第38話 イベント発生?(勘違いかどうか)

どうにか暗くなる頃に都市に帰ってくる。


はっきり言って、今回の探索範囲は狭かった。


でもこれ以上探索するとなると、泊まりがけが必要になってくる。


今後は行き帰りの街道整備や、森の中で寝泊まりすることも考えないと。


門の中に入ると、アルルが出迎えてくれた。


「エルクお兄ちゃん!」


「おっと……」


「帰ってきたわ!」


飛び出してきたアルルとアメリアを優しく受け止める。

どうやら、心配して待ってくれていたらしい。


「えへへ、帰ってきた。お兄ちゃん、お帰りなさい!」


「お、お帰りなさい……」


「ただいま、アルル、アメリア」


うんうん、おかえりと言ってくれる人がいるのは良いもんだね。

その後、ユルグさんと人族の人たちは帰路につく。

イレギュラーはあったけど、良い経験にはなったでしょ。

彼らには強くなって、しっかりと狩りをしてもらわないと。


「あれ? そういえば、オルガさんは何処に泊まるの?」


「オ、オイラは、着の身着のままで来てしまって……村にはもう身内もいないので、こちらで家を借りようかと」


「あっ、そっか……良かったら、屋敷に住む?」


「えっ!? い、いいんですか!?」


「うん、ヨゼフ爺の許可があれば」


「は、はい! ありがとうございます!」


屋敷に到着すると、ヨゼフ爺が出迎えてくれた。


「エルク殿下、お帰りなさいませ。皆さん、無事で何よりです」


「うん、ただいま。あのさ、オルガさんを屋敷に置いても良い?」


「ふむ……つまりは合格ということですかな?」


「そういうこと。ね、シオン?」


「ええ、彼はきちんと主君を守ってくれました」


「シオン殿が認めるならば問題ないでしょう。オルガ殿、よろしくお願いします」


「あ、ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」


よしよし、これで彼を仲間に引き入れられたぞ。

ひとまずワイバーンの解体は厨房の方に任せ、俺達はヨゼフ爺と一緒に部屋に戻る。

俺もソファーに座り、ようやく一息つく。

すると、すぐにアルルがお茶を持って来てくれた。


「エルクお兄ちゃん……ど、どうですか?」


「うん、美味しい」


「えへへ、良かったぁ……」


「うんうん、可愛い女の子に入れてもらうお茶は格別だね」


「か、可愛いって言われちゃった……」


すると、二つの視線を感じる。

見てたのはシオンと、ユルグさんの二人だった。

しまった! 今のはセクハラっぽい! 前世でも問題になったじゃないか!


「い、一般論だから! 深い意味はないよ!」


「「……別に何も言っていないが(ませんが)」」


腕組みをした二人が、ほぼ同時に言ってハモった。

これは形勢が不利! 話を変えようっと!


「え、えっと! ユルグ爺、色々と大変だったんだ!」


「コホン……どうやらそのようですな。さて、何がありましたかな? あのワイバーンは?」


「本当に疲れたよ……まあ、簡単に説明するね」


予定通りにオルガさんの試験を行ったこと、その際に魔物の大群に襲われたこと、そしてその原因がワイバーンだったかもしれないことを伝える。

すると、ヨゼフ爺の顔が険しくなった。


「スタンピードの兆候ですか……」


「えっ? ワイバーンが原因じゃないの?」


「無論、その可能性もございます。しかし、あの森の入り口付近に大量の魔物とは不自然かと。そもそも、ユルグ達が狩りに行っている時にワイバーンは見かけておりませんね?」


その言葉に、ユルグさんが一瞬固まり……軽く頭を下げる。


「すまん、オレとしたことが……そこを見落としていたか」


「ん? どういうこと?」


「つまり、そのワイバーンはごく最近来たということ。そして、その前に魔物達の集団は出来上がっていたと推測されます」


そっか、ワイバーンに追われて集まったわけじゃないと。

集まって移動していた魔物達が、たまたまワイバーンの近くにいたのか。

あれ? それって……原因は別ってこと。


「あっ……ということは?」


「はい……もしかすると、他に魔物の群れがあるかもしれません」


「まずいじゃん!」


「仰る通りでございます。その襲撃に備える必要があるかと。この都市は森に近いので、ここにやってくる可能性が高いですな」


そうか、やっぱりイベントだったんだ。

その魔物達が都市を襲い、俺は対処できずに逃げ出すとか?


「……ん? おかしいな?」


「エルク殿下?」


その場合、この都市に主人公がいることになる。

そして逃げた俺を断罪するために、仲間達を集める?

そうなると、タイミングが合わない。

いや、そもそもエルクとてシオンやヨゼフ爺を見捨てて逃げはしない……はず。

可能性があるとすれば、何処かの村が襲われ……そこにいる主人公に復讐されることか。


「エルク殿下? 何か意見が?」


「いや、ここは襲われない気がする……」


「なんですと? ……詳しく教えてください」


「ヨゼフ爺、地図を広げてくれる?」


「はっ、すぐに」


当然、前世の世界とは違うので簡易的な地図しかない。

しかし、それでも何となくの場所は書いてある。

そうして広げられた地図を見て、先程俺たちがいた場所を推測する。


「多分、この辺り。それで別働隊がいるとして、そう距離は離れてないはず。西川の森付近に村は?東側の森付近には?」


「いえ、先ほども言いましたが森付近に村は……」


「——オレの住んでいた村か!」


「それだ!」


あぁ! 俺としたことが!

やっぱり、あの村がイベントに関係してたんだ!


「……これは私の失態ですな。ユルグに前にいた場所を詮索することを避けてしまいました」


「いや、オレのせいだ。あの村は訳ありが多く、あまり知られたくはなかった。だが、流石に話が別だ」


「ううん、俺の所為だよ。もっと、その可能性を考えるべきだった」


「御三方、公開は後に。ひとまず、今後の行動を決めましょう」


シオンの台詞に、俺達三人がハッとする。

そして同時に頷いた。


「ヨゼフ爺、どうしよう?」


「出来れば、早ければ早いほど良いかと。しかし、今は夜なので明朝が良いでしょう」


「ふむふむ、編成は?」


「まだ都市が襲われる可能性も残っております。なので、ここは少数精鋭が向かい、後から人員を送るのがよろしいでしょう」


「わかった。それじゃ、俺とシオンは決まり」


「当然です」


「オレも行くぞ」


「オイラも行きます!」


「うん、よろしく」


こうしてて早く作戦を立てた俺達は、明日に備えて眠りにつく。


……ァァァァァ!? パーティーがしたかったのに!


まあいいや! これで破滅フラグを回避して、遠慮なくパーティーするぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る