014.ノーア達の正体と明日への準備

「どこへいく?」


 ノーアが遮るようにわたしたちの前で行く手をふさいでいる。


 アルトは困惑顔だ。もちろんわたしも困惑している。


「ノーアさん? どうしてここに?」

「護衛」

「護衛、ですか? 一体誰の?」

「アルト」


 アルトは難しい顔をしてノーアに尋ねる。


「それは、ぼくをつけていたってことですか?」

「そう」

「なぜです?」

「だから護衛。それと監視」


 護衛。そして監視。アルトにとっては衝撃だろう。感情の嵐に巻き込まれた顔をしている。わたしにとっても予想外の展開に戸惑っている。


「なぜそんなことを?」


 それは、護衛についてだろうか、監視についてだろうか。

 ノーアは答えにならない答えを返す。


「必要だから」

「そんなことが聞きたい訳じゃ──」

「それは後」


 ノーアはアルトの怒りにならない言葉を遮る。


「アルト。戻る。話は後で聞く」


 ノーアは今日一番の長い言葉を発し、街に戻ることを促すのだった。



 ◇◇◇



 結局アルトはノーアと戻る判断をしたようだ。

 アルトは腑に落ちないという表情は残したままノーアについていく。それでも少しは冷静さを取り戻したようだった。


「ノーアさんはなぜぼくの護衛と監視を?」

「仕事だから」

「なんの仕事ですか?」

「ハモニス教会」


 ハモニス教会。それはアルトが祝福を受けた教会のことだ。調和の神ハモニスを信仰する教会らしい。


「教会に命じられたということですか? 教会がなぜぼくの護衛と監視を?」

「聖女。〈全剣技〉。冥魔法」

「それは僕が元聖女、お母さんの子供で〈全剣技〉を発現したから護衛されていて、冥魔法を発現したから監視されていたということですか?」

「そう」


 ノーアの言葉をアルトが補足して解析していく。なぜ、あの言葉だけで理解できるのかは謎だ。


 そして新事実発覚した。アルトは元聖女の子どもだった。

 まあそれはいいかな。それより、アルトは納得しているがなぜ冥魔法が監視に関係あるのかが気になるところなんだけど。


「でもぼくは魔法を使えませんよ」

「使えないフリ」

「なるほど。使えないフリかもしれないと疑われているということですね」


 そう上手くは行かないみたい。冥魔法についてのこれ以上の言及はないようだ。


「じゃあなぜ監視をやめて出てきたんですか?」


 それはわたしも気になった。監視しているのなら出てくるのはおかしいよね。たとえ護衛であっても危険に晒されるまで出てこないはず。ノーアが出てきた場面は危機的状況とは到底言えない場面だった。


「監視の必要性がなくなったと判断した。それと戻る危険性を勘案した結果」

「なぜですか?」

「聖魔法」

「そういうことですか」


 わたしにははっきりとしたことはわからなかったけど聖魔法が何か関係あるみたいだ。前回アルトが話していた勇者とか英雄とかの話と関係があるのかもしれないね。


「あとは、アリアから聞く。疲れた」

「はい。……アリアさんも監視のことは知ってるんですね。セイソンさんも?」

「知ってる」

「そうですか」


 アルトはやっぱり少し落ち込んでいるみたい。

 前回のアルトが言っていた疑惑は当たっていたみたいだ。



 ◇◇◇



 エーテルウッドの街の外壁に到着した。

 ちなみにここまでにキラーラビットとゴブリンが何体か出現したけどノーアが瞬殺していた。


 それと、何かしら手がかりが見つかるかもしれないので、道中でノーアのことを〈天眼〉で確認している。


────────────────────

 名前:ノーア

 種族:人族

 技能:隠密

 魔法:風

 恩恵:─

────────────────────


 技能スキルの〈隠密〉は、〈隠密剣技〉〈隠蔽〉〈気配遮断〉〈気配察知〉〈夜視〉〈影操〉〈変装〉と身体能力に関わる副技があった。〈隠蔽〉は仮にフォレストリザードをケシかけていた場合にの証拠隠滅に使えそうかなとも思うけど、それだけじゃ特に証拠とも言えないということで特に成果はなかった。


