022.ウッドランドドラゴン
木を生やした小さな島のように見えていたものは、のそりと動きだしその正体を現した。巨体が振り向きその長首をこちらに向け、枝や葉が複雑に絡み合った大きな角を頭につけたトカゲのような顔が正体を表す。首や尾を覆う美しい鱗は翠緑色をしていて太陽の光を反射して輝いている。まるで自然そのものが龍の姿を纏ったようだ。
明らかにやばそうな見た目なので速攻で確認する。
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種族:ウッドランドドラゴン
状態:通常
幾つもの木を背中に生やした巨体を持つドラゴン型の魔物。推定Aランク。植物を操る力を持ち、それをさまざまな形に変形、成長させ使用する。
口からは激しい植物と暴風を生み出すブレスを吐き出し、そのブレスは植物を急速に成長させ相手を拘束し、暴風による継続的なダメージを与える。
体の横から伸びる蔓でできた翼によってかまいたちを生み出し敵を切り刻む。
巨大な尻尾や足で地面を踏み鳴らすと地響きが起こる。
倒すと地島龍の鱗や森の結晶球などを採取可能。
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今までで一番多い説明ありがとう。でも状態とかドロップの説明は今はいらないかな。あと弱点プリーズ!
〈天眼〉さんは『弱点は背中に生やした木。木を破壊しないと体は永遠に回復を繰り返す。火以外のあらゆる属性に耐性を持つ』と追加で教えてくれる。その間ウッドランドドラゴンはこちらの方をつまらなそうに睥睨しているだけで微動だにしていない。
だけど嫌な予感がする!
『アルト! ホーリーバリアの準備!』
『了解です!』
アリアとセイソンはその余りの威容に身動きが取れず硬直している。
そこにウッドランドドラゴンは緩慢な動作でみじろぎすると無造作に蔓でできた翼を二人に向けて羽ばたかせた。かまいたちだ。
「ホーリーバリア!」
アルトが二人とウッドランドドラゴンの間に入って聖魔法でできた光の盾を作り出す。
光の盾が不可視の斬撃にあたり、カキィンと甲高い音を上げた。二人はハッとしたような表情をしている。なんとか我に返ったようだ。
「アルト! 〈付与〉を寄越せ!」
『弱点は背中に生やした木。火属性で攻撃して!』
「アリアさん! 背中の木が弱点です。火魔法をお願いします!」
セイソンがアルトにそう叫び、わたしはアルトに指示を出す。アルトがアリアに指示を繋げる。そのまま精神集中を始めるが、その間にもウッドランドドラゴンは象が蟻を潰すかのような気軽さで再度翼を羽ばたかせる。
アルトたちはそれを慌ただしい動きでなんとかそれをかわした。かわした後の後ろにある
「逃げるのは、ダメね。塞がれたわ」
アリアの言う通り、後ろの
一方、ウッドランドドラゴンはアルトたちがかまいたちを避けるのを見て鬱陶しそうに少しうめいた。道端の蟻から鬱陶しい蚊くらいまでに情報を上方修正したようだ。少しの苛立ちを感じる。
「〈
アルトはセイソンの槍に向かってホーリーレイを付与する。槍が光のエネルギーを纏い出す。
「いくぜ! 援護しろアリア」
「行くわ! ファイアストーム!」
炎の嵐が吹き荒れる。それはウッドランドドラゴンに効果があるはずの火属性の魔法がその身体を包む。美しい姿勢が崩れ、翠緑色の鱗が微かに揺れ動く。しかしそれだけ。ウッドランドドラゴンは少しの痛痒しか感じていない様子だ。
ウッドランドドラゴンは地面から出た植物を自身の背中に生えた木々の周りに纏わりつかせ始める。植物を操る力を使って消火をするようだ。
