活動記録3:『メインヒロイン』←出会いは突然に

 フェンスは飛び越えるものじゃない。登るもんだ。


 ここは学校の敷地に隣接する雑木林の中。


 なんとかフェンスを越えることができた俺は、全力疾走であきとトオルを追いかけていた。


「ぜぇ……はぁ……はぁ……ちょっ、まっ……」


 つか速えぇ!! あの二人超速えぇ!!


 走れども走れども、二人の後ろ姿が遠目からうっすらと見えるだけでちっとも追いつかない。ここまで身体能力に差があるとは。


 月明かりを頼りに走ること数分後、ようやく追いつくことができた。

 二人とも立ち止まっているが、例のヤタガラスとやらを捕まえられたのだろうか。


「はぁ……はぁ……なん、…………つか…………」


「ちょっと何言ってるか分からないんですけど。息整えてから話しなさいな。はい吸ってぇーー、吐いてぇーー」


「うぉっ、えほっ、げほっ、……ぜぇ……はぁ……」


「ちょっと!! 深呼吸しろつったのになんで咳すんのよ!! てか手抑えなさいよ!! あっ、ほら唾飛んだじゃない!!」


 咳き込む俺の背中を、容赦なくバンバン叩くあき。叩き返してやりたい。


「……それで? お前らが俺を置いてまで必死に追いかけてたヤタガラスとやらは捕まえられたのか?」


「アンタが鈍足なだけでしょーが。ヤタガラスならいるわよ。ほら、そこの宝石だらけの岩の上」


「岩? ……ってなんじゃこりゃー!!!??」


 あきが指さした場所。そこら一帯は草も木も生えておらず、代わりに一軒家程の高さと大きさを持つ大きな岩がそびえ立っていた。

 その岩にはあらゆる宝石が埋め込まれている。ルビーとか、トパーズとか、アイオライトとか、なんか色々。


 で、肝心のヤタガラスはというと……


「お、おるなぁ、てっぺんに」


 その宝石岩の頂上。そこで三本足のカラスが何故かタップダンスをしていた。それはもう、リズミカルに。


 なんというか、もう色々とお腹いっぱいです。


「なぁあき」


「何かしら、ユウ」


「俺ら今後どうすんだよ。部活始めて一日で目標達成しちゃったけど。県大会どころか全国大会優勝しちゃったけど」


「じゃあ世界目指すしかないっしょ。今回はまぁまぁ上出来だけど、私はこれで満足なんてしないわよ」


「探すってか! これ以上のもんを探すってか! 何処をどう探したら宝石岩の上でタップダンスするヤタガラスよりすげぇもんが見つかるってんだよ!」


「あっ、二人とも見て見て! ヤタガラスが今度はブレイクダンスをし始めたよ!」


「早速見つかったわね」


「俺もうあのカラスが何しても驚かない自信あるわ」


 さて、カラスのダンサーが主張強すぎて全然触れてなかったが、惹かれるものがもう一つ。


「こーんなおっきな物がどーして見つからなかったのかしらね」


 バカでっけぇ宝石岩。こんなものがあったら即座に見つかって、宝石を根こそぎ剥ぎ取られていそうなものだが。


「作り物かもしれないよ?」


「誰のだよ。つか何の目的でこんな場所に」


「まぁ何でもいいわよ。とりあえずヤタガラスを捕まえたら、根こそぎ宝石をかっさらうわよ!」


 そう言ってあきは「ふんふんふーん♪」と鼻歌を歌いながら宝石岩に歩み寄り。


「ふべらっ!?」


 ケツからすっ転んだ。


「どうした? 芸術的な転び方だな。バナナの皮でも踏んだのか?」


「いたた……私、今何かにぶつかったような……」


「これあれだよ! 見えない壁ってやつだよ! しゅごーい」


 トオルがパントマイマーみたいな動きをしている。からかってるようには見えないし、こりゃマジのやつだ。

 手触りとかめっちゃ気になる。よし俺も触ってみよう。


「……何も無いんだが」


「はぁ!? なんでよ、なんでアンタだけ通り抜けられてんのよ!」


 だって何も無いんだもん。でもあきがドンドン壁を叩く音が聞こえるし、トオルは壁にべったりと顔を付けないと絶対に出来ない変顔してるし。


 ということは。


「こりゃあれだな。俺は選ばれし者だから通れる。お前らは『残念でした(笑)』だから通れないっていうやつだな」


 なんという王道展開。ついに俺にも主人公らしいイベントが発生したというわけか。


「はっ倒されたくなかったら、馬鹿なこと言ってないでさっさとカラス捕まえてきなさいな」


「おっと、そんな舐めたこと言っていいのかな、あきさんよぉ? 俺はあのヤタガラスさんに選ばれたんだよ? 選ばれちゃったんだよ? つまり所有権は俺にある訳だし、そこんとこが分かったなら……」


