フレンド登録

 

「本当に勉強になりました! ありがとうございます!」

「こっちこそー。ゲーム慣れてないから一人でレベリングしなくて済んで助かったよね」

 

 第三の町『ザード・ソング』まできて、宿に泊まりセーブポイントを更新してから近くの食堂で再びエイナと合流する。

 パーティーボーナスでお互い思った以上にレベリングが上手くいった。

 エイナにジンジャエールを奢ってもらい、カウンター席で向き合いグラスで乾杯を交わす。

 ぐび、と一口飲んでから、はあ、吐息を吐く。

 

「あの、もしよかったらフレンド登録してくれませんか?」

「え? あー、そういう機能あったっけ。……うーん……まあ、いいか。っていうか、俺、社会人だしあんまりログインできないけれど大丈夫?」

「はい! 自分も学校が忙しいので、積極的にログインできないと思うので……大丈夫です!」

「オッケー。じゃあ――」

 

 これを、とウインドウが淳の目の前に現れる。

 いわゆる『フレンド申請』だ。

『了承』『拒否』の二択があり、迷わず『了承』を押す。

 

「それじゃあ、この辺でログアウトするわ」

「はい。またタイミングが合ったら、よろしくお願いします!」

「うん、こっちこそ。――はーくんによろしく言っておいて」

「え……? は……?」

 

 はーくん?

 誰のことだ?

 立ち上がったエイナにそれを聞く前に、女性アバターの彼は食堂を出ていく。

 頭にはてなマークを浮かべつつ、ジンジャエールを一口飲む。

 

(はーくん……?)

 

 今度会った時に聞いてみようか。

 いつになるか、わからないけれど。

 

 

 

  ◆◇◆◇◆

 

 

 

 翌日、学校に行くと教室はお通夜のようだった。

 どうしたの、とクラスメイトで隣の席の白戸しらと天皚てんがいに声をかけて聞いてみる。

 すると頭を抱えていた天皚が、スマホを見せてきた。

 学校内限定の、東雲学院芸能科生徒のみのSNS『イースト・ホーム』だ。

 これは東雲学院芸能科のアイドルグループやアイドル芸能界から仕事の依頼が来たら、『募集中』として掲示される。

 自分たちのイメージや条件が合うと思ったら、即応募可能。

 いわば、学校が芸能事務所のような役割を果たしているのだ。

 そして、新入生の自分たちも当然そのSNSに参加している。

 パスワードを入れて自分のスマートフォンからも確認してみると、ヒッと喉が引き攣ってしまった。

 

「し……東雲学院芸能科VS西雲学園芸能科、新入生激励&歓迎ライブオーディション!? な、なにこれ!?」

「ヤベーだろ!? 西雲学園芸能科だぜ!? つまり俺ら男子狙い撃ちだよ!」

 

 東雲学院は共学校である。

 しかし、普通科と違い芸能科は在学中のスキャンダルを防止する目的で男子校舎、女子校舎と別れていた。

 しかも、校舎は逆方向にあるという徹底ぶり。

 普通科と校舎の近い男子校舎に比べ、女子校舎は専用送迎バスまで存在する。

 希望者は校舎内にある寮に入寮も可能。

 蝶よ花よと育成される――かのように見えて、男の転がし方、セクハラ親父への対応、ナンパの処理の仕方など徹底的に男への対処法を植えつけられるらしい。

 女性アイドルの世界は男性アイドルよりも苛烈な時代なので、どうしてもそうなってしまうようだ。

 対して西雲学園芸能科は西雲学園自体が男子校であることから、芸能科も男子生徒のみ。

 クラスも二つのクラスしかなく、クラス人数も二十人程度と少ない。

 しかし西雲学園は四方峰町でトップの偏差値。

 全国でも十本指に入る進学校。

 その芸能科に入れる偏差値の芸能人というのは、もうすでに“ブランド”であった。

 顔だけでなく、間違いなく頭もいい――ということだ。

 東雲学院のように特定のグループが昔ながらに新入生を迎え入れ、受け継がれていくわけではなく、すでに芸能事務所に所属している者や入学と同時に事務所入りする者がほとんど。

 要するに、すでにプロとして活動している者が九割を超えている。

 東雲学院芸能科の生徒は、三年の一部が事務所所属になっているぐらい。

 もうこの時点で、大型の養成所である東雲学院芸能科とはレベルが違うとわかるだろう。

 そんな西雲学園芸能科と、東雲学院芸能科の新入生同士を戦わせるライブオーディション――。

 

「勝ち目なくない!? なんでこんなことに!?」

「主催は春日芸能事務所。最近立ち上げられた事務所らしくて、所属タレントを募集しているらしいんだ。今の時点だと西雲学園芸能科も事務所探している生徒が多いから、ってことで企画されたみたいだぜ」

「ウッワ……」

 

 エグい。

 そりゃあクラスメイトたちもお通夜空気になるわけだ。

 実質ほぼプロタレントVSド素人に毛が生えたなんちゃってタレントである。


「淳ちゃんは芸歴長いから可能性高そうだけど、俺は親にお願いされて入ったド素人だから絶対無理なんだけどー!」

「そ、そんなことないよ。芸歴長くてもテレビに出てたことがあるわけじゃないし、今は声変わりのせいで歌めっちゃ下手になってるし……」

「あ、ああ……声変わりはつらいよな。声変わりがなければ、淳ちゃん、星光騎士団入り確実だっただろうし」

「い、いやぁー、どうかな……。予備部隊にも入れてもらえなかったし……他にも足りてない所がたくさんあったんだと思うよ」

 

 星光騎士団はグループ内に『第一騎士団』『第二騎士団』『予備部隊』の三つの“ユニット”が存在する。

 第一騎士団が星光騎士団のトップユニット。

 その次が第二騎士団。

 第二騎士団は主に二年生が中心で、そこから第一騎士団に上がる者が比較的多い。

 予備部隊が“その他”だ。

 最低限のダンス、歌唱力、パフォーマンスができれば予備部隊に所属できるのだが、淳は予備部隊にすら受からなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る