セイソンがそこに迫る。光の槍を煌めかせウッドランドドラゴンの体に突き刺そうとする。しかし、それは弾かれほとんど傷をつけることができず、しかも傷をつけたところから回復していく。
アルトもホーリーレイを付与した剣で弱点を攻める。しかし、その弱点であるはずの背中の木々は少しの傷をつけるだけにとどまった。
不意に不協和音が鳴り響き始めた。ウッドランドドラゴンの鳴き声だ。目にはほのかな炎の煌めきが宿っている。
「やべえ!」
言うや否や、ウッドランドドラゴンが地団駄を踏むように足を踏み鳴らし始めた。それは巨大な地響きとなって倒れている冒険者とアルトたちに襲いかかった。
地面が割れる。まるで自然そのものが怒り狂っているかのようだ。
倒れている冒険者を救うべくアルトは急いだがその甲斐なく地割れの中に飲み込まれていく。
「そいつらは諦めろ!」
「でも!」
「セイソンの言う通りよ! 今は私たちのことだけを考えなさい!」
樹木や植物がアルトたちに迫る。植物を操る力を使ったようだ。植物の葉が一斉に揺れ出し、枝が大きく動き出す。巨大な樹木の枝が空中を舞いその先には尖った植物の一団が形成されていた。
セイソンとアルトがそれらを懸命に捌こうとするが、植物が嵐のような勢いで成長し三人の体を抉っていく。
「ファイアストーム」
アリアが炎の嵐を前面に打ち出した。迫り来る植物たちを焼却していく。
焼かれていく植物たちを懸命に薙ぎ、刈り取っていく。なんとか植物たちを全て退け抜け出した。
ウッドランドドラゴンは余裕のある愉悦の笑みを浮かべている。アルトたちが明らかにダメージを負っていることを楽しんでいるかのようだ。
「アリア! お前の最大の魔法を放てるか?」
「打てるけど……一発が限度ね」
「やれ! それしか可能性はねぇ」
「わかったわ。 時間を稼いでくれる?」
「わかった。アルト。もう一度付与だ」
「わかりました」
ウッドランドドラゴンは再度翼を動かす。不可視の風刃が襲うがアルトたちは集中を切らさない。
「〈付与〉ホーリーレイ!」
「よし! アルトは離れてろ! エンハンスアジリティ!」
アルトとセイソンが魔法を唱える。
槍が光をさす。セイソンは明らかに先ほどよりも速いスピードでウッドランドドラゴンに迫り、槍を縦横無尽に振るっていく。素早さ強化の魔法だろう。さすがのウッドランドドラゴンも鬱陶しいのか植物を操りセイソンを拘束しようとする。しかしセイソンの速さは植物の動きを上回り、ウッドランドドラゴンを翻弄する。ただ、ダメージはほとんど与えられず、そのダメージもほんの少しの時間で回復していく。
「セイソン離れて! 最大魔力をくらいなさい! ファイアインフェルノ!!」
アリアの魔法が完成した。
それは地獄のような炎の嵐だった。燃え盛る炎はウッドランドドラゴンの目の前に迫り、首を尾を、背中に生えた木々を満遍なく燃やそうとする。
その瞬間、ものすごい衝撃音が発生した。ウッドランドドラゴンを巨大な炎とそれを囲む煙が包んでいる。
「やったか!」
『おいそれフラグ!!』
セイソンがフラグを立てたからかどうかわからない。わからないが煙の中からウッドランドドラゴンが顔を出した。背中に生えた木々は半分を消失しているようだったがそれ以外は健在だ。おそらく木を操る力で防いだのだろう。樹木の残骸が背中の木々を守っていた。
ギィーーヤァーー!!
先ほどよりもひどく大きい不協和音が響く。ウッドランドドラゴンは氷のような冷たい目線をこちらに向けていた。今までは敵とは認識していなかった。だが今は違う。とでも言いたげだ。
口を大きく開きそこに緑色のエネルギーを集中させていく。多分あれはブレスだ。
「もう無理かも」
アリアが思わず呟いた。
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