 これはいけない。あきさんが人殺しの目をしてらっしゃる。


「ユウ、その辺にしておいた方がいいと思うよ? ほら、あきがアイスピックで壁をガリガリ削り始めたし」


 なんでそんな物騒なモン持ってんだとか、そのアイスピックで俺に何をする気だとか色々と言いたいことはあるが、後が怖いのでここは大人しく従う事にしよう。


 そう思い、ヤタガラスのいる宝石岩のてっぺんに登ろうとして岩に触れたその瞬間。


「ふぁ?」


 宝石岩に埋め込まれている宝石達が光だし――


 宝石岩が、それはもう盛大に爆発した。


「「「もあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


 近くにいた俺はもちろんのこと、見えない壁ごと爆破されたのかあきとトオルも仲良く吹っ飛ばされた。


「痛い! 身体中すごく痛い!! でも生きてる! 俺生きてるよ!!」


 痛みで地面転がってるなう。


 直に吹っ飛ばされたにも関わらず、なんとびっくり俺無事。痛いけど。


 そして俺が無事ということは、もちろん……


「し、死ぬかと思ったよ……」


「ぎゃああああ!!! 目に砂!! 目に砂が入ったんですけど!!」


 こいつらも無事のようだ。トオルは髪がアフロに、あきは目に砂がインしたようだが。


「皆さんご無事で何より」


「どこがよ! 目に砂入って全身泥まみれだし、トオルは髪アフロになってるし!!」


「ねぇ待ってあき、僕の髪が何だって?」


「何言ってんだよ、生きてんだから無事だろーが。泥なんざ洗えば落ちるし、髪は……まぁ、うん……なんとかなるだろ!」


「いやだから僕の髪がなん――って何これ!?」


 気づいてなかったのかよ。


 もじゃもじゃに仕上がった髪の感触が面白いのか、トオルは髪を触りながら「うへへ」と変な笑い声を出している。後で俺も触らせてもらおう。


「まるで鳥の巣ね。もっとも、どっかの誰かさんのせいでそこに住まわせるはずだった鳥さんは爆散しちゃったわけだけど。アンタどう責任とるつもり? とりあえずコレでアンタの指の間トントンしていい?」


 アイスピックの先端をこちらに向けながら、あきはじわりじわりとにじり寄ってくる。

 指の間トントンってあれだよな? ナイフゲームって名前のシャーペンとか使ってとにかく素早く指の間トントンするあの……


「待て、落ち着け、落ち着いてくださいホントに。あれは無理だろ。触ったら爆発とか回避不可能だろ」


「つまり触るべきではなかったってことね。でも触った。よってアンタが悪い、はいQ.E.D.」


「お前があのカラス捕まえて来いって言ったんだろうが!! はい俺悪くないー!! はいお前のせいー!!」


「私はとしか言ってないわよ? つまりユウが勝手に触った。つまりユウのせい。オーケー?」


「オーケーじゃねーよ理不尽だよ何一つ納得できねーよ! ……まぁあれだ、ここはお互い水に流して、宝石岩のあった場所を調べようぜ。もしかしたらまだ宝石残ってるかもだし」


 あきは渋々納得したのか、不満気な顔をしながらも凶器を収めてくれた。危ねぇ危ねぇ。


 宝石岩は影も形も無くなり、代わりに家がすっぽり入るほどの大きなクレーターが。

 俺とあきは、トオルの頭をモフモフしながらそこに向かう。


 ――クレーターの中にあった物、否、を見て、俺たち三人はその場に固まった。


「なぁ二人とも」


「なんだい、ユウ」「何かしら、ユウ」


「あれはなんだと思う? カラス? それとも宝石?」


「カラスじゃないかしら。背中から黒い羽が生えてるし」


「僕は宝石だと思うよ。だってほら、あんなに綺麗なんだもの」


 意見は別れた。だがハッキリと言えることがある。多分、この二人も同じ事を思っているだろう。


 ――少なくとも、これは人間ではない、と。


 クレーターの中にいた者。それは黒いシスター服を身にまとい、カラスのような黒い翼を生やした、まるで宝石のように美しい少女だった。






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キャラクターNo.3

『トオル』

本名、『河井かわい トオル』。ユウ曰く、「金髪のスカしたイケメン」。飄々とした掴みどころのない性格で、余裕たっぷり。人生楽しんでるタイプ。あらゆる事を器用にそつなくこなし、コミュ力に長けた言ってしまえば何でもできる子。もちろん異性にモテる。しかし、問題児二人と関わっているせいか、そんな長所も影を潜めかけている。そして、彼の普段見せない『裏』の部分を知っているのも、その問題児しんゆう二人だけだったりする。


フシギ探索欲:お気楽レベル

瞳の色:ガーネット


フシギ豆知識その3

あきちゃんは普段アイスピックを二本護身用に持ち歩いているが、日本だと軽犯罪法に引っかかるから良い子のみんなはマネしないでくれよな!

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