BLっぽい物語
黒兎 ネコマタ
初めて
「先輩!」
前から聞こえた声に顔を上げると憎たらしい顔があった。後輩の
「先輩、今日は一緒に帰ろうって言ったでしょ」
「あぁそうだな。お前はそう言った。でも俺がその後に嫌だって言ったよな?」
「アハハ」
アハハ、じゃねぇよ。
ちなみに熾十は俺の一個下の後輩で高校一年生だ。俺の高校は一年生と二年生の教室は階が違う。一年が三階、二年が二階。
「んで、ホームルームが終わると同時に教室出たのに何でお前の方が先に靴箱にいんだよ」
アハハ、と再び笑う熾十。よしコイツとまともに話そうとした俺が馬鹿だった。帰ろ、こんな奴無視して帰ろ。
「どけ」
「なら、好きって言ってください」
俺が靴を取れないように立ち塞がる熾十。そのふざけた面はニヤニヤと……あぁ殴り飛ばしてぇ。
「ほら、他の奴らもきたから」
俺たちの他に数人の生徒がきた。彼奴等は名前は知らないけど、確か俺の近くの靴箱使ってる奴だ。朝に何度か見た。要は、邪魔になっている。
「もう半年近く毎日やってんすよ。ほら皆応援してくれてます」
「お構いなく〜」 「熾十、頑張れ」 「ファイトー」
奴らの手に握られているのは……チョコ?! 買収されてるだけじゃねぇか! クソ、なんか最近先生たちまで見て見ぬ振りをするし。おかしいだろ、この学校は!
「ほら〜、早く『好き』って言ってくださいよぉ」
……あー、面倒くせぇ。よし、こんな奴は無視。問題は靴をどう取るかだけど。
「恥ずいからさ……ちょっとこっち来い」
「おぉ、やっと観念してくれましたか。ふふっ、嬉しなぁ」
オケオケ。ふっ、チョロいな。
俺は俺からの言葉を待ってうっとりしている熾十に聞こえるように、やべぇ見られてたら言えね、と呟く。そうすると熾十は目を瞑ってくれる。
「おい、熾十!」
さっきの買収された奴の一人が叫ぶが遅い。俺はサクッと靴を履き替え、熾十が気づく頃には──
「じゃあな」
と帰るのであった。
◇ ◇ ◇
靴を取れたからと言って俺は熾十から開放されるわけじゃない。
「せ〜んぱい♪」
はぁ、親を呪うとしたら家が熾十と同じ方向な事だな。お陰様で毎日この変態男と帰る羽目になっている。最悪だ……
「別にいいじゃないっすか。俺の自由でしょ」
「お前、ウザいから嫌なんだよ」
「だって先輩のこと好きですし」
いまやこーゆー奴を拒絶するだけでジェンダーがなんだの、LGBTがなんだの言われるから面倒だ。相手を選ぶ権利はあるだろうに……
「俺、先輩をひと目見た瞬間から」
「一目惚れほど信用ならないものはねぇっての」
どーせ付き合って幻滅してグッバイ。
「幻滅しなきゃ良いんでしょ?」
そんなの口先だけ……と言いたいところだが、コイツには半年間俺に付き纏い続けた、という警察沙汰な実績が一応ある。簡単には否定出来ないんだよなぁ。まぁ、大前提として……
「俺はお前を好きじゃねぇから」
「安心してください、堕としますから〜」
それ半年前にも聞いたな。うん、なんか半年前から何回も言われている気がするな。そこんとこどうですかね、熾十君?
「あぁ、先輩に君呼びされたぁ」
「気持ち悪いな」
っと、それより俺の家着いた。よしこれでコイツから開放される。んじゃあな、熾十!
「先輩、今日ご両親いないんですよね?」
「あぁ、明日までいない……ってお前まさか」
俺は嫌な予感がして熾十を見ると熾十はニヤッと笑うと「お邪魔しまーす」と俺の家に入っていった……っておぉい!! ふざけんなぁ。
はぁ。ちょっと慣れてきたのが怖い……
◇ ◇ ◇
「せんぱーい!」
「…………」
俺はソファに転び無言でスマホをイジる。時刻は九時過ぎ。俺はもう熾十を空気&雑音として処理することにしたのだ。風呂は無視続けていたら一緒に入ってきやがったがそれでも無視した。
「スマホより俺を見て下さい」
あーあ、騒音がすごい……工事でもやってんのか。それにスマホが吹き飛ぶ程の風が室内に吹き荒れてやがるし、エアコンの暴走か?
「先輩のバカ……」
聞こえてきた弱々しい声に驚いて横を向くと熾十の顔が間近にあった。どうやらソファの後ろから俺に話しかけていたらしい。知らんかったわ。
そんな熾十は俺が反応したのが予想外だったのか目を見開いている。無言で見つめ合う俺と熾十。
「先輩、俺本気で先輩が好きなんです」
そう、熾十が呟いた直後。俺の唇に熱いものが触れる。それが熾十の唇だと理解した時には後頭部に手を回せれ身動きが取れない状況だった。
ん~~! と抵抗しようと試みる俺。しかし意外にも熾十は力が強く動かせるのは足と手が少し。って冷静になれるかぁ! 兎に角、逃げることが優先。
「ぐぇ」
ほんの僅かに動く手で放った全力の右ストレートは熾十に効いた様だ。みぞおち辺りを押さえている。
「テメェ、ふざけんな! 俺は初めてなんだぞ?!」
「俺もっすよ」
だとしても、もっとシチュエーションってやつがだなぁ! って俺は何にキレてんだ?
「無理やりが嫌だったんですね。じゃあ俺がキスするのは問題ないってことっすか?!」
「ち、ちが──」
俺の叫びが最後まで紡がれることはなかった。理由は……想像に任せる。俺はもう疲れたよ……
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