019.ダンジョンの攻略と異変

「ギャギャギャ」


 アルト達の前にゴブリン3体が迫ってくる。

 アルトが剣を一振りして一体のゴブリンの頭と体を離れ離れにした。あたりを見渡して危険がないことを確かめると、ゴブリンの身体を解体し魔石を取り出していく。


「ダンジョンなのに毎回解体しなきゃいけないのが億劫よね」


 近くで倒したらしいゴブリンを短剣で解体しながらアリアが小声でそう漏らす。

 それなら別に解体しなければいいのでは?って思うんだけど何か理由があるのかもしれない。


 周りを見回すと他の冒険者達もほとんどの魔物を倒したようで残りはツインフォークスパイダーだけだ。あ、今倒された。


「聞いてた通り広範囲のダンジョンのようだな」

「そうね。これはやっぱり手分けして探索しないとダメでしょうね」

「ん。他が行かなかった方向へ行く」


 ノーアが他のパーティーが向かっていない北の方向を指差す。


「アルト。戻れるように目印を残しておいてくれる?」

「わかりました」


 森のダンジョンの探索を開始した。



 ◇◇◇



「またいる」


 道なき道を進む〈アークライト〉の先頭で、ノーアが魔物の気配を察知したのかメンバーに言葉少なく声を掛ける。


「魔物の種類はわかる?」

「モスリーパーが2体と、あとはわからない。見たことない魔物」

「見たことない魔物ですって?」

「そう。人型で羽が生えてる」

「確かに聞いたことない魔物だな」

「そうね。どちらにしても先制して攻撃したいわね」

「くる。魔法の準備」


 ノーアの声にセイソン以外が精神集中を始める。


 見えてきたのはノーアが言った通り、蛾型の魔物であるモスリーパーと……人型で羽が生えた50センチメートルほどの魔物だった。エメラルドグリーンの翼を広げた美しい姿をしており、葉でできたようなトップスとスカートに身を包んでいる。


「ファイアアロー!」

「ホーリーレイ!」

「ウィンドスラッシュ!」


 そこに魔法が放たれる。

 ファイアアローとホーリーレイがモスリーパーにせまっていく。二つの魔法は胴体を貫通してモスリーパーが地面に落ちた。

 そして、ウィンドスラッシュは人型の魔物に迫り、切り裂……くことはなく、すり抜けて通り過ぎていく。


「どういうこと?」

「おい!外したか?」

「違う。当たる軌道だった」


 見ると魔物はくすくすと笑っているように見える。

 わたしは魔物に〈天眼〉を使った。


────────────────────

 種族:フェイクフォレストフェアリー

 状態:通常

 大きな木の姿をした妖精型魔物。Bランク。本体は木の形をしており隠密性が高く、人型の姿をした分体を操り攻撃する。分体は物理攻撃と魔法を透過し、風系の魔法を行使し獲物を切り刻む。本体と分体は5メートル以上離れることができない。弱点は火属性。

────────────────────


 フェイクフォレストフェアリーと言う魔物らしい。


 その間にもセイソンが槍を差し向け、ノーアが剣で斬りかかろうとするがやはり透過してダメージを与えられない。アルトのホーリーレイも同様だ。


 擬態する魔物とかタチが悪いな!と思いながらわたしは本体を特定しようとする。しかし分体の近くにはいくつかの木があってどれが魔物の本体かはわからない。


『アルト! あの魔物は木が本体みたい! 人型の周りにある木をアリアに攻撃させて!』

『! わかりました!』


「アリアさん! あの魔物の本体が周りの木に擬態しているみたいです! 火魔法で焼き払ってもらえませんか?」

「なんでそんなことを? いえ。やってみるわ」

「セイソンさんとノーアさんは少し離れていてください」


 分体から風魔法が放たれる。それをセイソンがギリギリのところでかわし、こちらに戻ってくる。


「近づいてこないな?」

「動けない?」


 話している間にも風魔法は飛んでくるが距離が遠いので当たりはしない。


「いくわ! ちょっと延焼が怖いけど。ファイアレイン!」


 アリアが特大の魔法を発動した。それは分体の真上あたりで弾けて降り注いだ。

 降り注いだ火弾は分体の周りを焼き払っていく。


 ガサガサ!


