活動記録10:『醜』←に美を添えて

 センコーは病院送りとなった。


 これは流石にタダでは済まないだろうと思ったが、どういうわけか俺たちはお咎めなしで済んだ。


 騒ぎを聞きつけた教職員と学校直属の特殊部隊(意味わからん)がゴキブリ共を駆逐している際、「自業自得だな」とか「スプレーで駆除するバカがまだいるなんて……」とか色々言っていたが……


 いずれにせよ、お咎めないならいいわな。あのセンコーを痛い目に合わせられたしスッキリスッキリ。


「ってスッキリできるかい!! 何だあのこの世の醜悪を集めたような光景!! 食えねーよー、俺ご飯が喉通らねーよー」


 今は昼休み。教室で弁当を……食べたいけどまともに食えねぇ。


 あの後も、『目力』を駆使した輪投げ大会とか意外にも普通の座学とか色々あったわけではあるが。


 今もなお、あの光景が脳裏に焼き付いて離れませぬ。


「私は寧ろご飯が進むわね。仇討ちの後の飯はまぁ美味い美味い」


「つか、なんで俺以外皆平然としてんだよ。誰か一人くらいここでリバースしてもおかしくなくね?」


「そりゃあれじゃない? 綺麗なものを見て記憶を上書きしてるからでしょ。ほら」


 おう囲まれてらぁ。


 トオルには女子が、シェイには男子が。わらわらと。


「よし、どっちからじっくり見ていこうか」


「じゃあ、とりあえずトオルね」


 はい、つーわけでトオルの方から見ていきましょー。


「おいなんだよアイツ、なんなんだよアイツ。女子達に『はい、あーん♡』してもらいやがってるじゃねぇか」


「でもよく見て。全部卵焼きよ」


「いーじゃん卵焼き。うらやましーじゃん卵焼き。きっとアレだ。あれが唯一自分でつくったやつなんだよ」


 大抵の弁当は冷凍食品か昨日の夕飯の残りを詰めたりするからな。それか、全部親が作ったか。


「もごご……、もごっ、も、も、……」


「限界まで口に押し込まれてるわよ」


「拷問じゃねぇか!!」


 うちのトオルに、なにか恨みでもあるのでしょうか。


 いや、なさそうだ。だってほら、あんなにもメスg……じゃなかった、幸せそうな顔で卵焼きを口に詰め込んでるし。


 恋は盲目というやつだろうか。きっと彼女らには、今まさに陸で卵焼きに溺れかけているトオルの死にそうな顔など目に映らないのだろう。


「ふぐっ」


「倒れたわね」


「おう、倒れたな」


「凄いわね、今度は口の上に卵焼きを積み上げ始めたわよ」


「わーすげー。卵焼きタワーじゃん」


 詰め込んで積み上げて。トオルは幸せ者である。


 やがて、卵焼きが天井に届きそうになったところで、見るのをやめた。


 はい次シェイ。


 さてさてこちらはどんな様子で。


「師匠!! どうしたら俺も貴方のように強くなれますか!?」


「我が師よ!! あの槍術を是非私に……!!」


 なんか、別の意味でモテモテになっていた。


 どうやら、先程シェイが見せていた槍術に男子は全員惚れちまったらしい。


「見なさいなユウ。あのけしからんボディを持つシーちゃんを前にして、皆の澄んだ瞳を。どっかの誰かさんとは大違いね」


「あぁ全くだぜ。シェイのぱいおつガン見してた俺とは大違い……って何言わせてんだバカ!!」


 それはそれとしてアレだ。自分と同じ歳、同じ性別の筈なのになんてキラキラした目をしているのだろう。


 まるでプロのサッカー選手を見つめる小学生のようだ。


 そして、当人のシェイはというと。


「ふんふん、そんなに私の元で強くなりてーんですかぁ、そうですかぁ、へっへっへっ」


 ご満悦のようだ。腕組んでニヤニヤしてるし。


「でも謎です。なんで皆強くなりたいんです?」


 当然の疑問だな。


「なんでって!! あのスカしたイケメンにギャフンと言わせるためですよ!!」


