第3-7話

 明晴を引っ張りたどり着いたのは河原だった。

 シリウスが美心を見つけるや否や走って近付く。


「真央さん!」


「ん? この子は?」


「シリ……えっと彩ちゃん。わたちの友達なの!」


「へぇ、彩ちゃんと言うんだ? よろしく、私は安倍明晴」


「えっと……真央さ……」


(ヤバい、魔王軍を立てる計画のことを明晴に知られるわけにはいかない!)


「お兄ちゃん、ちょっと待ってて」

 

 シリウスの手を掴み明晴から距離を取る。


「真央さん……えっと、あの方は……」


「くくく、単なる俺の駒だ」


「単なる……駒! す、凄い……人間の大人を容易く連れているなんて。ここで何を?」


「あいつは陰陽術に長けている人間だ。ヤツから陰陽術の真髄とやら聞き人間の弱点を研究……その後、始末するつもりだ。くくく、俺達は陰陽術の真髄を理解し大きくレベルアップ。人間は弱点を知られ大きくレベルダウンという寸断だ」


「さすが真央さん! 魔族に敵対する人間を知らず知らず協力させるなんて……」


「人間をうまく利用することは魔王軍が力を付けるために必要なことだ。貴様もよく覚えておけ」


「はっ! すべては真央軍設立のために!」


 シリウスにも陰陽術を教えて貰うよう美心が話すと二つ返事で許可が降り河原で3人、修業をすることになった。


「それじゃ、まずは『炎』からやってみようか。この国は火の国、火ノ本だからね」


「国によって得意な術が異なっているのですか?」


「うん。だから火ノ本人は『炎』から練習するのが基本だね」


「そんな設定どうでもいいから早く教えて! 早く早く早く!」


「あはは、美心っちワクドキしすぎっし。じゃ、まずはどれくらいできるのか見せて」


「暴発しそうになったら止めてくれる?」


「もち!」


(さすがは真央さん。この人間を手玉に取るように扱っている)


 以前と同じ要領で美心は陰陽術『火』を使う。


 ボッ……


 テニスボールほどの火球が美心の指先でふわふわと浮いている。


「さすが美心っち! その年で『火』じゃなく『炎』を発現させるなんてマジエグいって!」


「陰陽術では『火』と『炎』って違うの?」


 美心は素直な疑問を明晴に聞いてみた。


「うーん、もとは同じなんだけど……『火』は普段の生活に必要な火力で第1境地の陰陽術だし、『炎』は第3境地で鍛冶師や鉄工業の家系に必須なくらいかなぁ?」


(なるほど単なる火力の違いか。魔王は無理でも雑魚を倒す程度の火力が『炎』ってところかな?)


(この人間が陰陽術に詳しいことは分かった。その知識をまるで隠すこと無く真央さんや私に聞かせるなんて……ふふっ、私もなんだか楽しくなってきました)


「明晴さん、これって攻撃にも使えるのですか?」


(!!! シリウス、その質問はまだ早すぎる!)


「攻撃に? そっか、悪党に襲われた時の護身術で覚えたいんだ? 物騒な世の中だもんね。うんうん、分かるよ。女の子だもんね。もちろん、威力が高ければ攻撃にも使えるけど……ま、説明するより実践したほうが早いか。その火球を川に向かって放ってみて」


(くくく、明晴め。お人好しにも度が過ぎる。下手に勘違いしてくれているようだし、ここは最大限利用させてもらおう)


「わたちがやってみる。彩ちゃん、見ててね」


「は……う、うん」


(攻撃魔法のテンプレと言えばファイヤーボール! んほぉ、やってやる。やってやりたいが……掌から炎を離すのがよくわからない)


 言われた通りに火球を川に向かって放とうとするがやはり指先から離れない。

 

「このっ! このこのこの!」


 何度、腕を振っても指先の炎は飛んでいかず先日と同じように徐々に炎が火球と化し大きくなってくる。


(あ……ああ……あれは先日見た……イフリート化!? まさか、もう用済みとなったこの人間を消し炭に? だったら、もしも失敗したときに備えて私も)


 スッ


 シリウスは服の中に潜ませていた短刀を手に取る。


「美心っち……まさか、その境地まで使えるのん?」


「どの境地? こっちは飛んでくれなくて……」


 美心は単純に焦っているだけである。

 また以前のような感覚でいつ暴発するか僅かながら恐怖心さえ覚えてきている。


「その炎は第5境地陰陽術『業火』……そんなの川に放ったら水蒸気爆発を起こしちゃうって!」


(ふっ、この男は何も真央さんのことを分かっていないようね。そのような境地などとっくに極めている。すべてが演技ということも知らずに……)


「えっ、マジで……うわぁぁぁ、消えろ消えろ消えろぉぉぉ!」


(消えろ? やはり、真央さんはこの男を屠ろうと……)


 ボウッ


 火球の色が赤色から青色へと徐々に変化してきている。

 そして、前回と同様に美心を包むほどのサイズへと巨大化してきていた。


(以前と違って蒼い炎!? 真央さん……ま、まさか……魔神以上の力を……)


「!!! そういうことですね? 真央さん……いいえ、真央様。その男に余計な手を出すなという私に対する警告と共に炭すらも残さぬ圧倒的火力でその男を滅するおつもりなのですね?」 


「美心っち、まさか暴発!?」


「うわぁぁぁぁ!」


 パァン!


 突如、美心の全身を包む火球が初めから存在しなかったかのように消滅する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る