 外壁の小さい方の門に近づくとアリアが、「アルト!」と近寄ってくる。

 そして、その横にいるノーアを睨みつけて喋り始める。


「なんで、アルトと一緒に帰ってきてるの?」

「監視の必要がなくなった」

「どういうこと? あっアルト。監視っていうのは違くてね?」

「もう遅い。全部喋った」

「ノーア!!」


 怒った様子を見せるアリアだったがノーアは無視。


「アルトに聖魔法が発現した」

「えっ? ほんとなの?」

「本当」

「だから監視は不要って言ったのね? いやでも……。それに監視のことはバラさなくてよかったじゃない!」

「それは不義理」

「そうだけど!! 場の雰囲気ってのがあるじゃない!」


 アリアはアルトに向かって申し訳なさそうに手を合わす。


「アルト。ごめんなさい。騙すつもりはなかったの」

「いえ。大丈夫です」

「信じられないわよね」

「……ちょっと時間をください」

「……わかったわ」


 重苦しい雰囲気のまま三人で冒険者ギルドに向かうのだった。



 ◇◇◇



 道中少しの会話もせずに冒険者ギルドに到着した。

 ノーアがギルドの扉を開けると前回と同様セイソンが声を掛けてくる。


「おー。アリアとアルト、……とノーア? なんでお前がいる? あー、とうとうアルトにバレたか」

「ん。バラした」

「バラしただぁ? まあいい。どこまで話した?」

「全部」

「そうか。アルト。これが俺たちの仕事だ。悪く思うな」

「……」

「アルト。報告に行く」

「わかりました」



 ◇◇◇



 そこからは前回とほぼ同様の報告を受付嬢に伝えた。

 ただし、アルトは一応、フォレストリザードが複数いるかもしれないということを仄めかそうとしていた。しかし特に気にされることはなかった。結局〈アークライト〉が討伐を請け負うことになるようだ。

 それに応じて〈アークライト〉が立てた作戦も前回通りだった。


 前回と同じ通りにならないように画策しようとしたがダメだったみたい。

 本当にうまくいかない。


 ちなみに二人のステータスも確認した。


────────────────────

 名前:アリア

 種族:人族

 技能:魔眼

 魔法:火

 恩恵:─

────────────────────


────────────────────

 名前:セイソン

 種族:人族

 技能:槍術

 魔法:身体強化

 恩恵:─

────────────────────


 アリアが〈魔眼〉持ちだったのには少し驚いた。副技も〈人物鑑定〉〈解析〉〈テレキネシス〉〈予知〉と有用そうなものが多い。〈テレキネシス〉は物体を眼力だけで動かす能力だった。


 セイソンは〈槍術〉はそのままだったけど、身体強化の魔法を使えるようだ。


 どちらにしてもケシかけた可能性は残る程度のもので特に手がかりという手がかりはなかったね。


 そして今は部屋に戻って、明日のためにアルトと〈天授〉を使おうと思っている。まずはその説明からだね。


『アルト』

『なんですか?』

『力が欲しいか?』

『力ですか?』


 いや、ふざけてはないよ。それ以外に的確な言葉が見つからなかったから。


『今からアルトに技能とか魔法とかを覚えてもらおうと思ってるんだけど』

『技能と魔法……』

『なので一応アルトに確認をと思ってね』

『ぼくとしては問題ないですが』

『ちなみにポイントを使うんだけどその割り振りを考えてくれないかな? 全部で40ptくらいあるんだけど。どう使いたい? 全振り、それともいくつかに分ける?』

『えーと? よくわからないんですが──』


 わたしは〈天授〉についていちから説明した。

 アルトはあまり分かっていなさそうだったけどね。天声ポイントを使うこと。多いほど良いものが出る傾向があること。そのポイントをどう使うかを聞かれていることはわかったみたいだ。

 結果的に35ptと5ptで使うことを決めてもらった。

 結構攻めの割り振りだと思う。


 一応許可は取れたので、まだ疑わしげなアルトを横目に〈天授〉を発動する。


<天声ポイント35ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。〈付与〉を取得しました>


<天声ポイント5ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。ホーリーレイを取得しました>


 アルトは〈付与〉の技能とホーリーレイという聖魔法を取得した。

 内容はこんな感じだった。


────────────────────

 技能:付与

 物体、魔法に効果を付与する

────────────────────


────────────────────

 魔法名:ホーリーレイ

 一条の聖光を放射し敵を攻撃する

────────────────────


 早速庭に出てホーリーレイと〈付与〉を試してもらう。


 うん。いい感じじゃないだろうか。アルトをまた驚かすことができたようだ。

 ……結局〈天授〉だよりになってしまったけど明日は乗り切れそうだね。


 なお、試したときに出た光で苦情が出てアルトが平謝りしていた。


 はい。わたしのせいです。反省します。ごめんなさい。

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