属が言っていた「タス」という言葉。あれは「助けて」の意味だったのかも?


 わたしは状態を確認することを意識して〈天眼〉を発動した。ウィンドウがわたしの目の前に表示される。


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 種族:ドラゴンオブアビススケイル

 状態:迷宮歪形めいきゅうわいけい

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 状態、迷宮歪形? なにそれ? 前世でもこちらでも聞いたことのない状態異常だ。わたしは迷宮歪形に向けて再度〈天眼〉を発動する。


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 状態:迷宮歪形めいきゅうわいけい

 〈創造神への嫁入り〉によって迷宮の主に変貌させられてしまった状態。元の個体名はセリス。

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 嫌な予想は当たってしまった……。セリスは迷宮の主に変貌させられていた。しかも創造神が関わっている? そんな状態元に戻すことなんてできるの?


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 状態:迷宮歪形めいきゅうわいけい

 〈創造神への嫁入り〉によって迷宮の主に変貌させられてしまった状態。元の個体名はセリス。高度な回復魔法によって元の個体に戻ることがある。

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 できるのか……。いや驚いている場合じゃない。このことをアルトに伝えないと!


 見ると無数の傷をつけられた冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルにアルトが二重の付与をした剣を振り下ろそうとしているところだった。


『アルト! 止まって!』


 アルトが剣を振り下ろすのを無理やり止める。冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルは動かない。満身創痍のようだ。


『セリスは見つかりましたか!?』

『見つかった』

『よかった。どこに!?』

『目の前』

『えっ?』

『ドラゴンオブアビススケイルがセリスだった』


 アルトが冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルに視線を移した。そして一瞬固まったかと思うとポツリと言葉をこぼす。


『そんな。そうすれば──』

『落ち着いて聞いて? セリスを元に戻せるかもしれない』

『っ! どうやって!?』

『回復魔法で元の姿に戻るかもしれな──』


「ホーリーヒール!」


 アルトがすぐさま冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルに向けてホーリーヒールを発動する。回復の光が包んでいく。しかし冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルは苦しそうなうめき声をあげるだけで元に戻る様子はない。


『元に戻らないです!』


 なんで? ホーリーヒールじゃダメなの? いや冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルは冥属性に見える。冥魔法の回復なら効果があるかもしれない。


『冥魔法は!?』

『やってみます!』


「アビスヒール!」


 昏き闇が冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルを包む。だがその効果は冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルの回復速度が上昇しただけだ。元の姿には戻らない。むしろ回復している分状況は悪化している。


『ダメです』

「何してる? 正気?」<何してるの? ドラゴンを回復させるなんて正気?>


 ノーアがアルトの横に姿を現す。


「ドラゴンがセリスみたいなんです! それで回復魔法で元に戻らないか試してます。でもホーリーヒールもアビスヒールも効果がなくて……」

「ん? ……〈付与〉?」<そうなの? ……ホーリーヒールとアビスヒールの〈付与〉は試してないよね?>

「っ! 試してみます!」


 流石に相反する属性を混ぜるのは無理なんじゃ? いや、やってみるだけはタダか。今はそれに賭けるしかない。


「ホーリーヒール!」『〈付与エンチャント〉アビスヒール!』


 そこには聖なる光も冥府の闇も発生しなかった。ただ透明な魔力が発生しただけだ。

 ……何も起こらない? 魔法が失敗した? やっぱり相反する属性は混ぜられない?


 いや魔力は練られていた。そしてその透明な魔力が冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルに徐々に吸い込まれていくのが見える。そして変化は訪れた!


 徐々に冥纏龍ドラゴンオブアビススケイルの姿が縮んでいく。それはアルトと同じくらいの大きさになった時その伸縮を止めた。その姿は〈冥府を纏うドラゴンの眷属〉の本体とほぼ同じだ。ただ瞳の色がスカイブルーであることと長い尻尾がお尻のあたりから生えていること、そして背中から小さな翼が生えていることが唯一違う。


 あの子がセリス?


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 名前:セリス

 種族:龍人族 / 魔人族

 技能:龍感覚

 魔法:─

 恩恵:自由神の勇者の種

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 セリスで間違いないみたいだね。既に技能スキルは持っているけど魔法はないみたい。〈自由神の勇者の種〉はアルトと同じ恩恵だ。今更だけど魔王の子供が勇者っていいのだろうか?


「おにいちゃん?」


 セリスがアルトを見てそう零す。可愛らしい声だ。だけどそれをいうならお姉ちゃんだよね?


「そうです。お兄ちゃんです」


 アルトが言った。アルトが言った? えっ? ん? どういうこと?


『どういうこと!?』


 ダンジョンが揺れ出す。


「ダンジョン崩壊でしょうか? シルヴァさんの元に戻りましょう」

「りょ」<了解>


 しまっていた最奥部の部屋への入り扉はいつの間にか開いている。

 アルトがセリスを担いでシルヴァの元へ向かっていく……。向かっていく。


 わたしが知りたいのはこの揺れことじゃない!

 わたしの感情を置いてかないで!? アルトがお兄ちゃんってどういうこと!?


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