 長髪を大きなネジで巻き付けるという奇抜なファッションをした男子が叫ぶと同時に、他の奴らもウンウンと頷く。


「澄んだ瞳だと思ったら違ったわね。あれはこれから人をぶっ殺す奴のガンギマリした目よ」


「あぁ、つまりこんなかじゃ俺が一番まともだな」


「ちょっと何言ってるか分からないわ」


 男子は闘争本能を剥き出しにしたオスの目。女子は性欲丸出しのメスの目。つまりどっちもケモノである。


 よって、オレ、イチバン、マトモ。


「今アンタこの中の誰よりも汚い目をしてるわよ」


「えまじで?」


 スマホの内カメで自分の目を見てみる。


 いい目をしているな、少年おれ


「茶番はこれくらいにしてそろそろ今後の話を進めるわ」


「今後の話って?」


「部活のことに決まってるじゃない。はい、というわけでモブ共! うちのトオルとシーちゃん返して。これあげるから」


 あきが、男子達には『青い紙』を。女子達には『赤い紙』をばらまいた。


 双方それを手にして……


「「「「おぉ!!!」」」」


 なんかすっげぇ嬉しそう。


 各々あきに礼を述べて、散っていった。


 一瞬にして全員に言うこと聞かせるとは……流石である。


「で、何あげたんだ? リトマス紙?」


「レシピよ。女子にはトオルの好きな白トリュフのフィナンシェの。男子には飲めば一瞬にして身長が30センチ伸びて筋肉がムキムキになるクスリの」


「どっちも絶対作れねぇだろ!! つか何トオルってそんな珍料理が好きなの!? あとその薬絶対ヤバいやつじゃん!!」


 でももしホントに作れるなら、ちょっと気になる。


「さぁ? この世界でなら、案外簡単につくれるんじゃない? 知らんけど」


 なんて無責任な。


 でも皆「これだ!!」って顔してたし、割とマジで作れちゃうのか?


「なことより部活よ部活! 時にみんな。うちの部活に足りないものってなんだと思う?」


「お菓子です!!」「金じゃねぇの?」「くおえうえーーーるえうおおお」


「全然違うし、トオルに関してはもう何言ってるか分かんないんですけど。早くそれ食べちゃいなさいよ」


 卵焼きタワーはちょっとずつ高さを減らしている。しばらくかかりそうだ。


「部室よ。ほら、学校が変わっちゃったし、昨日私達が勝ち取った部室も多分もう無いわけじゃない?」


 勝ち取ったなどと言ってるが、空いていた物置部屋を三人で部活関係の主任にスライディング土下座して貸してもらっただけである。


「で、よ。さっき仲良くなった子の話によれば、この学校の部活動は全部生徒会が管理してるらしいの」


 普通教師側じゃね? 色々と自由な学校になっちまったもんだ。


「てことはあれか? 部室の申請書やらなんやらは生徒会に渡せばいいってことか?」


「そゆことよ。というわけで!! 午後の授業が終わったら早速乗り込むわよ!!」


 はたして無事申請が通るのか。


 なんて心配よりも、この仕掛けいっぱいフシギいっぱいの学校を歩いて無事に辿り着けるかどうかの心配がデカイ。


「えいえいおー!!」


「おーーですっ!!」


「むごごご!!!」


 うん、嫌な予感しかしない。




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フシギ豆知識10

この学校の生徒会は、部活だけでなく学校のほぼ全てを管理している。よくある、なんかめっちゃ権力持ってる生徒会ってやつだ。教師と職員は与えられた業務だけこなせばいいし、というかそれ以外のことは干渉してはならない。全ては生徒の自立性と意志を守るためである。

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