031.生肉と冒険者
「そっちに二体行きました! 」
「ん! 肉!」<わかった! ミートドラコニス肉を寄越せ!>
アルトがミートドラコニスを追い立て、ノーアがそれを光の剣で切り裂いて黒い煙に返した。
笹みたいな葉っぱに包まれた肉の塊が魔石と一緒にドロップする。ドロップアイテムは知っての通りミートドラコリスの生肉だ。
ここまで聞いてわかったかもしれないけど、今アルトたちは3階層でミートドラコリスを乱獲している。なぜかというと持ってきていた腐りかけだった肉があの後すぐに腐ってしまったからだね。
2階層で休憩したときに肉が腐ったことを告げるとノーアがこの世の終わりのような悲壮な顔をしていた。そして3階層でドロップすることを告げると世界の始まりのような晴れやかな表情に戻った。ノーアって最初は無表情だと思ってたけど意外とコロコロ表情変わるよね。だからなんだという話だけど。
ちなみに2階層で新しく出てきた魔物はアースドラゴンイミテイトという亜竜型の魔物だった。C級でも上位の硬さを誇り、特殊な岩でできた非常に硬い鱗が冒険者の攻撃を阻むらしい。らしい、と言ったのはアルトの〈
流石にノーアの剣は普通(?)のミスリルの剣だから付与をしても一発で両断するまではいかなかったけど、それでも数回の斬撃で倒していたからイマイチ強さがわからなかった。
アースドラゴンイミテイトのドロップアイテムは〈
話を戻すと、持っていた腐った肉と新しくドロップした肉とを交換するためにミートドラコリスを乱獲しているというわけだね。
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名称:ミートドラコリスの生肉
状態:通常(腐るまで20日)
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ウィンドウから分かるとおりドロップした生肉は20日間は持つみたいだ。前世では肉は通常常温で数時間で腐り始めると聞いたことがあるから、こちらの肉は随分持つんだなーと思う。まあ、異世界のしかもドロップ品だからね。そこら辺はなんでもあり、もとい融通が効くのだろう。
ノーアが持ってきた生肉はすぐ腐ってしまったけど、きっと消費期限ギリギリの処分品を摑まされたんだろうね。ノーアの生活能力のなさがとどまることを知らない。
「何をしているんだい?」
アルトたちがミートドラコニスのドロップ肉を拾っていると、一人の男が声をかけてきた。金髪をミドルに伸ばした爽やか系のイケメンだ。
龍の鱗のようなものでできている銀の鎧を身に纏い、腰には龍を模した装飾の施された長剣のさやが見える。明らかに高ランクの装備だね。なかなか高位の冒険者なのかもしれない。
しかしそれより驚くべきことに彼に話しかけられるまで誰もその気配に気づかなかった。〈気配察知〉をもつノーアでさえ気がついていなかったようで目を大きく見開いている。
「何を、ですか?」
アルトが困惑と驚き、そして警戒が混じったような顔をして問い返す。
このダンジョンで冒険者とかち合うのは初めてだ。本来、ダンジョンを潜る冒険者は不要なトラブルを避けるため無闇に他の冒険者に近寄ろうとはしない。
「いや。さっきから見ていたけど何故ミートドラコニスばかり狙ってるのかなーと思ってね? 他の魔物のドロップを狙った方がより高く売れるだろう? ミートドラコニスの肉が高騰していたりするのかい?」
「いえ。多分そんなことはないと思いますけど……」
そんなことを聞くためにわざわざ話しかけてきたのかな? この男は。少し怪しいのでステータスを確認することにする。
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名前:アーサー
種族:人族
技能:光剣技
魔法:空間
恩恵:龍狩りの英雄
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アーサーというらしい。〈龍狩りの英雄〉という恩恵を持っていることからやはり有名な冒険者なのではないだろうか? これはやっぱり警戒した方がいいかもしれない。
「それにキミの服装が……なんというかあまりにもこのダンジョンに似つかわしくないと思ってね。彼女の奴隷、というわけでもないのだろう? ちょっと心配になって話しかけてしまった。暗黙の了解を破っていることは理解している。申し訳ない」
アーサーは礼儀正しく腰を曲げている。アルトが奴隷のような服装をしていることに疑問を持ったらしい。礼を取るアーサーにアルトたちは警戒心を少し緩めたみたいだ。わたしはまだ警戒してるけど。
「そうですか。わざわざ心配してくださりありがとうございます。でもぼくは大丈夫ですので」
「そうか。わざわざ話しかけてすまなかった。そこのお嬢さんも」
「ん。許す」<うん。許すよ>
「ありがとう。……そうだね。お詫びと言ってはなんだが装備をもらってくれないかな? ぼくの妹が着るはずだったものだけど使わなくなってしまったんだ。キミにピッタリ合いそうな気がしてね。ああ、もちろんまだ着用はしていない。その服装のまま探索するよりは良いと思うんだけどどうかな?」
どこに装備が?と思っているとアーサーが「スペイシャルボックス」と魔法を唱える。何もないところから黒い空間が現れた。双剣をしまっている異空間と同じ原理かな? アーサーがそこに手を突っ込むと一セットの装備を取り出した。
黒地に銀が織り交ぜられた、星空が輝くような美しさを放つドレスアーマーだ。
アーサーは怪しいけどこの装備はなんか良さそうだ。
〈天眼〉さん。これってどんなもの? 呪いとかついてたりしないよね?
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名称:黒銀龍鱗のドレスアーマー
シルヴァーノクサドラゴンの幻影からドロップする夜龍鱗、銀龍鱗から作られたドレスアーマー。黒の鱗が攻撃を吸収し、銀の鱗が邪悪を払う効果がある。ドラゴンの生命力で壊れてもある程度自動修復する。マイナス効果は付与されていない。
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うん。効果は申し分なし。呪いとかもないみたいだしアーサーの罠というわけでもなさそう。そして何より……。
アルトが着たら絶対カッコかわいい!!
『もらおう!!』
『ダメです!!』
「こんな高価そうなものもらえません」
「だが、このままだとこの装備は埃をかぶってしまうよ。使われないままより誰かに使ってもらう方がこの装備も嬉しいと思うんだけど」
アーサーは微妙な不安と少しの懇願を混ぜたような顔でドレスアーマーを差し出してくる。前言撤回しよう。アーサーはいいやつだ! すみません。嘘です。でもドレスアーマーに罪はない。
「ですが……」
「ん。貰っとく」<うん。ありがたく貰っとくね>
「ノーアさん!!」
ノーアがドレスアーマーを受け取る。
「心許ない」<今の服装では心許ないと思ってたんだよね。ちょうどよかった>
「ですけどあれをぼくが──」
「あれはほっとく」<アルトのことは放っておいていいよ>
「ああ、ノーアさん、でいいのかな? ありがとう。受け取ってくれて。妹もきっと喜ぶよ」
「受け取った」<お礼は受け取ったよ>
「……すみません。ありがとうございます」
アルトはまだ納得のいっていない様子だったけど、最終的には無碍にできなかったみたいだ。いや本当は着てみたかったとか? アルトもなんだかんだで素直じゃないんだかr。あっ。やばい。アルトのほうから圧を感じる。これ以上考えるのはやめておこう。
「それじゃあぼくはこれで失礼するよ。あっそうだ。今は10階層以降には潜らない方がいいかも。イレギュラーが出たからね」
アーサーは軽い感じでそう言い残してダンジョンの出口の方面へ歩いて去っていった。
<天命ポイントが更新されました>
……なんで天命ポイントが更新されたの?
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