 突然、分体の後ろにあった周りよりも小さい木が音を立てて揺れ始めた。いや暴れ始めたと言うのが正解かも?


『あれが本体みたいだね』

『みたいです』


 アルト以外の〈アークライト〉のメンバーが突然のことに身構える。

 その間にフェイクフォレストフェアリーの本体が逃げ出そうと後方に動き出した。


『火が弱点みたい』

『わかりました』


「あの揺れているのが本体です。逃がさないでください! アリアさん。あれは火魔法が弱点です。次の魔法を!」

「! おう! わかったぜ!」

「りょ」

「わかったわ!」


 逃げようとする本体をセイソンとノーアが回り込んで通さないようにする。

 アルトもホーリーレイで応戦する。しかし魔物の幹がそれを弾き返した。硬い!


「ファイアジャベリン!」


 アリアの火魔法がフェイクフォレストフェアリーの本体に放つ。生成された火の槍が光の輝きと共に直線的に目標に向かって突き出される。中央部分に到達すると木の魔物は大きな風穴を開け、そこから炎を延焼させ、やがてその動きを止めた。


「おい! 火が燃え広がる前に逃げるぞ」


 セイソンが解体して魔石を取り出し皆に向かって叫ぶと、合流して炎で焼け焦げた場所を後にするのだった。


 ◇◇◇



「厄介な魔物だったな」


 セイソンが皆の言葉を代弁するようにそう零す。


「そうね。それにしてもなんで木が本体だなんてわかったの?」

『アルト。誤魔化して』

「えっ? えーと、前に本で見たことがある。ような?」

「……そう。そんな魔物、本に載ってたかしら?」


 アルトが恨みがましい感じで『急に言わないでください』と釘を刺してきた。

 ごめんって。


「これからどうしようかしら?」

「どうするって、探索を続けるだろ?」

「いいえ。こうなったら撤退もありじゃないかしら?」


 意味がわからないという表情をするセイソン。ちなみにわたしもわかっていない。


「新規の魔物」

「そうね。このダンジョンに出てくるはずのない魔物が出てきたから」

「どう言うことだ?」


 アリアはセイソンに呆れるように説明をし始める。


 アリアが言うには魔物排出型ダンジョンの特性として、ダンジョンの外に出てくる魔物とダンジョンの中で出現する魔物の種類は同じであるはずなのだという。それは今まで攻略されてきた魔物排出型ダンジョンで共通していて例外はなかったようだ。今までは。


「そうじゃなかったら強い魔物が出る可能性もあるのにBランクのパーティーがいる程度でダンジョン攻略なんてできないわよ」

「なるほどな。だが、あの魔物が例外なんじゃないか?」

「例外が出ている時点で危険だって言ってるの!」


 いまいちわかっていないセイソンにアリアが吠える。だがセイソンは気にもとめない様子だ。


「まっ、まだ撤退するほどじゃないだろ」

「なんでよ」

「まだ撤退するほどピンチになってないからな」

「さっきはアルトが知らなかったら結構ピンチだったと思うんだけど?」

「だがあれから逃げるのは簡単だったろ?」

「そうかもしれないけど」

「それじゃあ、新規の魔物がいたから撤退しました〜。倒したけど。とでも報告するつもりか?」

「……でも、新規の魔物が出たことは報告したほうがいいわ」


 話は平行線のようだ。


「じゃあぼくが戻る」


 ノーアがそこで会話に参戦する。

 だいぶカオス化してきた。

 今いるのはダンジョン内だが、そこにも昼と夜の区別はあるみたいで空は夕陽に染まっている。


『ねえ。そろそろ休憩した方がいいと思わない?』

『ちょっと黙っててください』


 アルトに怒られてしまいました。ちょっと場をなだめようとしただけなのに……


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